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第22話 金の鍵を得られるまで帰れま10! その4

 二階層を危なげなく進んだ俺たちは、三階層から様子を変える世界観に若干頭を抱えていた。


「有翼種だ!」


 そう、広いフィールドに翼を持つ悪魔が上空で獲物を狙い定めてるのだ。

 しかも夜と言う時間が固定されている状態で。

 俺のラックアサルトの矢の出番なのに、相手は動き回り俺の視力はあまり良くないと来ている。


「頼忠、僕のエンチャントを受けて見る気はないか?」

「効果を詳しく」

「要は当てた対象に【延焼】効果を追加するものだ。ここはランクBの三階層。多分お前のラックアクセルによるダメージでも耐えるモブも出てくる。なら【延焼】させて上空を明るくさせて、頼忠の【+1】による追加効果を狙ったほうがいいと思うんだ。こっちには魔法を防ぐ手段もある。どうだろう?」

「乗った」

「ならば早速【フレイムエンチャント】」


 シンの詠唱と共に、俺の体に熱いものが漲ってくる。

 俺は勘で音だけを頼りに弓を構えて矢を放った。


 ────────────────────


<飯狗頼忠の攻撃>

 レッサーデーモンに2500のダメージ!


<炎のエンチャント発動!>

 レッサーデーモンに1000の追加ダメージ!

 レッサーデーモンは炎を振り払えない!

 レッサーデーモンに【延焼】ダメージ!

 1000ダメージ!

 1000ダメージ!

 1000ダメージ!

 レッサーデーモンは燃え尽きた!


<レベルアップ>

<レベルアップ>


 レインボーボックスを手に入れた


 ────────────────────


 おーおーよく燃えるわ。

 そして暴れ回ったことで他の個体に飛び火して、夜の世界を彩ってくれる。


 しっかしシンの魔法効果も加味されるから、俺の幸運の半分で倒しきれなくても追加ダメージで勝手に始末した。

 そしてドロップの方で現れた虹色の宝箱についてコメントが加速していた。

 いや、わからんでもねーけど。


<コメント>

:虹の箱!? 確かに虹の鍵の目撃例はあるけど箱の方は初めて見る

:いや、目撃例は非常にマイナーだがあるにはあるぞ、セットでは見たことがないだけ

:もし虹の鍵まで入手したらすごい事になるぞ!

:これは金の鍵どころではなくなってきましたな!

:【+1】君、なんとか鍵もセットで手に入れて! あと可能な限り安く市場に流して!


 ここで新たな話題の提供。

 あんたら、俺たちが何しにここにきてるか忘れてんでしょ?

 道中でドロップした箱に興味示してんじゃねーよ。


 いや、俺も新しい武器の入手にワクワクしてるけど、中身への興味はあんまりないんだわ。ゴメンなー?


「おめでとう、頼忠」

「お前のおかげだぜ、相棒。ただエンチャントの追加効果で倒した事から俺の【+1】が発動しなかった。頼りにはなるが、この先の事を考えたら頼りすぎてもダメな気がする」

「今回のは偶然だろ。階層が深くなる程ワンキルゾーンは遠ざかっていく。なんせ僕のレベルも40だ。頼忠程じゃないが、エンチャントの追加効果だって上がってると思う」

「まぁな、俺もさっき52になった」


<コメント>

:相変わらずレベルの加速度が頭おかしい

:雑魚倒して上がるレベルじゃないんよ

:レベルアップ時に0.1%×幸運でもう一つレベルが上がるドン!

:50の時点で5000だろ? 実質500%な件

:設定がバグってるとしか思えん

:まず、そこまで生き延びてる奴が皆無なだけ

:幸運高くてもそれ以外が1だとなー

:何度考えても生き残ってるのが不思議

:もう存在自体がバグってるだろこの子

:レベルでマウント取ってたプロ達が何も言わなくなったしな


 そう。三階層での活躍により、どこか上から目線で忠告してきた自称プロ達はこぞってコメント欄から撤退していた。

 たまに博識おじさんがいろんな情報を教えてくれたり、俺たちに知識の共有をしてくれるのがとても役に立つ。


 あとはシンを犯罪者扱いせずに俺の出したドロップ品を皮算用するメンツだけが残った。

 良いのか悪いのか、欲望に忠実な奴らである。


 もうこの【+1】【洗浄】【フレイムトーチャー】の構成になんら疑問を持たない人だけが残ったのは良い傾向か?

 それでも同時接続3万人なあたり、探索者に夢見る一般人の多さが窺えるというものだ。


 本当なら上位探索者が出てきてくれてもいいのだが、あまりにも俺たちの装備が眩しく、苦戦したモンスターがバッタバッタと倒されていく荒唐無稽さに脳がバグってしまったのだろう。

 悪質なコメントを残していた者達と同様に駆逐されてしまった。


 今では発掘して要石さんにアルバイトで洗ってもらったライフコアを引き取りに来た所謂【探索者の嫁】が感謝のお言葉を伝えにくる場も兼ねている。


 こんな場所へ殺人鬼、愉快犯など書き込みしに来るやつはそうそう居ない。

 たまに見かけてもすぐに蓬莱さんが処罰してくれるので実に快適に探索ができるのである。


 と、こんな事を語ってる間に戦闘が終わった。

 シーンは映さないのかって? 

 流れ作業に割く余白はない!


「よーし、レッサーデーモン討伐完了。視聴者プレゼントの抽選会をしていくぞー」


<コメント>

:待ってました!

:虹の箱! 虹の箱、なんなら鍵とセットでください!

:欲望がダダ漏れすぎんだろ、まぁできれば俺も欲しいが、俺は謙虚なんで虹の盾でいいぞ?

:売れば600億の資産が手に入る願望は謙虚じゃないんよ

:価値がつけられるかつけられないかは中身次第なんだよなぁ

:でも初めに開けるのは俺でありたい

:あーもうなんて配信してんだここは! 射倖心強すぎんぞ!

:別に金払えって言われてるわけじゃないから良いべ?

:もっと悲壮な感じの配信かと思ってたのに、期待してたんと違う

:ここにまだ残ってる視聴者は乞食の集まりだよ

:ウィザーチュー


「つまり一回開ける必要があるわけだな? 運良く手に入ったら要石さんかシンがジャンケンして買った方が開けていいぞ?」


<コメント>

:ぐあーーーー

:そんなご無体な!

:だが今回のルールは【+1】と【フレイムトーチャー】が各種一本ずつ金の鍵をゲットするのが条件であり、そこに虹の鍵は含まれてない。ラストアタックが【+1】なら確定で複数個はもらえるが【フレイムトーチャー】に限っては未知数だ。戦力は上げておくに越した事はないか

:今ここにいる視聴者はそこまで考えてるやついないぞ

:まず探索中に視聴者へプレゼントを配ろうって発想が狂ってる

:普通はそんな余裕ないんよ

:ここがBランクだって一瞬忘れそうになる緩さだもんな

:徘徊モンスターですぐ思い出すけどな

:装備さえ充実すれば【洗浄】でも盾役出来るんだって希望にもなってる

:ここの【+1】が頭おかしいだけで、他の【+1】が同じことできるかどうかはわからんぞ?


「この空気で開けるのは少し躊躇われるな」

「そうだよ。頼っちが開けて良いよ? あたしら正直アイテム貰いすぎてるところあるし」

「だ、そうなんでゲットしたら一回目は俺が回しますね? ダブって市場に流せるかどうかの検証もしたいですし。あ、金の鍵の方は入手次第聖女様との待ち合わせ場所に神条さん経由で送りつけますんで。親御さん達も俺とシンで一つづつでよかったですよね?」


 相手からの返事はない。

 今まで静観してきたであろう親族達。

 シンを見せ物にすることで溜飲を下げるつもりが、まさかの大活躍、それを賞賛する声が次第に強まり、当初の思惑通りに行かなくなったために出てきづらいのだろう。


 蓬莱さんがそう仕向けたのもあるけど、シンがもっと開き直ると思っていたのだ。

 自分は悪くない、あいつらが弱いのがいけないんだ!


 そうやって世間の風を真が悪モノ。親族たちが正義に持っていきたかった。

 でも、それが現状できているかどうか怪しい。

 今ここで名乗り出るのは少しばかり早計だ、とかでも思ってそう。


 今回のダンジョンアタックの発端とも言える遺族からの要請。

 それが娘を見殺しにしたであろうシンに蘇生の代金ともなる金の鍵を入手させる事にあった。


 しかし運悪く失敗、道中で死ぬだろうことも加味して成功率を上げるために俺への依頼もしていた。


 それの失敗も予測して大手クラン『天上天下』を噛ませた。

 もしこの事実が明るみになればシンのことを強く言えない処罰が与えられるだろう。


 だってシンが咎められた部分はまさしくその思想にあるのだ。


 相手が死ぬかもしれない場所に行って無茶振りをさせる。

 シンが俺たち一般人を誘った事と、娘を亡くしたご両親が意趣返しをする。


 これが世論を大きく加速させる火種になることをどこまで認識してるかだな。


 前者は探索者にあるまじき行為としてのバッシング。

 しかし後者が許されるのは死者が復活しなかった場合に限るのだ。


 もし復活してしまった場合、親にあるまじき浅慮さを指摘されるのは目に見えている。


 それが見えてないのは蘇生が失敗に終わると考えているからだろう。

 いや、ここまで事が大きくなった以上、心のどこかで失敗してほしいとすら思ってそうだ。


 実はとっくに復活してるし、後は魂の定着だけと知ったらドッキリどころじゃ済まないだろうが、こう言った世間様に向けての問題解決要素は必要だからね、しょうがないよね。


 子を失った悲しみは分かる。

 だが他人の子を同じ目に合わせてやる! は通じないのだ。

 大手クランを通した企画では特に。

 蓬莱さんの「震えて待て!」は今思えばこんな依頼をよこしてきたご家族にも含まれてるんじゃないかと今更ながらに思うのだ。


<コメント>

:ん? どゆこと

:このルールって無くなった子達の親族側の希望なん?

:そりゃ娘さんを亡くした側はシン君が憎くてたまらんだろうけどもさ

:勝ちの目が見えてきたらダンマリ決め込むのはどうかと思うよ?

:きっとこれシン君に痛い目見てもらいたかったやつだぜ?

:ああ、だから暫定CにBランクダンジョン行かせた?

:無理ゲーが過ぎんよ

:ランク外にE行かせるのと、暫定とはいえDに毛が生えた程度のCにB行かせるのは飛び越えるハードルの高さが違い過ぎるwww

:やってる事がシン君と変わりなくて草

:蘇生成功したら逆に捕まえられそう、その思想が

:【悲報】被害者が加害者になる

:なってねーだろ!

:なる可能性があるかも知れんやろがい!


 やっぱり乞食連中ですらそう思うよな。

 ここに残ってるのは決して良識者達だけではない。

 他人のそういう感情に敏感な人たち、要するに負け組が多いのだ。


 ちなみにシンが『シン君』呼びされてる理由は、スキル名の【フレイムトーチャー】が文字数を食い過ぎる理由から。

 俺や要石さんは変わらずスキル名なのは二文字だからだ。

 ま、別にどっちでも良いけど。


 シルバーボックスは概ね当たりを出し切ったのか、ほぼダブり。

 俺たちの使わない装備を『天上天下ワクワク視聴者プレゼント係』にメール送信後、問題のない家に神条配達員が随時送りつけるとの事だ。


 この人カメラマンやったり、要人の出迎えやったり、配達員やったりと忙しいな。

 有能すぎると仕事を割り振られ過ぎると言うのを目の当たりにしてげんなりした。


 ちなみに分配の割り振りはこうだ。

 大当たりは虹の盾【1名】

 当たりは各種アクセル武器_どれが当たるかはランダム【5名】

 ハズレは非常食とポーション_それぞれ一ケづつ【100名】


 これをここに至るまでかれこれ十数回続けてる。

 正直プレゼントしすぎな気もするが、いい感じに名前が売れてるし、これも貢献と言えば貢献だ。

 基本的には、今回のアタックを目撃する証人になってもらうための参加賞。

 配布でもしなきゃ、念入りに応援しないだろうという民衆の欲深さを付け狙った姑息な手口である。


 なお。俺以外に実現不可能なので、誰も追走しないことは明らかである。俺だって、注目浴びる以外でしたくねーよ、こんなん。

 でもわざと開けてるのは、たまに出てくるライフコアやスキルコアの回収も兼ねてるんよね。

 そんでダブったものを配布してるの。


 それがその場でできるのも新条さんのおかげ。

 俺だけがその場にいたってやれないことなのだ。

 そういう意味でも、これはクラン『天上天下』の興行も兼ねているのだ。


 お仕事を頼むなら、天上天下。天上天下でございってなもんよ。


 そうそう、出てきた装備の中で最高級品っぽいプラチナ装備は装備できそうなものだけをそれぞれが装備してる感じ。

 これの面白い効果は死霊/悪魔系統からのダメージを半減させる事にある。

 本当の意味で大当たりなので、流石に分配するのは気が引けた。


 虹の盾はいいのかって? あれは結構世に出回ってるからいいのだ。ここで手元に余らせてるだけ無駄だしな。

 世界の皆さんに俺という存在を知ってもらうまたとないチャンスだとかなんだとか。


 ちなみにこの放送、全世界同時配信らしいぞ?

 国内規模とか思いきや世界規模なのは流石に笑った。

 荒唐無稽すぎる。


 だが裏を返せば、それだけ世界で同じような事件が起きてることを周囲に知ってもらいたいんだろうな。

 平日の昼間っから何してるのやら。


 カメラマン兼、配送員の神条さんが忙しなく動いた後、コメント欄が爆速で流れる。


<コメント>

:虹の盾当たりました!

:まじかよ羨ましい!

:ぐあーー、残念賞!

:高級非常食、こんなに美味いのかよ! 残念賞で配っていいもんじゃねぇだろ!

:ポーション、普通に50万の価値あったけど投げ売りされてて時価が落ち込んでるんですよ

:医療的には大感謝! もっと値段下がってくれー

:非常食、味を確認してもらったら10万の価値がついた件

:なに!? 転売だ!


「流石に転売はさせないよ〜? ウチのクランのスタンプ付き商品は買い取らないでくださいって胡桃ちゃん経由で世界各国に流したから」


<コメント>

:控えめなピースサイン、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!

:仕事が早いんよ

:さすが全国区

:世界規模なんよなぁ

:自動翻訳されてる件


「天上天下はワールドワイドなクランです。部署だって海外にもあるんだぜ〜? 言葉の壁はスキルで乗り越えられる! ウチの秘蔵っ子! エイミー・ワズキャンちゃんが言語翻訳を即座に反映させてくれるんだぞ! 皆さん感謝しなさい」

『世界のアホども、よろしくやってるか? OK、声を聞かなくたって分かる。ブヒブヒブヒブヒ煩わしいったらありゃしない。だが私にかかればこの通り。人種や種族に限らず共通言語だ。言葉の壁を武器にイキってるクソ共を炙り出せ。現場からは以上だ』


 エンジェルボイスから吐き出されるとてもお下品な口調にコメント欄は更に加速した。


 そしてオーストラリアの聖女であるアイリーンさんの言葉も直接脳に日本語で聞こえた理由も理解した。

 あれってエイミーさんのおかげだったんだ。


<コメント>

:世 界 規 模wwwwww

:一気に同時接続300万人になってるwww

:3万人から増えすぎだろ www

:そりゃ見てるだけで大量にアイテムゲットできるとなったら世界中の乞食が寄るわ

:世界の乞食よ! これが迫害されてきた【+1】の実力だ!

:ドロップ乞食量産マシーンかな?

:エイミーちゃんかわゆ

:エイミーちゃんかわゆ

:エイミーちゃんかわゆ

:エイミーちゃんかわゆ

:エイミーちゃんかわゆ

:エイミーちゃん結婚しよ?

:世界のロリコン達が釣り上げられたようです、サー

:これ、常識人が減ったんじゃなくて変態のコメント打ち込み速度についてこれないだけだろwwwwww

:海外勢はガチが多過ぎるから

:ほぼ脳内インプット勢だけが生き残れてる

:新時代の子しか勝たん!


「ちなみにアイテム分配先も世界規模でぇす。国内だけに集中させると暴動が起きるからね。仕方ないね」


<コメント>

:草

:台湾ですが高級非常食が奪い合いになってる件

:美味いもん、仕方ない

:何味かは定かじゃないのに美味になる脱法薬物扱いぞ?

:きっと自分の過去に体験した美味しいを読み取って凝縮させたのがそれ

:麻薬なんだよなぁ、それも依存性の高い

:効果は空腹が満たされるだけ!

:ダンジョン内は空腹も敵だからありがたいよ

:缶詰だから日持ちするしな

:通常非常食もうまいが、高級と比べて味が薄いのがな

:アメリカではアクセルシリーズが主流になってきた

:一家に一台アクセル武器!

:もうあれを体験すると他の武装に興味無なくなるから

:自分のステに合致した場合はそう

:おかげで目撃例が十数点になった

:一見流通してるようで、この配信依存だからすぐに枯渇するぞ

:インドではポーションは奇跡の水としてありがたがられてるよ

:インド在住の聖女ですが、暇です。お仕事ください



 何かプレゼント以降コメントが騒がしいが、それどころじゃない。

 俺たちは四階層に降りる階段を見つけて気を逸らせていた。

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