矢が尽きてもゴブリンオーガは健在だった。
要石も既に限界を迎えていて、やっぱり俺も前に出なきゃダメだと覚悟が決まる。
「こっちを向けよデカブツ! 俺が相手だ!」
虹の盾のバフ効果もある。
ただ、要石程のタンク適性を持たぬ俺は、それこそ当たれば即死の綱渡を強いられた。
「頼っち!」
「要石は少し休め。最後の食糧だ」
「頼っちのは?」
特に何も言わず、空っぽのマジックバックをトントンと叩く。
「気にせず食え! こっからが正念場だぞ!」
そのセリフは何度目か?
はたまた倒せる見込みもなく、無駄死にするのを煽っているだけではないのか?
もう十分、もう十分頑張った。
そんな弱気な心が胸中に押し寄せる中、俺は距離を詰めてゴブリンオーガの鍛えられた土手っ腹にシルバーボックスを叩き込んだ。
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<飯狗頼忠の攻撃!>
ゴブリンオーガに10のダメージ!
【トラップ発動!】
麻痺毒がゴブリンオーガを襲う!
ゴブリンオーガは一定時間行動ができない。
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よし、当たりを引いた。
ここからラッシュだ。
動けないのをいいことに狭間さんの薬品を口から全部流し込んだ。
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<飯狗頼忠はアイテムを使用した>
<バックアタック、クリティカル!>
薬品効果が10倍になる!
ゴブリンオーガは猛毒を受けた
ゴブリンオーガは微熱毒を受けた
ゴブリンオーガは神経毒を受けた
ゴブリンオーガは腹痛を覚えた
ゴブリンオーガは薬物中毒に至っている
ゴブリンオーガに300ダメージ!
ゴブリンオーガは熱病にうなされている
ゴブリンオーガは行動できない
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「もう一丁!」
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<飯狗頼忠の攻撃>
ミス、ゴブリンオーガはダメージを受けない!
【トラップ発動!】
カマイタチがゴブリンオーガを切り刻む!
ゴブリンオーガに1200ダメージ、
【+1発動!】
カマイタチがゴブリンオーガを切り裂く!
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
【+3発動!】
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
【+2発動!】
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
ゴブリンオーガに1200ダメージ!
ゴブリンオーガは熱病にうなされている
ゴブリンオーガは動くことができない
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「要石、全力攻撃だ! 持てる力全てをぶつけていけ!」
「はぁああああああああああ!」
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<要石カガリの攻撃!>
ゴブリンオーガに10ダメージ!
【洗浄Ⅲ発動!】
ゴブリンオーガの体内毒が勢いよく回った!
ゴブリンオーガに1000の猛毒ダメージ!
ゴブリンオーガに300の麻痺ダメージ
<神経毒がクリティカル!>
ゴブリンオーガの心臓が停止
ゴブリンオーガを討伐した
<オーバーキル!>
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緑色の光を放ちながら、強敵がこの世をさる。
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<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
<レベルが上がった>
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その後、俺と要石は耳を塞ぎたくなるほどのレベルアップを果たした。俺は更にレベル+1で面白いことになっている。
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飯狗頼忠
レベル:40
称号 :死に抗う者、ミラクルボーイ
筋力:40
知識:30
耐久:50
精神:80
器用:90
敏捷:50
幸運:4000
<スキル>
【+1】発動確率50%×【幸運】補正
【+2】発動確率25%×【幸運】補正
【+3】発動確率10%×【幸運】補正
【+5】発動確率0.1%×【幸運】補正
行動回数、ドロップ再抽選に大きく影響する
【レベル+1】発動率1%×【幸運補正】
レベル上昇時、確率でもう一つレベルアップ
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<装備>
ラックアクセルボウ(幸運÷2の命中補正)
虹の盾
アイアンボックス×8
シルバーボックス×4
ゴールドボックス×3
マジックポーチ×2
マジックバッグ×7
<アイテム>
狭間ひとりのライフコア
狭間ひとりのスキルコア
鉄の鍵×6
銀の鍵×6
金の鍵×2
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「終わった? 終わったの?」
まだ敵が出るんじゃないかと身構える要石だが、もう敵はいないと言うことを教えると抱きつかれてしまった。
「良かったよー、あたし、何度も死ぬと思ってた」
「俺もだよ。一旦休憩入れようか。俺もちょっと疲れた」
「さんせーい」
そりゃいつ死んでもおかしくない激戦だったからな。
とにかく要石はスキルを使うたびに腹が減る。
俺はシルバーボックスを開封しながら投擲で前線に一人立つ要石へと非常食をパスしていた。
満腹ゲージは非常食より高級非常食の方が回復しやすく、元の生活に戻ってもあの味を思い出すかもしれないなと思った。
気持ちが落ち着いたら要石を引き剥がしてドロップ品の回収を行う。
戦闘中倒したモンスターのドロップ品は残ったが、ボス討伐と同時に消滅した奴は何も落とさなかったらしい。
「マジックバックまたダブった。一個要石にやるよ」
「良いの? これって売れば高い奴じゃないの?」
「今の俺の姿を見てどう思う?」
「圧倒的不審者!」
「だろぉ?」
何がだろぉ? かわからない奴のために教えとく。
今俺の両肩にはマジックバックが合計6個もぶら下がっている。
想像してみてほしい、おしゃれでもなんでもなくバックをこれでもかと身につける男を。もう一つをどうやっても装備できそうもないのであげることにしたのだ。俺も嬉しいし相手も嬉しい。これぞWin-Winってな?
だから要石のコメントを的外れと言える奴は少ないのだ。
そんなわけで入手した素材だ、どーん!
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アイアンボックス×70
シルバーボックス×50
鉄の鍵×50
銀の鍵×50
シャドウゴブリンコア×150
シャドウゴブリンアーチャーのスキルコア×150
シャドウゴブリンマジシャンのスキルコア×30
ゴブリンオーガのスキルコア
ゴブリンオーガの武器片×30
ゴブリンオーガの牙×10
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はっきり言ってウハウハだ!
俺は手のひらサイズに限り、無限に入るマジックポーチにそれぞれ鍵を突っ込み、もう一つに非常食やポーション、それ以外を素材入れとしている。更にはマジックバッグは抱えられるものに限るが、一種類しか入らないのでアイアンボックスならアイアンボックスを十数個と三種類のボックスを担ぐ為にそれぞれ三種のマジックバッグを担ぐ羽目になり、絶賛不審者の見た目になっている。
「ここで何個か開けちゃえば良いのに……」
「ばーか、危険が去ったのに無駄飯食わせるかよ。アイテムを換金してから好きなもん食えば良いじゃねーか」
「それもそうなんだけどぉ、頼っちのバカ。頼っちと一緒に食べたいんじゃんかよぉ」
要石が何か言ってるが、無視。
荷物整理をしてると、玉座の裏にぼんやりと光る魔法陣みたいなのを発見する。
「なんだろ、これ?」
「確かダンジョン入り口に戻るショートカットの魔法陣じゃないっけ?」
「よく知ってんな」
「そりゃ、探索者のお嫁さんになるつもりで勉強してたし」
「へぇ、俺の親父、そういうの一切教えてくれなかったんだよな」
「もらった恩恵が+1じゃね」
その同情するような目はよせ。
俺だってわかってるよ。だから周囲に笑われようとも生き残れる道を模索してたんじゃんよ。
「なんだよー【+1】バカにすんなよー。実際すごかったろ?」
「うん、あたしはそれを体感できた。でも、今日ここで起きたことはクラスメイトは愚か、他の人は誰も知らないのは事実なんだよね」
「くそ、活躍して見せてもニート予備軍は変わらずか」
正直、俺一人でこれができたか? って聞かれたら「絶対無理」って言える自信がある。
今回の大勝利はなんだかんだ囮役に付き合ってくれた要石のおかげでもあるのだ。
それを馬鹿正直に伝えるのは恥ずかしいので、この話はここでおしまいだな!
「さて、ここで結構時間食っちまったからな。良い加減帰ろうぜ?」
振り向くと、要石は尻餅をついていた。
さっきまで元気だったじゃん。急にどうした?
「頼っち、起こして!」
「は? 自分で起きろよ。ガキじゃねーんだぞ?」
「安心したら腰抜けちゃって……」
「しゃあねーなぁ……ほらよ、これで満足か? お姫様」
「王子様の顔が好みじゃない」
「言ってろ」
軽口を叩き合い、お互いに笑う…
結局こんな大激戦を乗り越えても、急に惚れたり、付き合ったりとかそんな上手い話なんてないのだ。
はーあ、彼女欲しい。
そのあと要石と悪態をつきながら出口へと歩き出す。
なんだかんだ、一方的に嫌われていたあの頃より、これぐらいの距離感がちょうどいい気さえしてくる。
クラスではぶられた男子がたったの一日で味方を一人増やした。
これは十分な快挙じゃないか?
もし要石が否定したとしても、これくらい心の中で思うくらいは許して欲しいぜ。
◇◆◇
「おい、誰か帰ってきたぞ!」
「嘘だろう? Bランク化したダンジョンを攻略した奴がいるのか!?」
「信じられません。本日通した中には、逃げ帰った漆戸慎以外は全員が素人だったはずです。Bランクダンジョンを攻略できる下地などなかったはずなのに……」
何やら入り口に人垣ができていて、俺たちを取り囲む様にカメラのフラッシュが焚かれる。
一体何事かと思い浮かべて、そしてアイテムの中にあった春日井小波、狭間ひとりのライフコアとスキルコアを思い出した。
死人が出たダンジョンは、大きくレベルアップすると聞いたことがある。どうりで難易度が高かったわけだ。
「すいません、フラフラなんでカメラ向けるのやめてください」
「ちょっと休憩させて~」
俺たちの頼みに、記者達も今ここでは聞かず、休憩場所を設けて聞き出すスタイルに変えたようだ。
果たしてそれが良いことなのかは分からない。
要石がメニュー表の端から端を選択し始めたときは、顔面が真っ青になっていた記者に御愁傷様とだけ心の中でお祈りしておいた。
要石の辞書に遠慮という二文字は記載されてないようだ。
記者達が聞きたい情報をかいつまんでまとめると、どうやってダンジョンをクリアできたのか? に集約する。
俺と要石はお互いのポジションとスキルを鑑みて前衛と後衛のスタイルをとったと話した。
スキル【洗浄】と【+1】がだ。
言葉通りに飲み込むバカはいなかった。
中には陰謀論を企んだのではないかと聞いてくる心無い者もいた。
春日井小波、狭間ひとりが死亡したのは意図的にだったのではないかという質問だ。
それを友達の要石の前で言える胆力は素直に賞賛したいと思う。
ガチギレする要石を押さえつけるのは至難の技だった。
そこで疲れが取れたので再びダンジョンセンターへと戻って換金所へと素材を提出する。
換金とは別に、亡くなった同級生の遺品を宝箱から手に入れたことを告げてそれぞれのライフコアとスキルコアを洗浄状態で渡すと大層驚かれた。
「こんなに保存状態の良いライフコアは見たことありません! お金はかかりますが、これなら蘇生できるかもしれません!」
そう語ったのはダンジョンセンター受付のお姉さん。
死人が生き返るなんてそれこそゲームだけの話だと思っていた。
だというのに実例があるように語るので、本当なら俺たちは稼ぎの幾らか出そうという話になる。足りない分は親御さんから少し出してもらう形で。
どうイキった所で俺たちは学生。稼ぐ手段もなければ単独で冒険者としてやっていく下地もない。今回は生き残るために無我夢中になっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
他にも遺品があると狭間ひとりの生徒手帳を手渡し、1日でも早い復帰を望みます。そのためだったらいくらでもお金を出すと頭を下げてその場を去った。
やたらバッグだらけなのを記者指摘されたが、俺が荷物持ちを請け負っており、これは彼女達の荷物だと言えば不承不承ながら納得してくれた。
まぁ彼女達の荷物は要石がガードした際にズタボロになって見るに耐えない形ではあるがちゃんと入ってる。
それ以外の荷物が多くを占めてるだけで嘘は言ってないから。
「良かったな、要石。春日井達戻って来れるって」
「うん、うん。よがっだよぉ」
ガチ泣きして友の復帰を喜ぶ要石の姿を見れば、誰もが陰謀論など疑わぬだろう。
そして友達が蘇生できるかもしれないと聞いて彼女はソファの上ですやすや眠ってしまった。
「すいません、彼女は疲れて眠ってしまったみたいです」
こんな大勢の中でも眠れる胆力。
やはりこいつは大物かもしれない。
「仕方ないですよ、死の淵を覗かれたのでしょう?」
「どれだけダメージ与えても死なないので、負けイベント戦闘かと思いましたよ」
軽く冗談を交えながら笑いをとり、本題に入る。
「さて、皆さん。これは死の淵を乗り越えたからこそ、そして俺のスキル【+1】があったからこその奇跡です」
そう言ってテーブルに金の鍵を取り出す。
全員の目が強烈に金の鍵惹きつけられるのを確認してから懐に戻した。
ゴールドボックスはそれなりに流通しているのは先ほど確認した。
しかし鍵の方は売りに出されると同時に買われてしまう。
まさに需要に対して供給が圧倒的に足りないアイテム。
それを見越した上での駆け引き。
「先ほど言われたことが本当であるなら、お金があれば同級生は戻ってくるんですよね? しかし俺たちはまだ子供。親に養われてる身です。なのでもしこれを売ったお金で彼女達が救えるのなら、俺はこれを無償で手放してもいい。もちろん受取人は被害者のご両親への折半となります。なるべくなら高額で買い取って欲しいですね。俺の中でこれが一番の高額商品です。オークションでもなんでもいいので、お願いします」
そんな言葉に、記者達は盛り上がる。
「これはニュースだぞ! 世界中の探索者が喉から手が出るほど欲しがるお宝を無償で提供するなんてたいしたものじゃないか! 通常の探索者だったらまず自分のために使うところを、俺たちはこの少年の気概に応えてやらなきゃならんよなぁ?」
「ああ、今なら最高の記事が書けそうだ。失った少女の蘇生費用を自らの出世を犠牲にしてまで無償提供する少年! こりゃバズるぞぉ!」
「おいおい、バズるとかバズらないとか数字で見るような真似はやめろや。こんなに感動させられたのはこの業界に入って初めてだ。少年、記者の全員が全員、こんな奴だと思わないでくれよ? 君の勇気ある行動を無駄にはしないと約束する。気を強く持って欲しい」
「うす、ありがとうございます」
勝手に御涙頂戴話に繰り広げようとするマスコミ達。
記事を載せられた側に対する配慮がないのはいつもの事か?
これは残りのアイテムを売りながらぬるい日常生活を送る計画はパーになったな。
一体どのツラ下げて学校に向かえばいいのやら。
あとは折を見て要石を家に送り届ければミッションコンプリート。
そういえばシンの情報が入って来ないな。
あいつの事だから先に到着して捜索隊を呼んでくれたんだろうけど、姿が見えないのが少しだけ心配だ。