シンの戦闘力は圧倒的だった。
確かに言うだけはある。襲いくるゴブリン達に対し、腕を払うだけで瀕死に追い込んだ。
女子達はトドメを刺して熟練度を上昇させていく。
それができるのは【筋力】のステータスがゴブリンの防御を抜く8以上あるからだ。
対して俺の【筋力】は1。
宝箱が来ない限りチャンスが回ってくることはなかった。
幸運が100と高いが、それ以外が1の俺はこのお荷物パーティの中に置いてもカースト最下位なのは明らかだった。
「ん、合成のレベル上がった。素材指定が三つに増えた。これで色々作れる」
ゴミ生産機が粗大ゴミ生産機へと生まれ変わったことを名乗りあげる。
本人は喜んでいるが、受け取る側は迷惑極まりないと言う顔だ。俺ですら扱いに困る。
「あたしも、洗浄上がったわ! 傷口から入った状態異常を緩和させるって! これ強くない?」
要石は己の有用性をシンに教えるが、そもそもここまで怪我らしい怪我もしてないシン。
どこか鬱陶しそうに相手をしている姿が見えていた。
「トーチも上がったわ。自身が光る他に、指定先に照明を設置する事ができるみたい。これで少しは役に立てそうよ」
囮役から戦力の広まった囮にパワーアップしたらしい。
この中で俺だけ熟練度を上げる機会が得られない。
熟練度はモンスターのラストアタックをした者か、スキルを使った回数によって上がるとされる。
シンは女子達の好感度上げにダンジョンに連れてきたのは明らかだ。しかし、俺を連れてきた理由がいまだにわからない。
わざわざ孤立させるんなら、世話なんか焼かれなくたってとっくにクラスの空気だ。
「俺は宝箱待ち」
「あんたは本当に役に立たない男ね!」
「まぁまぁ、頼忠だって役が回ってこなくて焦ってるんだ。宝箱を出せない僕にも非がある」
「シン君は優しすぎるのよ」
「飯狗は精一杯感謝するのよ!?」
「ん」
とうとう全員から役立たず認定を受けた俺。
だから言ったじゃんよ、俺を連れていく意味があるのかと。
こうなるって分かってたから辞退したんだぜ?
それを無理やり誘ったのはどこのどいつだよ!
「悪いな、頼忠。ゴブリンから宝箱のドロップ率が上がるから連れてきたのにまずい空気吸わせちゃって」
どこまでが本心かわからぬフォローをどうも。
しかし無能の俺にもフォローをできるアピールは女子達に好印象に受け取られたようだ。
「気にしてないよ。俺の活躍の場はお前が用意してくれるんだろ? それまでは荷物持ちに精を出すさ」
「ならよかった。じゃあこれも頼むな?」
そう言って差し出されたのは狭間さんが作り出した粗大ゴミだった。
ゴブリンの落とした武器なのだろう、随分とボロボロで錆びたナイフに、超低確率で猛毒を付与する効果が乗るようだ。
明らかに特大のゴミに、できる男シンでもこれにはお手上げだったらしい。
だが俺にとってはこれ以上ない攻撃手段なのでありがたくもらっておく。ただこの武器、問題があるとすれば、高確率で壊れる事にある。
まさにゴミオブゴミ。
狭間さんが可愛くなかったら誰だってそこら辺に放るだろう逸品だ。
「ありがたく使わせてもらうよ」
そんなこんなで順調に進む俺たちパーティ。
ゴブリンの集落も抜け、深層へ。
たったの三階層と思うことなかれ。
中層から明らかにフィールドが広がってる事から非常に迷うのだ。もし一人でこんなところに放置されたら、死ぬ確率はぐんと上がる。
否、絶対に死ぬに決まっている。
ここにくるまでシンの活躍があるからこその快進撃だった。
ゴブリンから落ちた宝箱は木箱が多く、出てくるものはピンキリで言えばキリが多かった。
そこでも俺の熟練度は上がらず、お荷物の烙印を押されていた。
ゴミ量産機の狭間さんにさえ失笑される始末。
俺のパーティ内ヒエラルキーはどんどんと落ち込んでいった。
しかし、ハズレばかりではなく、数回に一度引く大当たりもある。一回目の抽選ではゴミだったが【+1】で引いたのが大当たりだったのだ。
「よっしゃ、短剣引いたぜ。攻撃力は+10だって。シンの使ってるものに比べたらゴミかもしれないが」
「それでも十分すごいよ! 頼忠を連れてきて正解だったな。このナイフは筋力の高い順に配ろうと思う。頼忠もそれでいいか?」
「俺に発言権があると思うか?」
「そう悲観するなよ。確かにトドメはさせないが、最初からお前に頼みたかったのはこれだったんだから」
「あたしはそれで構わないわ。飯狗の癖してやるじゃん」
「見直したわ」
「すごい。でももっと前に出て欲しい」
無茶振りしなさんな。この中で最弱よ、俺?
男子だからが通用するのは30年前で終わってるっての。
今やステータス時代。
目に見える数字次第でマウントが取れる時代に男女差なんて関係ないのだ。
だから狭間さんのご期待に添えることはなかった。
そして深層の奥のボス部屋手前、そこで事件が起きた。
装備が整っていき余裕の生まれた要石が、独断専行し、トラップを踏んだのだ。
それは仲間を分断する落とし穴で、あろう事か俺は要石と一緒に深層に取り残されてしまう。
幸にして壁は薄く、大きく叫べば声は向こう側に届いた
まずい、まずい、まずい。
俺は自分の陥った状況に要石以上に警戒を強めていた。
まさかここにきて役には立たないが、灯りを失うことになるとは思わなかった。
中層では光源があったが、深層は何かの遺跡のような雰囲気。
薄暗く、ジメジメして生暖かい空気が吐き気を催した。
まだ無双状態のシンがいたからこその余裕が消え失せたのだ。
「二人とも、そこからあまり動かず、僕たちが合流するまで待っててくれないか?」
シンの声は力強いが、俺たちの心配というよりは荷物の方の心配が大半か。
向こうからしたら食料を持つ俺との合流は必要不可欠。
しかし一人パニックに陥った要石は、シンの到着を待つことなく出発しようと言い出した。
「行くわよ飯狗! 今すぐにここから脱出してシン君と合流するんだから!」
「無茶言うなよ。こんな暗い場所、春日井なしでどうやって進むんだ?」
「そりゃあんたが壁になって!」
「それで荷物をモンスターに食い荒らされ、俺を無駄死にさせてシンから怒られるのか?」
「なんとか荷物だけは死守できない?」
「ステータスで上を行くお前が、俺を盾にするメリットが見えてこない。普通は逆だぞ? 男女差別はステータスが見えるようになってから通用しなくなったのはお前だって知ってるだろ? そもそもお前が踏んだトラップだ。全部が全部俺に当たるんじゃねぇよ」
「なんでよぉ、シン君だったら助けてくれるのに! どうしてあんたなんかと一緒なのよ! もう嫌ーー!」
「それは俺も言いたいよ。なんで一番役に立ってないお前と一緒なんだってな」
「もういいわ! あたしの荷物返しなさいよ! あんたの食料ももらってくわ! じゃあね、腰抜け野郎!」
そう言って、食料を奪って先行する要石。
俺は要石を引き止めることはしなかった。
俺はきっとここで死ぬ。
要石と一緒に行動したら、その危険性はグンと上がるのは目に見えていた。
それでも誰かに頼る事しかできない要石を放っておけず、俺は暗い穴倉へと歩みを進めた。
「ったく、あまり強い敵は出てこないでくれよ?」