「ゴァアアアアア!」
デカブツが吠えると同時に大きく跳躍した。
人など簡単に切断しかねない身の丈程もある大鉈を振るって狙いを定めている。
狙いは要石だ。
「避けろぉおおお!」
「ちょ、直ぐには無理だって!」
装備が重いせいか、防御は高いが回避率の低い要石に大鉈が振るわれる。
あんなの食らったら致命傷じゃ済まないだろう。
ラックアクセルボウで狙うも、大鉈で弾かれてしまう。
万事休すか?
そんな時、要石から大声が上がった!
「洗浄、洗浄、洗浄、洗浄!」
自分自身を洗浄している様に思う。
水滴が要石を覆って、その場所に大鉈が振るわれた。
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<ゴブリンオーガの攻撃!>
ミス、要石カガリにダメージを与えられない!
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なんと要石は洗浄による流水効果で攻撃そのものを受け流したのだ。そのまま反撃に移る。
「足元がガラ空きよ!」
洗浄を乗せたレイピアの一撃。
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<要石カガリの攻撃>
ゴブリンオーガに10ダメージ!
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が、あまり効いてる様には思えない。
成人男性がより筋肉質になったゴブリンオーガにとっては物攻90くらいは大した攻撃ではないらしい。
なんつー防御の高さだよ。
俺も援護射撃で応戦するも、勘が鋭いのか、放った矢は悉く大鉈に弾かれてしまう。
先程ゴブリンマジシャン軍団をワンキルして来た事実を鑑みて脅威と思われてる様だ。
ならこっちはどうだ?
俺は荷物から産業廃棄物の薬品類を手に取り、それをデカブツに投げつける。
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<飯狗頼忠の投擲!>
<クリティカル!>
ゴブリンオーガに1ダメージ!
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ダメだったか! そう思った時、俺の幸運がまた仕事をしてくれる。
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<微熱効果発動!>
ゴブリンオーガの察知能力がぐーんと下がった
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おや?
これってもしかして?
俺は今は亡き狭間さんの遺品を投げつける。
せめて一緒に戦ってる、戦闘に貢献してるんだと思わせる様に、様々な使えぬ薬品を投擲していった。
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<飯狗頼忠の投擲!>
ミス、ゴブリンオーガはダメージを受けない!
<猛毒発動!>
ゴブリンオーガに150ダメージ
ゴブリンオーガは熱病にうなされている
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まだだ!
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<飯狗頼忠の投擲!>
ミス、ゴブリンオーガはダメージを受けない!
<麻痺毒発動!>
ゴブリンオーガは30秒間行動を停止
ゴブリンオーガは熱病にうなされている。
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ここだ、一気に畳み掛ける。
俺はラックアクセルボウを構えて判断力の鈍ったデカブツに向けて矢を放った。
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<飯狗頼忠の攻撃!>
<バックアタック、クリティカル!>
ゴブリンオーガに300ダメージ!
ゴブリンオーガは熱病にうなされている
ゴブリンオーガは動けない
【+3発動!】
ゴブリンオーガに300ダメージ!
ゴブリンオーガに300ダメージ!
ゴブリンオーガに300ダメージ!
ゴブリンオーガは熱病にうなされている
ゴブリンオーガは動けない
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まだ倒れないのか?
「頼っち、周りの雑魚が動き始めた!」
要石の言う様に、ボスに一定ダメージを与えたおかげだろう、今までダンマリだった取り巻きが武器を持ってボスを援護する様に動き出す。剣や弓、杖を持ったシャドウゴブリンが最終決戦に挑む様に武器を構えた。
ここからが正念場だ!
◇◆◇
あれからどれだけの時間が経っただろうか?
長期戦に次ぐ長期戦。
ゴブリンオーガはダメージを受けすぎると行動回数を二回に増やした。熱病に罹ってるうちに削りきれなかった俺たちの失敗談。
しかし俺の矢を大鉈で塞いでいるうちに限界が来たんだろうな、大鉈の柄だけ残して粉砕することに成功する!
魔法攻撃は敢えて撃たせて要石に吸収させた。
効果は短時間の間全ステータス+50の恩恵だ。
鎧が重くて動けない要石にとってこれほどありがたいものはなかっただろう。
その隙に俺は弓でシャドウゴブリンアーチャーを始末した。
正直無限湧きも覚悟してたが、ちゃんと上限がある様でホッとした。
一定数倒すたびにレベルが上がるので、俺のレベルは20へと至っていた。
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飯狗頼忠
レベル:20
称号 :ミラクルボーイ
筋力:30
知識:25
耐久:25
精神:40
器用:30
敏捷:20
幸運:2000
<スキル>
【+1】発動確率50%×【幸運】補正
【+2】発動確率25%×【幸運】補正
【+3】発動確率10%×【幸運】補正
行動回数、ドロップ再抽選に大きく影響する
【レベル+1】発動率1%×【幸運補正】
レベル上昇時、確率でもう一つレベルアップ
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<装備>
ラックアクセルボウ【幸運÷2の命中補正】
ラックアクセルの矢【物攻+1000】×50本
虹の盾
アイアンボックス×8
シルバーボックス×4
マジックポーチ×2
マジックバッグ
<アイテム>
ポーション×8
非常食×4
高級非常食×6
狭間ひとりのライフコア
狭間ひとりのスキルコア
鉄の鍵×6
銀の鍵×6
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なぜ一人だけ20に至れたか?
それはレベル15の時に獲得したレベル+1のおかげである。
15の時点で幸運が1500。
確率が1%でも関係なくレベルがおまけでもう一つ上がった。
お陰でステータスの伸びは悪いが、幸運値は爆上がりしたわけである。
虹の盾は敢えて残しておいたシャドウゴブリンマジシャンを補給役にして発動!
俺たちは勝負を決めにかかっていた。
何せラックアクセルの矢の残りが心許ない。
これが切れたら近接戦で宝箱チャージアタックするしかないのだ。
ゴブリンオーガのタフネスは驚くべきものだった。
300ダメージを100回は負わせたにも関わらず未だ健在!
確かに何回かは塞がれたが、俺の強みはランダムで攻撃回数が増えることにある。
だが、それを鑑みたってゴブリンオーガはランクEダンジョンに居ていい存在じゃない。
そう思わせる、それくらいの難度の高さを感じさせた。
「要石、次で決めるぞ!」
「うん、あたしもこれが最後の食糧だし」
「ポーションは?」
「もう使い切ったよ。ったく、馬鹿力で掴みやがって!」
武器が壊れてから、ゴブリンオーガの攻撃は大きく変わった。
まずはパンチやキックの多用。
そして手の大きさを活かしての握りつぶし攻撃が大きい。
跳躍してからのボディプレスとなんでもござれ。
ただしボディプレス攻撃は同時に弱点を晒す行為に当たる。
俺はそこへ残りの矢を全弾命中させる為に要石に作戦を与えた。
虹の盾発動中以外に無理に回避に回るな。
そして握りつぶし攻撃中に全身に洗浄をかけろ。もしかしたら脱出できるかもしれない。
それと高級非常食とポーションの補填。
俺も心許ないが、要石が潰れたらなし崩し的に俺も積むのだ。
だから彼女には何がなんでも生き残って欲しいのである。
「頼っち、あたしをそこまで信頼してくれて……」
「勘違いすんなよ? お前に倒れられたら俺は詰むんだよ。お前の防御の高さがこの戦闘の鍵を握って詰んだからな?」
「ふふ、男のツンデレごちそうさまです」
誰がツンデレじゃい!
俺はただ本心を並べてるだけだが?
そこ、ニヤニヤするんじゃない。
こんな場面で笑いを忘れないこいつは、やっぱりメンタル最強な気がしてならない。