やはり装備の新調が功を奏したのだろう。
シャドウゴブリンは最早敵ではなくなった。
シルバーなプレートに苦手属性でもあるのか、中身が女だと知っても直ぐに食べようということはない。
そして要石も既に攻撃要因になっていた。
シルバーレイピアの先端に洗浄の効果を載せた一撃は、迫るシャドウゴブリンの大群をバッタバッタと薙ぎ倒すまでは行かなかったが、衰弱させるのに大きく貢献した。
そいつらを俺が宝箱で殴る、殴る、殴る!
オーバーキルボーナスで入手した鉄の鍵で装備の充実を図る。
正直、うまくいきすぎるほどの功績だ。
「あたしら、案外いけてね?」
「そうだな、お互いの特性がうまく一致したお陰だ。シンと一緒だと活躍しようもなかったろ?」
「そりゃシン君が全部始末してくれるし?」
「だからみんな自分の持ち味を活かせなかったんだよ。さっきの戦闘で鍵、二個出たぜ。開ける箱をどっちか選ばせてやる」
「おーし、今度こそ食料ゲット!」
すっかり携帯食料の味に惚れ込んでしまったらしい。
空腹は最高のスパイスだと母さんも言ってたな。
だから家から俺を追い出してシンを連れ出すように頼まれたんだっけ。
あの頃はまだ仲が良かった。
でも中学生になってから向こうから距離を置かれて、訳がわからなかった。
もう関係ない。そう思えてしまったら良かったんだが、余裕ができるとどうしても本心を聞き出したくなってしまうもんだ。
「飯狗? もうどれにするか決めたんだけど」
「おっと悪い、考え事してた。じゃあ開けるな?」
「ワクワク」
宝箱は一種のガチャだ。
でも俺のスキルはそいつをズルして複数回入手する。
二回で終わるか、四回、七回と増えていくかも完全ランダム。
まるでギャンブルに身をやつすように、俺と要石は宝箱オープンに興奮を覚えていく。
一つ目、要石の選んだ宝箱から出てきたのは薄汚れた小さな丸い石だった。なんだこれ?
【+1】で同様に薄汚れた菱形の石。どちらも手のひらサイズである。
【+2】で携帯食料が二個出て終わり。
それを要石に手渡すと、俺と同じように不審がった。
「何これ、ぼろっちぃ。ハズレ?」
「ボロいならお得意の洗浄だろ?」
「そうだった。綺麗にしちゃるからなー?」
意外と物分かりは良いようで、直ぐに行動に移す要石。
その隙に俺も宝箱を開けていく。
まずは錆びついたナイフだった。どう見てもこのままじゃ使えそうにない。あとで要石に洗浄かけてもらうか。
【+1】で生徒手帳。なんでこんなものがここに? 随分と血に塗れていて、すごく不吉な予感がした。
【+2】で要石に渡した丸い石ころと菱形の石ころが出てくる。
本当になんなんだこれ?
【+3】でポーションが三個手に入った。
俺は食らったら即死だし、これは要石に渡しとくか。
こうして俺たちのワクワクトレジャー鑑定は終わった。
そして洗浄を終えた要石がいつになく神妙な顔つきで俺に近寄ってくる。
「どうした?」
「このぼろぼろの丸い石ころ、春日井小波のこなみんのソウルコアって出てくんだけど、飯狗はどういう意味だと思う?」
「なんだって? そっちの菱形は?」
「こっちも小波のスキルコアだって。三段階目まで成長してる。向こう側で何かあったに違いない!」
「なんだってそんなものが宝箱から出てくるんだ?」
「そんなのあたしだってわかんないよ! 早く合流しよう!」
「そういきたいところだが、もうワンセット似た様なものが出た。こいつを洗浄してくれるか?」
「もしかしてシン君の?」
「……その可能性は低いだろ。あいつにとってここは庭だぜ? 万が一にもそんなミス犯さないだろ」
「じゃあ、じゃあ、狭間っちの?」
「かもしれん。辛いだろうが頼む。俺は箱からアイテムを取り出すことはできても、それを綺麗に洗う事はできないんだ」
「やってみるっ!」
狭間さんとは表面上のやり取りしかしてないと思っていたが、集団行動してる間にどうやら距離を詰めたらしい。
それか要石がコミュ強なだけなのかもしれないが、俺には絶対無理だということがわかった。
そして洗浄の結果、やはり狭間さんのソウルコアとスキルコアであると判明した。
生徒手帳は、彼女の遺品だろう、整った顔がクールにこちらを見つめてる。
なんだってこんなことに!
これがここに残るということは、ダンジョンに喰われたと見て間違いないか……
「まさかシンまでやられてないだろうな? 俺に骨を拾わせるなよ?」
「も、もぅ怖いこと言わないでよ頼っち」
今なんて?
聞き慣れない言葉を聞いた気がする。
「へ、変かな? いきなり渾名で呼ぶのは」
「初めてのことなので正直ドキドキしている。でもどうして急に?」
「いっぺんに知り合い二人が死んだって聞いて心細くて。飯狗は弱いなりによくやってるし、良い加減認めてやっても良いかなって」
初手謎のマウントありがとうございます。
まぁね、知ってた。そりゃ知り合いが急に二人もお亡くなりになれば気が滅入るよな。
離れ離れになったシンの安否も気になるし、最弱と言われた俺を頼りたくなる気持ちもわかる。
「ふぅん」
「ちょ、調子に乗るんじゃねーし。別にあんたのこと好きになってなんてないんだからね!」
「俺も同じくだ。今更掌返されたって調子狂うしな。家に帰るまでの共闘だ。学校で会っても他人のフリしようぜ? それが一番良い解決策だ。俺はこんなスキルだし他人に期待してないからな」
「そう、だよな。悪かった、あたし黙るわ」
俺の前だと強気になる要石だが、いつになく気弱だ。
やはりショックが強すぎたのか、黙々と携帯食料を口にしている。
なんにせよ、生きてここから出なくちゃな。
出口があれば良いが……
調子の悪い要石を連れて、俺は最下層の中でも最奥と思われる場所についていた。
やたらでかい扉。
そして重苦しい威圧感が、この先にボスが待ってますよと言われてる様で、嫌でも身構えてしまう。
「頼っち、ここに入るの?」
「ここまで一本道。帰る道もありゃしない。だったら進むしかないだろう?」
「本気?」
「どうせここまで来たからには引けねーよ。無駄死にするにせよ、自分達の成長を信じようぜ?」
「……分かった」
扉の先には、シャドウゴブリンが群れていた。
その中に一際大きな存在が玉座に座っている。
そいつから放たれるプレッシャーに、俺たちは押しつぶされそうになっていた。
レベルは雑魚なりに十分上げたつもりだ。
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飯狗頼忠
レベル:11
称号 :ラッキーマン
筋力:15
知識:14
耐久:15
精神:30
器用:18
敏捷:14
幸運:1100
<スキル>
【+1】発動確率50%×【幸運】補正
【+2】発動確率25%×【幸運】補正
【+3】発動確率10%×【幸運】補正
行動回数、ドロップ再抽選に大きく影響する
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<装備>
アイアンボックス×4
シルバーボックス×3
マジックポーチ(宝箱専用)
マジックポーチ(鍵専用)
<アイテム>
ポーション×3
非常食×4
狭間ひとりのソウルコア
狭間ひとりのスキルコア
鉄の鍵×2
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要石カガリ
レベル:14
称号 :潔癖症
筋力:81
知識:30
耐久:70
精神:10
器用:30
敏捷:15
幸運:10
<スキル>
【洗浄Ⅰ】手のひらに乗る範囲で物体を洗浄する
【洗浄Ⅱ】洗浄Ⅰの効果に状態異常解消を載せる
【洗浄Ⅲ】洗浄Ⅰ、またはⅡの効果を指定範囲に飛ばす事ができる
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<装備>
シルバーレイピア【物攻+30】
シルバープレート【物防+35】
マジックポーチ(非常食専用)
マジックポーチ(ポーション専用)
<アイテム>
非常食×3
ポーション×10
春日井小波のソウルコア
春日井小波のスキルコア
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