転校手続きを終え、俺――
文字にしてみると息苦しそうな場所だが……
「思ったより、普通の学校っぽいな……」
学生寮は地上5階。
上から見ると口の字型になっており、向かって右が男子棟、左が女子棟だ。
1階は共同エリアで、食堂があり、風呂、洗濯などは男女別で設けられている。
談話スペースにはソファやテレビもある。
部屋はひとり一部屋。
そこまで広くはないが、エアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼットは完備。
なにより、光熱費は全て国連持ちだ。
部屋に荷ほどきをし、寮の廊下を歩いていると、前から不機嫌そうな少年がやってきた。
俺が避ける間もなく、その肩とぶつかる。
「……気をつけろ」
彼は鋭い目で冷たく言い放った。
身長が高く、強烈な威圧感を感じる。
何なんだ、あの態度は――こっちは悪気があったわけじゃないのに。
「感じ悪いな……」
嫌な気分を抱えたまま、その夜はなかなか寝付けなかった。
新しい部屋に慣れていないせいか、緊張のせいか。
相部屋じゃないのが唯一の救いだった。
――翌朝。
まだ見慣れない校舎へと向かうと、
彼女は微笑みは、優しいながらも、どこか力強さを感じさせる。
「おはよ、転校生くん。ようこそ、
その口調にはどこか明るさがあって、こちらも肩の力が少し抜ける。
美月は俺を職員室へと案内してくれた。
そこには何台ものモニターが並び、SENETに関連する情報が絶え間なく流れている。
「ここには、120人くらいしか生徒がいないの。全学年合わせてね。中高一貫の6年制で、1学年に20人くらい。みんなSENETで戦うためにここにいるのよ」
「120人……そんな少ないのか?」
驚いている俺に、美月は軽く笑いながら答えた。
「ここはね、普通の学校じゃないから。その分、施設は充実してるでしょ? なんて言っても、国連が運営してるからね」
確かに、この学校の規模に対して、設備は相当いい。
最初に連れていかれたあの広大な施設も、この学校の地下に広がっているらしい。
あそこがANAT――つまり国際軍事同盟の日本支部の本部で、学生たちの訓練場でもある。
「SENETはただの娯楽じゃないのよ。世界の命運がかかってる戦いなの。だから、優秀な子どもたちはみんなここに集められるってわけ」
「命懸けの戦い、か……」
少し重苦しい気持ちになった。
俺たちは、遊び感覚で戦っているわけじゃない。
美月が指差したモニターには、SENETのフィールドや敵のデータが映し出されている。
「SENETの基本ルールは“通過ゲーム”。空間収縮が終わる前に、ゲートを通過しなきゃいけない」
「空間収縮……」
俺は思わず口にした。
あのときの戦いが脳裏に蘇った。
「そう、空間がどんどん狭まってくるの。その中でゲートを探し出さないと、圧縮されて……ゲームオーバーね。しかも、その途中にはいろんな罠や、異形のエネミーが待ち構えてる。彼らは“神徒”って呼ばれてるけど……ま、ただの敵キャラだと思いなさい」
「神徒……」
その言葉に、あのとき目の前に現れた化け物たちが脳裏をよぎる。
美月は軽く言っているが、俺にはその“ただの敵キャラ”が恐ろしい存在にしか見えなかった。
「さ、次は編入試験を受けてもらうわ。安心して、相手はBOTだから死にはしない。でもまぁ……ちょっとは頑張ってみてね?」
美月は笑みを浮かべたまま、俺を見つめているが、その背後にある試練の厳しさが伝わってくる。
簡単な試験だとは思えない。
「君なら大丈夫でしょ。転校生くん、期待してるわよ」
そう言い残し、美月は俺を試験場へと送り出した。