黒磯風磨に勝利したことで、俺の存在は一気に注目を浴びた。
寮や校内では、「まさか風磨が負けるなんて」という囁き声が至るところから聞こえてくる。
正直なところ、そんな視線を浴びるのは心地よくない。
俺が戦う理由は注目されたいわけじゃない。
俺はただ、妹の葉奈を助けるためにここにいるんだ。
だが、次の日。
学校の食堂でランチを取っていると、近づいてきた二人組がいた。
「すごいじゃん! あいつに勝つなんて! ね、美雪!」
「ええ、私も驚きました。まさか、あの風磨くんに勝つなんて……!」
二人は俺と同じクラスの、いわば同級生だ。
「いや、正直、かなりすっきりしたよ!」
水上凪が興奮気味に言う。
その表情は勝気で、まるで自分が勝ったかのように嬉しそうだ。
「凪ちゃん、風磨くんのこと苦手ですもんね」
遠野美雪は苦笑しながら、少しおっとりとした口調で俺に話しかける。
「苦手じゃない! 嫌いなの!」
と、水上凪は腕を組み、ぷいっと顔を背ける。
「いや、俺は別に……ただ必死だっただけだよ」
と、俺は少し照れくさそうに返すほかない。
「そう言うけどさ、あいつ、ピーターパン部隊を目指してるんだよ? そんなやつに勝つなんて、やっぱりすごいって!」
水上凪が腕を組みながら、勝気な目で俺を見つめる。
「ピーターパン部隊……?」
俺は、初めて聞くその名前に戸惑いを隠せなかった。
「えっ、知らないの? ピーターパン部隊って、SENETの中でも選りすぐりのプレイヤーが集まる精鋭部隊なのよ!」
水上凪が驚いた表情で続けた。
「ま、知らなくても無理ないか。転校してきたばっかだもんね」
「彼らは特別な訓練を受けていて、任務も通常のプレイヤーとは違うんです。とても優秀な人たちばかりですから、憧れる人も多いんですよ」
とm遠野美雪がにこやかに説明してくれた。
「……ふーん、そんなのがあるのか」
俺は曖昧に返した。
「まあ、賢くんならいつかピーターパン部隊にだって行けるかもね!」
水上凪がふっと笑ってから、冗談半分にそう言ってきた。
「私も、賢くんには可能性を感じます!」
遠野美雪は、どこか本気でそう言っているようだった。
俺は二人の様子に少し照れながらも、この学校での生活が少しずつ形を成してきているのを感じていた。
しかし、その矢先に学校内に大きな警報音が鳴り響く。
「何だ……?」
「これは……」
遠野美雪が一瞬戸惑うような表情を見せた。
が、すぐに真剣な顔つきになり、俺に向き直る。
「賢くん、急いでください! ゲームが……SENETが始まります!」
「SENETが……?!」
俺は状況が飲み込めないまま、反射的に駆け出していた。
「ちょっと、待ってよ!」
水上凪の声が後ろから聞こえてくるが、俺は止まらなかった。
「葉奈……!」
妹の顔が浮かび、俺の足はさらに速くなる。