目の前にそびえる巨大な門、高さは10メートルはあるだろう。
その向こう側にあるものが、俺たちのゴール。
――
「ちくしょう! 追手がうっとうしいな!」
俺は走りながら、追ってくる化物の脳天を打ち抜いた。
「ナイスショット」
「そりゃどうも」
言いながら、また撃つ。
あの門をくぐれば、すべてが終わるのか?
安堵と焦りが入り交じり、胸がざわめく。
そして何とか無事に、門へとたどり着いた。
「ゴールか……!」
息を切らしながら俺は呟いた。
「うん、そうだね」
梓が微かに笑みを浮かべるが、その笑顔はどこかぎこちなかった。
「なあ、あんた……本当に大丈夫か?」
俺は不安を隠せず、梓に問いかけた。
一瞬だけ俺に視線を向けた梓は、すぐに遠くを見るような目をして言った。
「大丈夫じゃない。でも、もうすぐ終わるから」
「終わるって……どういうことだよ?」
俺は問い返すが、梓は静かに門の方へ歩き出した。
俺も急いで追いかけるが、違和感が強まっていく。
「……は?」
門を超えた彼女の体が、白く発光した。
まるで光に溶けていくかのように、どんどん薄れていく。
「待て、あんた……消えかかってるぞ!一体、何が起きてるんだ?」
梓は立ち止まり、俺の方を振り返った。
「これが、この世界――SENETのルールなんだよね」
穏やかな表情を浮かべたまま、静かに答える。
「私たち、クリアしたの。だから……私はログアウトするだけ」
「なんだ……ログアウトかよ」
俺は安堵した。
「じゃあ、またなんかの拍子にログインしたら会えるかもな」
「……それは、あんま嬉しくないかも」
梓は苦笑いを浮かべる。
「どうしてだよ?」
「うーん、なんでだろうね」
梓はふっと肩をすくめるようにして笑った。
だが、その笑顔は少し悲しげだった。
梓の体がさらに透明になっていく。
彼女は最後に一度微笑み、手を振って言った。
「じゃあね、賢。また会う時まで」
次の瞬間、彼女の姿は完全に消えてしまった。
「梓……?」
俺はその場に立ち尽くし、彼女がいた場所を見つめ続けた。
言葉が出てこない。
ただ、空虚な感覚だけが残った。
……――。
突然、視界が揺れ、気づいた時には、俺は現実の世界に戻っていた。
俺もログアウトしたのだろう。
しかし、ログインする前と、状況は大きく変わっていた。
「なんだ……これ」
目の前には、黒服の男たちが並んでいた。
周囲は黒い車に囲まれており、その中の一台のドアが開いた。
一人の女性がゆっくりと降りてくる。
「君、少し時間をいただけるかしら?」
声は穏やかだが、確かな威圧感を感じさせる女性だった。
彼女は微笑みの背後には、何か大きな運命が待ち受けているように感じた。