「はいはーい? 聞こえてるかなー? 今回はあたし、天上天下会長の蓬莱百合とー?」
「どもー!【+1】の飯狗頼忠っす」
「【洗浄】の要石カガリだよー!」
「…………【フレイムトーチャー】の漆戸シンだ」
「以上の四名で、鹿児島県にあるBランクダンジョンに来ていまーす!」
「「「イエーーーー!!」」」
「……………」
「ちょっとー、一人テンション低い子がいるよー? そんなんで今から大丈夫かなー?」
言わずと知れたシンである。
一人だけ乗りについていけてないって顔だ。
お前でもそんな顔するんだな。
期待の重さを痛感すればそんな顔したくもなるよな。
実際出来レースもいいところなんだけど。
<コメント>
:なんて?
:ダンジョン内なのに生中継できるのってどうなってんの?
:この中に殺人犯がいます!
:おいおいメンツがおかしくないか?
「生中継兼カメラマンには【ディメンジョンゲート】の神条胡桃ちゃんが来てくれてまーす」
<コメント>
:カメラを揺さぶるのやめろ! 酔うわ
:メンツが豪華すぎるww さすが天上天下
:でも付き添いの戦力が弱すぎて足引っ張らね?
「あ、勘違いしないで欲しいんだけど、今回攻略するのはこちらの三人の高校生だよ? 一人は自分の力及ばずで二人のクラスメイトを救えなかった漆戸シン君。他の二人は一緒に行動しつつも分断されちゃった子だねー? 流石に危なくなったらあたしも参戦するけど、取り敢えずやらせるだけやってみる感じだねー? 狙うは【金の鍵】! 二人の蘇生を目標に今日は頑張るそうなので、あたしが場を提供しました!」
「あの時は救えなかった命、次こそは救ってみせる」
<コメント>
:殺人鬼がなんかいってらwww
:言うなよ、ミスで命落とすなんて探索者やってりゃ何処でもある話だ
:故意なんだよなぁ
:【金の鍵】! 市場にないもんなぁ
:一般人生き返らせるのに【金の鍵】はなぁ
:聖女様もお人が悪い
:かぐや姫かよ、無茶振りがすぎるわ!
「ま、あんまり気負うなよシン。焦りは油断を生むぜ。ポーションでも飲んで落ち着け、な?」
俺はマジックバックから取り出した余剰分のポーションをシンに渡した。
シンは理解が追いつかないと言う顔でポーションと俺を交互に見た。
「なぁ、頼忠。これは今何処から出した? 飲料水にするには高級すぎるが?」
「気にすんなよ。うちら攻略組は喉乾いたら飲んでたぜ? な、要石さん?」
「懐かしいねー、相場知ったら目玉飛び出しそうになったけどその節は大変お世話になりました」
ぺこりと俺に頭を下げる。
いいよいいよ、なんて俺は片手でそれを払った。
実際、たいした世話でもないしな。
「俺の常識がおかしいのか? こいつの世話になる時は体の一部を欠損した時の応急処置用だと思ったが……」
<コメント>
:殺人鬼が追い詰められてて草www
:果たして【+1】が無知なのか、豪胆なのか
:【洗浄】ちゃんも当たり前のように飲んでるのなんなの?
:感覚バグりそう
「ほらほら、駄弁ってる側から敵さんのお出ましだよー? 君たちならどうする?」
蓬莱さんの声に寄ってきたような気がするが、問題ない。
現れたのは痩せこけた犬。ボロボロの体毛と、爛れた肌。
目玉はこぼれ落ちていて、俗に言うゾンビ犬というやつだった。
それが五体。最初から殺意が高い! これがBランクダンジョンか!
「僕が行く、先手必勝! フレイムジャベリン!」
───────────────────
<漆戸シンの攻撃!>
魔法陣から複数の炎の槍が撃ち出される!
ゾンビドッグAに500のダメージ!
ゾンビドッグBに500のダメージ!
ゾンビドッグCに500のダメージ!
ゾンビドッグDに500のダメージ!
ゾンビドッグEに500のダメージ!
ゾンビドッグ達は【延焼】の状態異常を負っている
───────────────────
さすがシンだな。
密集してるからこそ『延焼』を狙っての集中攻撃。
だがゾンビなので即死しないなら余裕で動く!
燃えながらも走ってきて俺たちとの距離を詰めた。
「ちぃ、Bランクのライフの多さを見誤った!」
「シン君、うちらを頼ってくれても大丈夫よん! 頼っち!」
「こいつを喰らいなぁ! 幻覚毒だぜぇ!」
───────────────────
<飯狗頼忠の投擲>
ヒット!
幻覚毒が周囲を惑わす
ゾンビドッグAは敵を見失った
ゾンビドッグBは敵を見失った
ゾンビドッグCは敵を見失った
ゾンビドッグDは敵を見失った
ゾンビドッグEは敵を見失った
───────────────────
俺の投擲値は2000ある。
命中と同時に弾けてゾンビ犬に命中すればこの通りである。
「からのー、循環!」
───────────────────
<要石カガリの攻撃!>
ミス、ゾンビドッグにダメージを与えられない!
<循環発動!>
ゾンビドッグAは幻覚に包まれた
ゾンビドッグBは幻覚に包まれた
ゾンビドッグCは幻覚に包まれた
ゾンビドッグDは幻覚に包まれた
ゾンビドッグEは幻覚に包まれた
───────────────────
要石さんのシルバーレイピアの先端に洗浄とは違う水の螺旋が集まって、それがゾンビ犬を貫く。
ダメージはあまり与えてる感じはなかったが、まるで敵を見失ったようにゾンビドッグが周囲を見渡している。
この前のレベルアップで獲得したのかな?
五体同時に成功させてる腕を褒め千切ってやりたいくらいだ。
グッジョブとハンドサインを送れば、笑顔で返してきた。
あらかわいい。
ちょっと勘違いしちゃいそうだぜ。
だが、場は整った。
「こっからが俺の真骨頂だぜー!」
俺は金の宝箱を振り上げて、モンスター近くの地面を全体重をかけて叩きつけた!
───────────────────
<飯狗頼忠の攻撃>
<バックアタック&クリティカル>
【ゴールドボックス+トラップ発動!】
聖なる七色の光がゾンビドッグに襲いかかる!
ゾンビドッグAに15000ダメージ!
ゾンビドッグBに15000ダメージ!
ゾンビドッグCに15000ダメージ!
ゾンビドッグDに15000ダメージ!
ゾンビドッグEに15000ダメージ!
<オーバーキル!>
魔物の群れをやっつけた!
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<オーバーキルボーナス!>
銀の鍵を手に入れた
シルバーボックスを手に入れた
【+5発動!】
銀の鍵を手に入れた
銀の鍵を手に入れた
銀の鍵を手に入れた
銀の鍵を手に入れた
銀の鍵を手に入れた
【+5発動!】
シルバーボックスを手に入れた
シルバーボックスを手に入れた
シルバーボックスを手に入れた
シルバーボックスを手に入れた
シルバーボックスを手に入れた
───────────────────
ふぅむ、ゴールドボックスの性能を舐めてたぜ。
よもや俺のスキルが発動するまもなくオーバーキルダメージを与えるとは。
スキルはドロップの方で活躍したのでまぁ良いか。
<コメント>
:は? 今何が起きた?
:【+1】が宝箱で殴りかかったところまでは覚えてる
:そしたら虹色の光が視界を覆って
:パーッて広がって……うおっ、眩し!
:気がついたらモンスター達が死んでたでござるよ……ナニコレ?
:シルバーボックスがアホみたいに落ちてるの草
:普通序盤の敵から落ちないんだよなぁ
:鍵も同等あるってことは【+1】のスキルか?
:あれ?【+1】普通に強くね?
:戦えないって話何処行ったんだよ
「あっはははは、頼忠君は私の期待を裏切らないねぇ、その宝箱はどうするの? ここで開けていく?」
「こいつは俺の命綱なんで普通に持っていきますよ。要石さん、お腹空いたらいつでも言ってね? 非常食投げるから」
「まだ平気だよー」
「って事で、こいつは持っていきます」
シルバーボックスをマジックバッグに指定すると、床に転がってた宝箱が即座に消えた。
<コメント>
:は? なんでこいつマジックバッグ持ってんの?
「ボスドロですねぇ。ちなみにダブって計6個あるっす」
<コメント>
:▶︎殺してでも奪い取る
「はい、そこのコメントギルティ。頼忠君の身柄は現在、天上天下預かりです。今度彼を貶める発言をしたら容赦なく制裁するからねー? 震えて待て!」
<コメント>
:羨ましい。ちょうだいちょうだいちょうだい
「すいませんねぇ、そう言うことなんで。欲しかったら天上天下さんを通してください」
<コメント>
:この余裕ヅラ、ぶん殴りてぇ!
:殴るためには魔境のBランクダンジョンに行く必要があるが
:なんだかんだでこいつ弱くはないもんな
:【+1】が雑魚って認識は改める必要がありそうだ
「頼忠、お前強くなってたんだな」
「別に俺は強くねーぞ? 幸運が飛び抜けて頭おかしいだけで、宝箱のトラップが確定で発動する感じだ。他のステなんか少し100超えたくらいだし、LV40の割にステ低すぎかよって思ってるもん」
<コメント>
:は? こいつ今なんつった?
:LV40?
:Bランク探索者推奨LVじゃんかよ!
「ちなみに幸運は4000ありまぁす。ブイブイ」
<コメント>
:幸運だけ数値がエグいて
:それじゃ投擲と回避がバグる訳だよ
「ちなみに彼は私の攻撃すら回避するからねー?」
「ちょ、だからって不意打ちで殴りに来ないでくださいよ、俺らの引率でしょ!」
<コメント>
:草
:天上天下の会長の攻撃を回避するったら相当よ?
:他の数値が低くても、幸運だけで2000増えるのはなぁ
:さっきの投擲の命中率はそれかぁ
:でもなんでわざわざ状態異常かけたの? 回避高いなら後ろにまわればいいのに
「高いのは回避で敏捷じゃない点と、状態異常で前後不覚にするとバックアタックとクリティカルが両方乗ってダメージが跳ね上がるからだなー。みんなもそういうテクニック使わない? 流石に俺だけではないと思うが」
<コメント>
:ああ、なるほど。敏捷が低いのか
:足は速くないわけね
:前衛にいない理由が分かった
:でも【洗浄】ちゃんを前に置いて平気な理由は?
「彼女には最高の装備を提供してるから。あとポーションと非常食は最優先に回してる。体張ってくれてんだ。普通こんくらいはするだろ?」
<コメント>
:接待が過剰すぎるんだよなぁ
:【洗浄】ちゃん、この環境を普通だと思ったらダメだぞ?
:そうそう、普通はポーションの投げ売りなんてしないから
:ポーションは最後の最後まで取っておくアイテムだよ
「そうは言うけどさぁ、それを真に受けて要石さんが死んだら、あんたら責任とってくれんの?」
<コメント>
:あっ…………いや
:そうだよな、俺たちの常識とあてはめちゃダメだ
:そっか、ここはBランクダンジョンだもんな
:タンクに落ちられたら終わるからサポートも充実してるのか
:偉そうに高説垂れてた俺らが恥ずかしいわ
:現場の空気も知らずにスマン
「あははは、確かにあたしが前で平気かなって不安に感じる部分もあるよ? でも頼っちが最後まで一緒にいてくれるって分かってるからあたしは頑張れるんだー」
この笑顔である。
童貞だったら即座に惚れちゃうね。
まぁ向こうは視聴者アピールのつもりで言ってるので、そういう勘違いを俺は間違ってもしないが。
要石さんと俺との硬い信頼のシーンに一人だけ輪に入れないシンの構図。
俺たちと違って早々にクラスメイトを諦めた過去の自分を呪っているのか、はたまたまた別の理由か。
一人離れた場所で拳を握りしめていた。
一抹の不安を抱きながら、俺たちはやたら現れるゾンビドッグエリアを歩く。
ウッヒョー、シルバーボックスフィーバーだぜぇ!!
俺はゴールドボックスを持ち上げると、それをゾンビドッグの鼻先に向けて叩きつけた!