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第4話 囮作戦

 ──ギャア、ギャア


 上空から時折聞こえる鳴き声は、この世の終わりを告げるようだった。

 ただでさえ俺のステータスは幸運以外低い。

 モンスターと出会ったらおしまいだ。

 俺はシン重に通路の奥を窺って、動いた。


「きゃあああああああ!!」


 通路の奥で要石と思われる悲鳴が聞こえる。

 続いて金属を打ち付ける音が響く。

 戦闘に入ったようだ。


 そろりそろりと部屋の中を覗き込むと、荷物を投げつけて敵を分断している要石を見つけた。


 が、相手が悪い。

 敵は深層で何度かエンカウントした闇を纏う蝙蝠『シャドウバット』だ。

 上空に逃げられたら春日井の【トーチⅡ】かシンの【ファイアボール】以外での対抗手段がない。


 荷物を投げても【器用】が低いのか、命中はしなかった。

 すぐに上空に逃げられてしまい、闇に隠れられた。

 あとはいつ襲いくるかもわからない中、コソコソ動く他なかった。

 ソロでの探索が推奨されてない理由はこう言うところにある。


 が、それは俺にとっても同じ事。

 出来ることは明後日の方に石を投げて注意を逸らすことだろう。せめて要石が逃げ切れたらそれでいい。


 顔を合わせれば俺の事を悪く言うやつだが、死んで欲しいとまでは思っちゃいない。

 俺が我慢してればいいだけである。


「飯狗、いるの?」


 要石が全く別の方向からの投石に俺を思い浮かべたのか声をかけてくる。

 だがここで正直に声を上げれば狙われるのは俺だ。

 死んでほしくはないが、囮になってもらうつもりだった。


 ──バサバサバサバサ!


「きゃああああああ!」


 ほら、言わんこっちゃない。こんな暗闇で声を出すと言うことは自分の位置を教えているようなもんだ。

 小型犬くらいある蝙蝠に覆い被され、吸血される要石。

 隙だらけの背後から、俺は産業廃棄物のナイフを羽根に向けて振り下ろした。


 ────────────────────────────


<クリティカル!>

 シャドウバットに1ダメージ!


【+1発動!】

<クリティカル!>

 シャドウバットに1ダメージ!


<猛毒発動!>

 シャドウバットに30ダメージ!


 ────────────────────────────


 猛毒ダメージやべー。

 産業廃棄物とか言ってごめん、狭間さん。

 これめっちゃ役に立つよ。


「ギャア、ギィイイ!!」


 即座に羽ばたこうとするシャドウバット。

 何が何だかわからず、要石が周囲を警戒する。

 なぜか噛みつくのをやめたシャドウバットに違和感を覚えたのだろう、俺がいるのだろうとあたりをつけて声をかけ続けた。


「飯狗、やっぱり居るんでしょ? 出てきなさいよ。さっきはあんなこと言ってごめんなさい。あたし、すごく反省してるの」


 その言葉には必死さが伺えた。

 しかしシャドウバットからしたらそんなこと関係ない。

 俺は距離をとって要石から見えない位置に待機する。


 叫ぶ要石、襲うシャドウバット。その背後からバックアタックでクリティカルを狙う俺と言う構図が出来上がる。


「ちょっと、意地悪しないで助けてよ! こんなに謝ってるじゃん!」


 謝ってる割には俺に対する感謝の気持ちが足りてなくないですか? 

 要石の発言を無視して、俺はさっきの動作を繰り返す。


 ────────────────────────────


<バックアタック発動!>

<クリティカル!>

 シャドウバットに1ダメージ!


<猛毒ダメージ>

 シャドウバットに30ダメージ!

 シャドウバットは【飛行】できなくなった


【+1発動!】

<猛毒ダメージ>

 シャドウバットに30ダメージ!


 ────────────────────────────


 よし、部位破壊成功!

 シンはあまりに圧倒的すぎて瞬殺だったが、やっぱりあるよな部位破壊。


 それを繰り返すこと20回。

 ようやく俺はソロでの討伐を果たした。


 ────────────────────────────


<レベルアップ!>

【筋力】が1アップ

【知識】が1アップ

【耐久】が1アップ

【精神】が2アップ

【器用】が1アップ

【敏捷】が1アップ

【幸運】が100アップ

 スキル【+2】を覚えた

 アイアンボックスを手に入れた


 ────────────────────────────


 飯狗頼忠

 レベル:2

 称号 :荷物持ち

 筋力:2

 知識:2

 耐久:2

 精神:3

 器用:2

 敏捷:2

 幸運:200


恩恵スキル

【+1】発動確率50%×【幸運】補正

【+2】発動確率25%×【幸運】補正


 ────────────────────────────


 相変わらず幸運以外の成長率が酷い。


 でも新しく増えたスキル【+2】

 これは幸運補正だからこそ俺向きか。

 本来なら四回攻撃して三回失敗するピーキーなスキルだが、俺が扱えば500%、さらに【+1】と別スキル扱いなので攻撃回数が鰻登りだ。

 攻撃力が1にしかならないので雀の涙ではあるが、これは強い武器になるな。


「飯狗~、倒したの? 倒したんでしょ? あんたやっぱり強いんじゃない。強いの隠して弱いふりしてたんでしょ? そんなこったろうとおもったわ。ね、良い加減出てきなさいよ。一人じゃ寂しいのよ」


 虚空に向かって要石が何か言ってるが無視。

 放置してれば、少しだけ気が晴れたのか、大事な食料を取り出して暴飲暴食をし始めた。

 あいつ、後先考えてないな?


 それよりも俺は手に入れた宝箱を注視する。

 アイアンボックス。それはゴブリンが落とす木の宝箱とは違い、鉄製の宝箱だった。


 シン曰く、鉄製の宝箱からトラップが発動するらしい。

 だったら俺はこれを武器として扱うことにした。

 自分で開けても良いが、もしトラップが発動したらヤバいもんな。


 ただでさえ低いステータス。一発でも喰らえば即アウト。

 ここはEランクダンジョンの深層なのだ。

 要石ほどお気楽に過ごせない。


「ふぅ、小腹を満たしたら少しはスッキリしたわ。飯狗、出てきてくれないならそれで良いわ。でもピンチになったら助けなさいよ? あんたにはあたしを守る義務があるんだからね?」


 どんな義務だそれは。どれだけ自分は尽くされて当たり前という思考なのだろう。

 どちらにせよあいつが好き勝手動けば俺も動きやすくなる。

 当分は付き合ってやるか。


 なんだかんだで俺もお人好しらしい。

 何故かモテないが、顔の作りについては両親から授かったものなので俺に言われても困ると言うやつだ。


 深層を進むたび、要石のモンスターとの接触と食糧の消費は増えていった。

 自分さえ良ければ良いと言う精神は、どんな極限状態に陥っても保てるこいつは、実はメンタル最強なんじゃないか?

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