「一体、どこに連れていくつもりですか?」
俺は声を震わせながら問いかけた。
目隠しされ、手足を拘束されたまま、車の中に押し込まれている。
何が起きているのか全くわからない。
「すぐにわかるわ。安心して、危害は加えないから」
前方から、女性の声が響く。
「安心……できるわけないだろ!」
俺は息を詰まらせ、冷静さを保とうと必死だが、全然状況が掴めない。
「
その女性は、穏やかでありながらも、妙に自信に満ちた声で自己紹介をした。
「早乙女さんね……。で、どうして俺をこんな目に……」
「それもすぐに説明するから。でも、今はおとなしくしててくれる?」
そう言って、美月は軽く流すように会話を切った。
車内は静かだ。
俺は何に巻き込まれたのか頭を巡らせながらも、手足の拘束の不快感が頭に重くのしかかる。
現実に戻ったはずなのに、むしろ状況が悪化しているようにしか思えない。
やがて、車が停車し、誰かに引っ張られるようにして降ろされた。
目隠しが外され、周りを見渡した瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「なんだ、このバカデカい施設は……?」
目の前には、まるで要塞のような巨大な建物がそびえていた。
高い壁と、重厚な鋼鉄の門。
普通の施設とは思えないその威圧感に、俺は圧倒される。
「ようこそ。ANAT《アナト》の日本支部へ」
美月は俺の驚きを楽しむように微笑んだ。
「は……? なんだそれ……?」
「ANAT――世界二百カ国以上が加盟している組織の名よ。正式名称はAssociation of Nations Against Threats――脅威に対抗する国家連合」
「だから、意味わかんねえって!」
「要するに、SENETプレイヤーを支援するための国際軍事同盟ってとこね。ここはその日本支部ってわけ」
「SENETのプレイヤーを……支援する? 待て、なんで俺が?」
俺は混乱し、美月に問い詰めた。
「だってあなた、SENETをプレイしたでしょ?」
「いや、プレイしたくてしたわけじゃないんだ!」
「意図的じゃないことはわかってる。あなた、そしてあの子の強制ログインの原因については、こちらとしても現在調査中だから」
「あの子? あの子って……誰のことだよ?」
俺の胸に不安が募る。
その時、俺の目の前に、ゆっくりと移動式ベッドが運ばれてきた。
ベッドには、小さな人影が静かに横たわっている。
「……葉奈?」
俺の心臓が一瞬止まったかのように感じた。
ベッドに横たわっているのは、俺の妹、
葉奈はすやすやと眠っているように見える。
だが、その様子は異様に穏やかで、深い眠りに閉じ込められているかのようだった。
全身に冷たい汗が流れ、体が硬直する。
「どうして……どうして葉奈がここに……?」
俺の混乱は限界に達し、言葉にならない。
美月は俺の肩に軽く手を置き、落ち着かせるように語りかけた。
「これからすべて話すわ。あなたがどうしてここにいるのか、そして妹さんがどうして目を覚まさないのか、ね」
俺はただ立ち尽くし、眠る葉奈を見つめながら、自分が何に巻き込まれたのか。
――そしてこれから何が起こるのかを考え巡らせていた。