俺は周囲を見渡し、使える物資を探し始めた。
敵がすぐに迫ってくるのはわかっている。
何か武器になるものを手に入れなければ、梓を守りきれない。
「もう来るのか……!」
緊張が走る。
目の前で倒れている彼女を守る手段はあるのか?
自分の無力さに苛まれながらも、必死に考えを巡らせる。
「これか……?」
目に飛び込んできたのは、古びた銃の残骸。
使えるかわからないが、手に取ってみると意外にもしっかりしている。
VRゲームで慣れた感覚が手に蘇る。
「あるもんでやるしかねえ…!」
俺はその銃を構え、建物の角に隠れた。
敵の動きを予測しながら、じっと待つ。
これまでゲームで積み重ねてきた経験が、こんな状況で役に立つとは思わなかった。
「冷静に……一発で決めるんだ……」
遠くに異形の怪物が見えた。
ゆっくりとこちらに向かってきている。
俺は深く息を吸い、クロスヘアを脳天に合わせて引き金を引いた。
銃声が響き、敵の頭が吹き飛ぶ。
「悪りぃな。角待ちは得意なんだよ」
そのまま怪物は倒れた。
「……やるじゃん」
振り返ると、梓が意識を取り戻していた。
彼女はまだ朦朧としているが、俺にしっかりと視線を向けている。
「大丈夫か? 名前、言えるか?」
「……名前? コードネームじゃなくて?」
「そうだ、ちゃんとした名前だよ」
「梓……
「梓か。俺は灰島賢だ。賢でいい」
その瞬間、瓦礫が飛んできて俺の体をかすめる。
痛みが走ったが、俺はすぐに銃を構え直し、再び敵に向かって撃ち込んだ。
「ちっ……敵の数が多すぎる! 弾薬が持たねえ!」
次々と現れる怪物たちを撃ち倒していくが、数は一向に減らない。
「梓! あの門に行けば助かるんだよな?」
彼女は疲れた顔でしっかりと頷いた。
「うん……あそこがゴール。行けば……クリアできる」
それがSENETのルール――ゲームとして割り切りたいが、現実の痛みと恐怖がそれを許してくれない。
「よし、乗れ!」
「え、ちょっと…っ」
俺は梓を無理やり背負い上げ、廃墟から走り出した。門に向かって一心不乱に走ると、異形の怪物たちが次々と現れた。
「逃げるのは趣味じゃねえんだけどな……!」
俺は走りながら、敵の動きを冷静に予測していた。
ストレイフを繰り返しつつ、タップ撃ちで的確に弾を当て、敵の攻撃を避けながら進む。
敵の攻撃を交わしつつ、追尾してくる敵に次々と弾丸を撃ち込む。
ゲームで磨いたエイム力がここでも生きている。
俺は冷静さを保ちながら、リコイルを制御し、頭を狙って正確なタップ撃ちを続けた。
追撃してくる敵を次々と倒し、視界の先に、ゴールであるクリアゲートが見えた。
「あと少し……!」
俺は梓を担ぎ直すと、そのままクリアゲートへ向かって全力で駆け抜けた。
だが、背後から迫る無数の敵――八つ腕の怪物が恐ろしいスピードで追いかけてくる。
普通じゃない、明らかに異形の化け物だ。
焦りで心臓が早鐘を打つが、俺は歯を食いしばって前に進むしかない。
「なあ、
焦りが頂点に達し、思わず梓に問いかける。
だが、彼女はまるで気にしていない様子で、肩をすくめて返してきた。
「まあ、ヤバいけど……やるしかないよね」
梓の軽い言葉に、俺は少し動揺しながらも、彼女の冷静さに安心しようとした。
「それに、後ろだけじゃねえ!」
俺の声に反応するように、巨大な岩の影からデカブツが現れた――まるで牛の化け物だ。
巨大な角を揺らし、地面を踏みしめる度に大地が震える。
「えー、マジか……またあれか」
梓はやや面倒そうに溜息をつきながら、俺の背を降りると、剣をしっかり握り直し、一歩前に踏み出した。
「ま、こんなこともあるよね。どうせやらなきゃ帰れないしさ」
そう言って彼女は笑った。
が、その直後、梓は足を引きずるようにして前進する。
怪我が痛むのだろう。
「梓、無理すんなよ! 俺がやるから!」
「だいじょーぶ。私、少し休めばかーなり回復するタイプだから」
「でもよ……っ」
俺が何か言おうとした瞬間、デカブツが巨大な拳を振り上げた。
梓に向けて振り下ろされるその瞬間、俺はとっさに銃を構えた。
「いきなり拳骨とか、マジ勘弁だって!」
梓が身をかわしながら、軽口を叩く。
その言葉に一瞬焦りながらも、俺は角待ちの位置から狙いを定め、デカブツの拳を撃ち抜いた。
巨体がよろめき、攻撃が止まる。俺はその隙に再び銃を構え直し、連射で相手を攻撃する。
だが、敵の数が多すぎる。
後ろにも、前にも次々と敵が迫ってくる。
「くそ……! キリがねえ!」
その時、梓が俺の隣に来て、軽く笑った。
「次は私が引きつけるから、タイミング合わせて」
「ああ、わかった!」
梓は再び前に出て、デカブツの足元に飛び込んだ。
俺も即座に銃の照準を合わせる。
ヘッドショットを決めるべく、クロスヘアを固定し、完璧な位置で引き金を引いた。
「今だ!」
弾丸が正確にデカブツの脳天を貫き、その巨体が揺れる。
梓はその隙を逃さず、一閃の剣撃で怪物の胴体を貫いた。
怪物が大きなうなり声を上げながら、ついに崩れ落ちた。
「よし……やったぞ!」
俺たちは息を整えながら、倒れた怪物を見下ろす。
緊張が一気に解け、達成感が湧き上がる。
「お疲れさま、賢。なんだかんだで、やるじゃん」
梓も微笑んで言うが、その顔には疲れが滲んでいる。
「いや、助けてもらったのは俺の方だよ……でも、これで終わりか?」
俺が問いかけると、梓は静かに首を振った。
「まだだよ」
梓が指さす先には、巨大な門がそびえ立っている。
「そろそろ空間の収縮が始まる……あのゲートをくぐらないと、全てが消えちゃうから」
「空間の収縮……?」
「この世界が消えるってこと」
その一言に、緊張が再び高まる。
俺は、危機が迫っていることを実感した。
「なるほどな……ここまできて消えるのはごめんだ」
俺はその場でしゃがみ、梓に声をかけた。「ほら、乗れよ」
「え、また? まあ、いいけど……」
梓は俺の背中に軽く乗った。
彼女は少し戸惑いながらも、俺の肩に手を置いた。
「じゃあ、賢、よーいどんで」
「ああ」
俺たちは肩越しに目を合わせ、一斉に息を吸った。
「「よーい、どん!」」
世界が崩れていく音が背後から聞こえる。
門に向かって、命がけのレースが始まった。