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3-3: 運命の呼び声 (The Call of Fate)

訓練場の入口を抜けると、遠くからざわめきが聞こえてきた。

何かが起こっているのは明らかだったが、詳細はまだ分からない。

訓練場の中に入ると、そのざわめきの理由がすぐに分かった。


大勢の生徒が集まり、その中心には龍崎修一郎司令官が立っていた。

壇上で冷静な表情を浮かべ、鋭い視線で周囲を見渡している。


俺はすぐ近くにいた遠野美雪と水上凪を見つけ、駆け寄った。


「もうはじまったか?」


「まだ。でも、やっぱり大規模攻略戦の発表みたい」


凪が静かに説明する。


「大規模攻略戦……」


先ほどの美雪の説明のとおりだ。

精鋭のピーターパン部隊だけでは人手が足りなくなるような、大がかりなクエスト。


「100人が参加する特殊キークエストね。特に大規模攻略戦と銘打たれたものは、超高難易度で知られてる……」


「超高難易度……?」


「そう。この10年間で、クリアされたのはたった1つだけ。その時も多くの犠牲が出たらしいわ」


凪が少し表情を曇らせながら補足する。


「なるほどね……」


俺は心の中で戦いの厳しさを改めて実感した。


その時、壇上で龍崎指令が声を張り上げた。


「今回の大規模攻略戦には全100名の精鋭に参加してもらう。ピーターパン部隊以外の参加者は模擬戦で決定されるが――例外として、緋野翠あけのすいは既に内定していることとする」


「緋野翠って誰だ?」


俺は凪に尋ねた。


「うーん、強いけどちょっと変わった子よ。あんまり真面目じゃないし、駄々っ子みたいなところがあって……」


凪が少し困惑気味に答える。


その瞬間、どこからともなく大きな声が響いた。


「やだぁ~!絶対に行きたくないもん!」


その声の主は、ひときわ目立つ少女だった。


俺はその少女を見て驚いた。


髪をゆるく結び、派手な服装をしている彼女は、以前廊下でぶつかったあの少女だった。


彼女は早乙女美月に連れられ、しぶしぶ訓練場にやってきた。


「ほら、彼女が緋野翠。実力は確かなんだけど、ああやって駄々をこねることがあるのよ」


凪が苦笑いしながら教えてくれた。


龍崎指令は冷静な声で言う。


「翠、今回は大規模攻略戦だ。君が参加しないわけにはいかない」


「えぇぇぇ!でも私、疲れてるんだもん!」


翠は不機嫌そうに反論するが、結局は指令の言葉に従うしかない様子だった。


「彼女はピーターパン部隊ではないのか?」


俺は半信半疑で呟いた。


「まだ。でもすでに入隊が内定してる。そのうち冷凍処置を受けるんじゃないかな」


凪が小声で答えた。


その場で俺は考え込んだ。

こんな明るい子が、ゲームをクリアするために冷凍睡眠するのか――。


「昨日だって学校休んで3連戦したんだよぉ」


翠が不満そうに呟いた。


「それで、今日は授業を休んで保健室にいたの?」


美月が呆れた様子で尋ねる。


「だって疲れてるんだもん!ゲームは一日一時間って決まってるじゃん!」


翠は反論するが、美月はため息をついて、


「もう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、翠!」


とたしなめた。


「えぇー、でもやだぁ……」


翠は顔をしかめて駄々をこね続ける。


「いい加減にしなさい!」


美月は厳しい口調で翠を叱りつけたが、その後すぐに優しい表情で言葉を続けた。


「翠、あなたが強いのはみんな知ってるわ。だからこそ、こういう場面ではちゃんと役目を果たさなきゃいけないのよ」


「うぅ……分かったよ、美月ちゃん……」


翠は少ししょんぼりしながら、渋々ながらも頷いた。


「頑張ったら、ケーキホールで食べていい?」


「半分にしときなさい。また太ったぁーとか言うんだから」


「えー! でも、もう少しで食べられなくなるんだよ!」


その言葉に美月の瞳が少し揺れた。


「……わかった。いいわよ。食べきれなかったら、私も手伝うからね」


「はーい! 美月ちゃん大好きー!」


翠が美月に抱きつく。

ほほえましい光景のはずなのに、俺の心は痛んでいた。

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