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2-1: New Beginnings(新たな始まり)

転校手続きを終え、俺――灰島賢はいじまけんは新しい寮に足を踏み入れた。


国際軍事同盟ANATが運営する、全寮制の中高一貫校。

国連平和国際学校UNPIS横須賀分校――SENETプレイヤーの育成と訓練のための場所。


文字にしてみると息苦しそうな場所だが……


「思ったより、普通の学校っぽいな……」


学生寮は地上5階。

上から見ると口の字型になっており、向かって右が男子棟、左が女子棟だ。

1階は共同エリアで、食堂があり、風呂、洗濯などは男女別で設けられている。

談話スペースにはソファやテレビもある。


部屋はひとり一部屋。

そこまで広くはないが、エアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼットは完備。

なにより、光熱費は全て国連持ちだ。


部屋に荷ほどきをし、寮の廊下を歩いていると、前から不機嫌そうな少年がやってきた。

俺が避ける間もなく、その肩とぶつかる。


「……気をつけろ」


彼は鋭い目で冷たく言い放った。

身長が高く、強烈な威圧感を感じる。

何なんだ、あの態度は――こっちは悪気があったわけじゃないのに。


「感じ悪いな……」


嫌な気分を抱えたまま、その夜はなかなか寝付けなかった。

新しい部屋に慣れていないせいか、緊張のせいか。

相部屋じゃないのが唯一の救いだった。



――翌朝。

まだ見慣れない校舎へと向かうと、早乙女美月さおとめ みつきが正門で待っていた。

彼女は微笑みは、優しいながらも、どこか力強さを感じさせる。


「おはよ、転校生くん。ようこそ、UNPISアンピス横須賀分校へ。そして、ANATアナト日本支部へ」


その口調にはどこか明るさがあって、こちらも肩の力が少し抜ける。

美月は俺を職員室へと案内してくれた。

そこには何台ものモニターが並び、SENETに関連する情報が絶え間なく流れている。


「ここには、120人くらいしか生徒がいないの。全学年合わせてね。中高一貫の6年制で、1学年に20人くらい。みんなSENETで戦うためにここにいるのよ」


「120人……そんな少ないのか?」


驚いている俺に、美月は軽く笑いながら答えた。


「ここはね、普通の学校じゃないから。その分、施設は充実してるでしょ? なんて言っても、国連が運営してるからね」


確かに、この学校の規模に対して、設備は相当いい。

最初に連れていかれたあの広大な施設も、この学校の地下に広がっているらしい。

 あそこがANAT――つまり国際軍事同盟の日本支部の本部で、学生たちの訓練場でもある。


「SENETはただの娯楽じゃないのよ。世界の命運がかかってる戦いなの。だから、優秀な子どもたちはみんなここに集められるってわけ」


「命懸けの戦い、か……」


少し重苦しい気持ちになった。

俺たちは、遊び感覚で戦っているわけじゃない。

美月が指差したモニターには、SENETのフィールドや敵のデータが映し出されている。


「SENETの基本ルールは“通過ゲーム”。空間収縮が終わる前に、ゲートを通過しなきゃいけない」


「空間収縮……」


俺は思わず口にした。

白波梓しらなみ あずさも同じことを言っていたな。

あのときの戦いが脳裏に蘇った。


「そう、空間がどんどん狭まってくるの。その中でゲートを探し出さないと、圧縮されて……ゲームオーバーね。しかも、その途中にはいろんな罠や、異形のエネミーが待ち構えてる。彼らは“神徒”って呼ばれてるけど……ま、ただの敵キャラだと思いなさい」


「神徒……」


その言葉に、あのとき目の前に現れた化け物たちが脳裏をよぎる。

美月は軽く言っているが、俺にはその“ただの敵キャラ”が恐ろしい存在にしか見えなかった。


「さ、次は編入試験を受けてもらうわ。安心して、相手はBOTだから死にはしない。でもまぁ……ちょっとは頑張ってみてね?」


美月は笑みを浮かべたまま、俺を見つめているが、その背後にある試練の厳しさが伝わってくる。

簡単な試験だとは思えない。


「君なら大丈夫でしょ。転校生くん、期待してるわよ」


そう言い残し、美月は俺を試験場へと送り出した。

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