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第25話 後日譚


 そんなこんなで俺達は無事金の鍵を二本入手することに成功!

 アイリーンさんに提供することで蘇生の場に立ち会った。


「本当に、蘇生の瞬間を全世界に公開しちゃって良かったんですか?」

『いいのよ。実際にどれほどの作業がかかるかを見てもらわなきゃ、今後も無理難題なお仕事が舞い込んでくるもの。ポーションは結構使うけど平気よね?』

「シルバーボックスなら在庫ありますんで、足りなかったら言ってください」

『本当に、規格外なんだから。じゃあ、始めるわよ』


 カメラがソウルコアから半分蘇生させた肉体へズームアップする。この状態ではまだ死体だ。

 だが、アイリーンさんが魔法を唱えながらポーションを振り掛けた場所が、みるみる肌の色が良くなっていく。もうここまできたら植物人間くらいの完治度だろう。


 しかし肝心の魂の定着がまだである。

 肉体だけが復活しても、どうしょうもないのだ。


<コメント>

:蘇生って、こんなに手間かかるもんなんや

:蘇生場面見せるのなんて世界初じゃね?

:グロいグロいグロい

:皮膚ついてる状態でグロいはないわ

:この子達、本当に死んでたんだな

:それ 遺族の被害妄想かと思ってたわ

:死んでなきゃあそこまで騒がないんよ

:仮に死んでたとしても、あれは酷いと思うが?

:ソウルコアからの素性はマジでグロ耐性ないときついからな

:先に肉体復元してるのは助かる

:待って、もしかしてこれ、先にポーション使ってるから後から請求される系では?

:ありうる

:そこをなんとか

:なんとかならんよなぁ、大事な娘なら今からでも死ぬ気で働いてもろて

:肉体復元はマジで閲覧注意だから正解

:俺はソウルコアの状態を見てるから言えるけど、マジで完治するのな

:ここからが難しいのよ

:そうそう、これで魂が定着しなかったら今までの苦労パァだからな

:シッ 始まるぞ


 アイリーンさんの子守唄のような詠唱。

 クラスメイト達の体の上に、眩いばかりの光が満ちる。

 コメント欄で、これが魂なのだと教えてもらった。

 そばにあるスキルコアが呼応するように色味を増した。


『宿ったわ』


 額の汗を拭うように、アイリーンさんはほっと一息つく。

 たった一人の施術で、寿命を数ヶ月分浪費したみたいな焦燥具合。コメント欄ではどれほどの消耗具合か、予測されてる。


 遺族達は立て続けに二名の組成が行われると思っていたのだろう。しかし見るからに倒れそうなほどの消耗具合に続行の声を上げる人はいなかった。


「お疲れ様です。ポーション飲みます?」

『いらないわ。私の疲労度まで引き継いで直しちゃうもの。この症状を治すのは、きっちり休んでメンタルケアをして、軽い運動をこなさないとダメなの。だからね、数日休むわ』


<コメント>

:蘇生ってマジで重労働なんだな

:施術するまでは、あんなに生気に満ち溢れていた人が、こんなに枯れるのか?

:27連勤したってあそこまで疲れ果てないぞ?

:むしろ寿命縮んだ?

:蘇生待ちしてる親御さん達は気が気じゃないだろうけど、これ、下手したら特急聖女を無理させたってことを理由に聖女教会から訴えられるんじゃね?

:あり得そう

:でもあの教会は、蘇生にここまで命懸けとか表に公開してないよな。なんでだ?

:そら、あまり大変アピールしたら仕事取りこぼすからでそ

:教会にとっては聖女は消耗品かな?

:聖女ェ……

:こりゃ、聖女人口増えないわけだわ


 コメント欄で並べられてる通り、この仕事は寿命を削って成り立っているように感じた。

 今回アイリーンさんが世界に向けて発表することで、バカげた蘇生依頼は回ってこないことを目論んだと思うが。

 俺の直感は告げている。


 自分勝手なやつは、自分さえ良ければいいので、今後この手の仕事は減らないだろうこと。

 そして……俺の今後ももっと真剣に考えなきゃいけないと思った。


 それから二週間後。

 もう一人のクラスメイトを蘇生して、アイリーンさんはオーストリアに帰って行った。

 見てられないくらいに憔悴していたので、お土産にレインボーボックスと虹の鍵を持たせたら咽び泣いていた。


 そんなちょっとした冒険を終えて……俺はというと。

 普通に高校生を続けている。


 理由は単純明快。

 親父の真似して探索者をやったところで、前回の配信と同じような乞食が絡んでくるのが目に見えているからだ。


 けど、俺と違ってシンは前向きに探索者として頑張っているらしい。今は俺の親父と一緒に自分の父親のソウルコアを探し回っている。


 芸能事務所はやめて、また一からスタートしたらしい。

 一時期はCランクまで上げた地位だが、今は進んでDで止めていた。

 お金を稼ぐ以上のやり甲斐を見つけたらしい。


「頼忠! お前の親父さん、一体何者なんだ? なんであの実力でDなんだよ。果てしなく納得いかないんだが」


 そこに気づいちゃったか。

 なんだかんだ蓬莱さんが絶賛するぐらいの腕はあるんだよ。

 どこかの誰かを蘇生させるために必死なだけでさ。


「おはよう、シン。親父曰く、ランクで人は量れねぇらしいぞ?」

「なんだそれ」

「わからん。実際俺は探索者でもなんでもない一般人だ」

「本当にもったいないよ。頼忠強いのに」

「そうはいってもあのまま続けたらどうなるかわかるだろ?」

「まぁ、その場にいた僕ですらクレクレ死ねって思ったからね」


 実際にそう思っても、口に出すのはやめといた方がいいぞ?

 世の中どこでそれが自分の首を絞めるかわかんないからな。


 シンはあれから俺に対して厳しく当たることはしなくなった。

 どちらかと言えば、昔以上に俺にべったりな気がする。

 一時期嫌な奴だったが、今じゃ親友扱いに昇格だ。


 クラスの態度も俺に向ける不躾な視線はなくなり、嫌悪感も緩和されたように思う。

 そして、蘇生されたクラスメイト達も……


「おはよう、飯句君」

「狭間さん、おはよ。体調に変化はない?」

「今のところは。ただ、ずっと身体を動かしてなかったから、リハビリが必要みたいなの。運動苦手なのに」


 低血圧気味なのか、朝が弱い狭間さん。

 対してもう一人はというと。


「おはよー世界! あたしがきたぜー!」

「あたしもきたぞー! みんなおはよう!」


 春日井小波&要石さんはハイテンションでクラスの扉を力強く開けた。勢い良すぎて扉が壊れるんじゃないかと思うほどにパワフルである。


 要石さんもあの戦いでレベルが上がって、超人の枠組みに入ったもんなぁ。

 けれど春日井さんは恐れることなく要石さんと付き合っている。


「おはよ、二人とも」

「なんだー飯句? 元気ないぞ?」


 春日井さんに背中を殴打されるが、まるで痛くない。

 平気そうにしてると、要石さんが追撃したので、これは素直に回避した。


「ちょっとー頼っち、あたしの気合い注入だけ回避するとか酷くないー?」

「俺も健康には気をつけてるんだよ、要石さんの攻撃力で殴られるとかまじ勘弁」

「許してあげてよ要石さん、頼忠のステータスは貧弱なんだ」

「言うに事欠いてそれはどうかと思うな〜!?」

「おう、お前ら席につけ。出欠取るぞー」


 こうして、穏やかな一日が始まり、急速に過ぎ去る。


「めーしーくーくーん! ダンジョンにもーぐりーましょ!」

「悪い、今日予定あるから」

「そう言って、昨日もパスしたじゃん? これで五度目よ?」

「やることってなんだよ、今日こそは参加してもらうからな!」

「忙しいんだよ。誘うなら他の+1誘えよ。それとも、俺じゃなきゃいけない理由でもあんの?」


 学校生活で一番億劫なのは、帰宅時のパーティ勧誘の声ぐらいか。

 俺は毎回やることがあるからと誘いを断ってきていた。

 だが今日に限って、妙にしつこい。

 理由はなんとなくわかる。上からせっつかれているのだろう。


 前回の配信で気前よく配りすぎたのが大元の原因である。


「他のやつはほら、宝箱を開ける前で気絶しちゃうんだよ。飯句なら実戦で戦えるし、なんなら宝箱も複数出せるじゃん?」

「結局他力本願じゃねーか。それ、お前らが行く意味あんの? むしろ俺一人で行っても同じことじゃね? はっきり言えよ。宝箱が欲しいって。ワンチャン中身も狙ってんだろ? だから俺を誘ってるんだって認めちゃえよ」

「その通りだよ、ちくしょう! わかったらさっさと着いてこい! 今日という今日は逃さないからな!」


 とか言って囲い込んでくる同じ学校の奴ら。

 全く。お前らは配信で俺の能力を目の当たりにしながら、まだ実力差が分かってないようだな。


「お前とお前、レベル幾つ?」

「は? それが今関係あんのかよ!」

「大有りに決まってんじゃん。探索者にとってはまず第一にステータス。その次にレベルが全てと言っていい。で。お前らいくつ? 格上のレベルを誘う際にどれくらいのマージンを払うか知ってるかの質問も兼ねてさ」

「え、14だけど」

「そうか、残念だったな。俺は100だ」

「は? そんなんSランク相当じゃんか!」

「どうせわからないと思って出鱈目言ってるだけだろ!」

「そーだそーだ!」


 先輩達は捲し立てるように抗議するが、悪いけどこれが探索者のルールなのよね。ちなみに俺は厳密には探索者じゃないけど、同等の権限を持っている。天上天下の一員ということでの特例措置だ。

 ただの学生のままで、ダンジョンに入るのは色々まずいらしい。


「あちゃー、なんも知らないのな。いいか、お前ら。俺は腐っても天上天下の一員だ。それを一時的にでもパーティに入れるっていうことはだよ? 天上天下の事業に穴を開けるってことだ。その損失をお前らは払えるのかって言ってんの」

「一時間でいいから! 頼む!」

「俺に頼まれてもなー。交渉するならクランに言ってよ。じゃ、ほんとに用があるからさ。俺はこれで帰るわ」


 物理的に相手の攻撃を回避しながら、目的の場所までいくと。


「頼っち、遅いぞ」

「悪い悪い。勧誘がしつこくてさ。今日はどこのダンジョン行くって?」


 先に天上天下に来ていた要石さんに話を聞き、最寄りのダンジョンセンターへと電車を乗り継いでダンジョンへと向かう。


「ようこそ、おいでくださいました。お話は伺っております。今日はよろしくお願いします」

「いえ、やりたくてやってるんで。ただし、蘇生の方までは責任を負いきれませんが」

「いえ、見つけ出してくれるだけで遺族の方も喜びますから……」


 あの日、配信を通して俺が発掘したライフコア達は、多くの遺族達の手に渡って、連日に渡って感謝の手紙が届いた。

 それに味を占めたわけではないが、俺の能力を活かす道があるならここだ、と改めて自分の道を決めたわけである。


 要石さんは【洗浄】要因として手伝ってくれている。

 本当は聖女協会からお誘いを受けていたんだけど、配信での聖女のあり方に疑問を抱いて、俺と同様に自分の力を活かせる場所を選んでくれたのだ。


「すいません、今日はこれぐらいで上がります。要石さん、収穫物出して」

「オッケー」


 じゃらじゃらと磨き抜かれたライフコアが16個。

 それ以外のアイテムは、寄付としてお金に変えて募金箱に投入した。


「お疲れ様でした」

「また来ます」

「お待ちしております」


 ダンジョンを去る時の、なんとも言えないようなやり遂げた感。

 この心地よさが、仕事したなーって気持ちになるのだ。

 ソウルコアを受け取った方も満足、俺たちもお手伝いできて満足。両者ウィンウィンの関係が出来上がるのだ。


 そう、配布配信の時のような、全方面に喧嘩を打ってギスギスするような探索、二度とごめんだね!

 俺は親父に誇れるような立派な探索者になるんだ!


 だからこれはまだ小さな第一歩だとしても、子孫に託せる偉大な一歩なのだと自分に言い聞かせた。

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