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第2話 素人の天敵

 シンの活躍を一言で表すなら、圧倒的だった。

 それだけの力量に、俺を含めクラスメイトの興奮も最高潮だった。

 初めてのダンジョン、これだけ強いならお荷物がいくら増えても余裕なのは伺える。

 自分達は大丈夫だと、確かな確信を得ていた。


「凄いわシン君! 強そうなモンスターですら瞬殺よ!」

「まだ上層だからね。要石さんも熟練度を上げたらすぐだよ」

「本当ぉ? 洗浄でも倒せる?」

「熟練度次第かな? 春日井さんのトーチだって目潰しに活用できるんだ。ハズレだからって落ち込むことはないぜ?」

「うん、すごく励みになるよ」


 シンは女子への気遣いを忘れない。

 モテる秘訣はそこか。俺には到底無理だな。

 誰かと付き合おうって気すら持てない。

 そもそも負け確定のスキルだからな。


「シン君、そこら辺に落ちてる草を集めて合成して見たのだけど……」

「これは?」


 狭間さんが何やら毒々しい色合いの薬品を手渡した。


「合成結果では微熱毒と書かれていたの。もしかしたら攻略の役に立つかもしれないと思って。どうかな?」


 媚を売っていると言う感じではない。

 どちらかと言えば自分の有用性を上げることで役に立とうと言う気概を見せているのだ。

 俺も見習わなければな。


「そっか。でも僕は必要ないかな? 狭間さんが使いなよ。後衛だからって安全とも言い切れないしね。勿論、僕がカバーに入るけど、数によっては遅れることもあるからさ」

「余計なお世話だった?」

「ううん、嬉しいよ。でも僕は投擲のステータスが低いからさ、ごめん」

「ステータスにそんな項目が?」

「そっか、探索者なら常識でも高校生じゃ知らないか。ここの【器用】+【幸運】÷2%が投擲の適正値になるんだ。僕は器用こそ高いが、幸運がそんなでもないんだ。だから命中しても、効果をうまく載せることはできないと思う」

「だから飯狗君を連れてきた?」


 狭間さんが俺の方をチラリと見る。

 ほへぇ、ステータスにそんな仕掛けがねぇ。

 確かに俺の【幸運】は100と高いが、【器用】が1と死んでるから命中させる事は出来ないぞ?

 聞いたところで役にたたねぇ!


「まぁな。頼忠の幸運値は僕らの中で一番高い。まだ宝箱のドロップは出てないが、僕はそこに賭けてるんだ」

「そう、じゃあこのアイテムは飯狗に渡しておくわ」

「その方がいいかもな」


 狭間さんから「はい」と手渡された産業廃棄物。

 ゴミとゴミを組み合わせてもできるものはゴミでしかない。


 シンは表面上笑顔を繕っているが、そんなゴミを渡されたって荷物になると顔に書いてあった。

 女子の手前、フォローしてるが相手が男子だったらこうはいくまい。

 男と女で対応を変える男、それが漆戸シンという奴だ。

 男子からめっちゃ嫌われる行為だが、実力もあるから誰も手を出せないでいるのが現状だ。誰だって怪我したくないもんな。


「ありがとう、狭間さん」

「ん」


 やり取りはこれで終了である。

 本当に俺に興味すら持ってない彼女は、何をしにこのパーティに参加したのか甚だ疑問である。


 ダンジョンの低層を進む事一時間。

 俺の荷物には嫌がらせとしか思えない狭間さんお手製のゴミが積み重ねられていた。

 ただでさえ命中率の低い俺。

 そしてモンスターはシンの手によって葬られ、俺の活躍の機会はないままに終わる。


 そして小休止を挟みつつ、お荷物四人を連れたパーティは中層へと至った。


 地下に潜って行ったはずなのに、真上から降り注ぐ太陽光に目を瞑る。

 これがダンジョンの不思議。

 この時点で春日井さんが役立たず確定になる。

 が、今のところ宝箱のドロップすら無いので俺が彼女のことをとやかく言える立場には無いが。


 今まで遭遇したモンスターは小型犬サイズのネズミやら蝙蝠だったのに、中層にきてモンスターのサイズが大きく変わる。


 ダンジョンは中層から本番と言われる理由がよくわかる。

 中層に現れるモンスターは明らかに人並みの知識を持ってると思われる遺物な建造物が目立つ。



「これは?」

「この辺りはゴブリンの集落地があるようだ。文字は読めないけど、十分気をつけて」


 聞いた事がある。小学生高学年ぐらいの背丈で緑色の肌。

 鷲鼻が特徴のモンスターで、人類に強い嫌悪感を持つらしい。

 出会ったら即座に始末するか、見つからないように立ち回るかがその後に影響する。


 特に厄介なのが『仲間呼び』だ。

 一匹見つけたら十数匹いると言われる数だけは異様に多いモンスターの代表格だ。

 ちなみに作り物のファンタジーと違って、女子を襲って子供を産ませる個体は居ないそうだ。

 だが女子の肉を好き好んで食べる個体もいるので、女子というだけで肉壁として扱われることもある。


 ダンジョンとは法の通じない特殊空間であり、入ったら最後。

 スキルを上手く育てない限りいつ命を落とすかわからない場所なのだ。


 その知識は一般教養でも習うため、女子達の視線が俺へと集中する。

 要はお前は男なんだから女子を助けるのが役目だろう、と言う事らしい。


 初めからこれを予測しての配置だったか。

 シンの狙いは俺をここで亡き者する狙いがあった?

 しかし俺にはそこまでの理由が見当たらない。


 何せ中学時代に袂を分かったからだ。それ以降俺たちは付き合いはない。たまに親父からシンの噂を聞く程度。それくらいだった。


「飯狗、あんたゴブリンが出たらあたしたちを守りなさいよね?」

「俺のスキルでどうやって守れってんだよ。それともお前らの荷物を犠牲にしてもいいのか?」

「それは絶対に死守しなさい! ほんっとう空気が読めないわね!」


 ハハハ。絶賛役に立ってない要石にだけは言われたく無いわ。

 よく光る春日井も同様に、ゴミを生み出すだけの狭間さんもこのチームのお荷物である。

 女子だからシンに優遇されてるが、どう考えたって肉壁にされる目的で連れてこられたことに気づいてないのはやばいな。

 それを言ったら俺も亡き者にされる前提。泣けてくるぜ。


「シン、お前ここにゴブリンがいるって知ってて俺たちを誘ったのか?」


 ゴブリンは探索者にとってはゴミクズでも、一般人にしてみたら山の中でクマに出会うのと同じくらいの脅威。

 その上で群れる事から実力のあるものと同伴していない限りダンジョン内に連れていく事が許されていない。


 だがここはEランクダンジョン。

 Cランクのシンによっては庭みたいなものでも、俺たちにとっては死の危険性があまりにも高すぎた。


「そう怖い顔するなよ頼忠。確かにゴブリンは出るが、僕のスキルと非常に相性がいい相手なんだ? 僕のフレイムバリアで火だるまにする、弱らせたゴブリンにとどめを刺して熟練度を狙おうって寸法だ。今までと変わらないよ?」


 確かに今までもそうだった。シンにとっては今までの雑魚の延長で見ているのだ。だが、それでもこんな見晴らしのいい場所で、武器を扱う相手に今までと同じは通用しないだろう。


「飯狗の癖にシン君に逆らう気?」

「あんたは命令に従ってりゃいいのよ!」

「同意」


 女子達が俺の言葉に反論する。

 今まで俺のやることに文句を言わなかった狭間さんまで俺に対してキツく当たってきた。

 自分の命がかかれば、仕方ないか。

 勿論俺だってタダでやられてやるわけにもいかないからな。

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