息が荒い。
足元がふらつき、膝が震える。
それでも俺は、どうにか廃墟の一角に彼女を横たえた。
目の前で倒れている少女――まだ意識が戻らない。
「まだ……起きないか」
彼女の顔は青ざめ、戦闘で負った傷が深い。
俺は無力感に苛まれながら、どうすればいいのかを必死に考えた。
この場所に留まれば、また敵が襲ってくる可能性がある。
しかし、俺にはどうするべきかの答えが見つからない。
「どうすんだよ……」
自問自答しても、答えは出ない。
ゲームの中では戦えても、現実の戦場なんて経験したことがない。
俺が彼女を守れるのか、自信は全くない。
ただ、彼女が助けを必要としている。
――それだけが、今の俺を動かす唯一の理由だった。
その時、彼女の装備についていた小さな通信装置が突然光を放ち、音を立て始めた。
「……これ」
恐る恐る装置を操作すると、画面が開き、緊急メッセージが表示される。
「……任務情報?」
その文字を読み進めるたび、胸の奥がざわついた。
彼女はこの異世界――SENET《セネット》と呼ばれる場所で、重要な任務を背負っているらしい。
単なる戦士ではなく、何か重大な役割を持つ存在のようだ。
「巻き込まれたってことか、俺は……」
ただのゲーム好きの高校生の俺が、こんな戦場に放り込まれ、戦わなきゃならないなんて想像もしていなかった。
そして、目の前で倒れている彼女は、命を懸けてこの世界で戦っている。
「でも……」
無防備に横たわる彼女を見て、胸が締め付けられる。
このまま彼女を見捨てるわけにはいかない。
もし敵が再び襲ってきたら、彼女は命を落としてしまうかもしれない。
「俺が戦わなきゃ、誰が彼女を守るんだ?」
自分に問いかけるように呟いた瞬間、心の中で何かが変わった。
俺はこの世界に巻き込まれた。
そして、生き延びるためには戦うしかない。
そう考えた途端、覚悟が生まれた。
「やるしかないか……」
その時、彼女がかすかに呟いた。
「……通過ゲーム……ここは……」
「え? 何?」
彼女は弱々しく目を開け、俺を見つめながら続けた。
「ここは……SENET《セネット》……通過ゲーム……」
「通過ゲーム? それってどういう意味だ?」
彼女は遠くに見える大きな門を指差した。
「ゴールは……あの門……あそこが……出口……」
俺は彼女が指差す方向を見た。
確かに、異様に大きな門が遠くに見える。
これが、この世界の出口だというのか?
「敵は……人類よりも……上位の存在……」
彼女は限界に近い声で言った。
「ごめん……後で説明する……今は……とにかく逃げて……」
俺はすぐに彼女を支えた。
上位存在の正体について詳しく聞きたいが、今はそれどころじゃない。
「逃げるって……あんたを置いていけるかよ……」
彼女は再び意識を失っていた。
俺は深く息を吸い、次に何をすべきかを考える。
彼女を守りつつ、あの門に向かう。
それがこの「通過ゲーム」のルールなら、やるしかない。
「よし……決めた」
俺は覚悟を決め、彼女を抱きかかえながら歩き始めた。