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第4話



 政界に派閥があるように、鬼界にも派閥があるのだと、今夜、マヤは知った。



 チャラ鬼の『夜叉衆』なる鬼一派の他にもいくつか派閥はあるようで、現世の政界同様、たいてい仲が悪いらしい。



 名前から想像がつくとおり、夜叉は『夜叉衆』の長で、アスラとおなじく高位階級の霊体であり、おなじく自意識過剰だった。



「鬼の長たちのなかでも、俺は比較的、中立穏健派。全体の流れを読んで、場を取り持つというか、和ませるというか。まあ、組織にとってなくてはならない存在ってやつだな。肝心かなめっていうか~」



 自意識過剰の途中で、「うるせえ」とアスラが尻を蹴り上げた。



「何が穏健派だ。この戦闘狂が」



「やだなあ。戦闘狂それ、阿修羅衆の長にだけは云われたくないよ」



 そういいつつ、アスラの腹に雷撃をお見舞いする穏健派。



 やられたらやり返す派の鬼の小競り合いを見飽きたマヤは、



「それで、夜叉の長が何の用?」



 もとよりチャラい系があまり好きではないマヤは、アスラ以上の冷遇をもって、夜叉に接した。そんなマヤの態度に、夜叉の口がとがる。



「冷たいなあ。俺は絶対に、吸血鬼より鬼の方がいいと思うけどなあ」



 「それはない。吸血鬼の普遍的な魅力にはかなわないわよ」



「そうかなあ。アイツらって自意識過剰じゃない。特権階級意識も断トツ高めだし、あれこれ血統でしばりすぎ」



 もし本当に吸血鬼が存在しているならば、鬼一派にだけは自意識云々、いわれたくないだろうなと、マヤは思った。



 自分のことは棚にあげ、ポジティブ思考なチャラ鬼は、



「まあ、いいや。第一印象の悪い男の意外な姿に、あるときハッとさせられて、いつの間にか目で追いかけてしまう~っていうのは王道だし、今後の伸び代に期待できるから」



 より一層冷たくなったマヤの視線に気づかなかったが、ここでようやく【落ち武者塚】に現れた理由は話してくれた。



「じつはさ、この辺りで小槌の霊力反応があったから急行しろって、俺のところにも閻魔庁から回収要請がきたんだよ。それで急いできたら、けっこうヤバそうな現場だっていうのに、アスラは今生の繋ぎ人とイチャイチャしはじめてさあ」



「わかっているなら、さっさと消えろ。だれも、てめえの助けなんか必要としてねえ」



 そこで、割って入ったのはマヤだった。



「必要だよ!」



「あぁ? 何いってんだ、マヤ」



 顔を険しくするアスラに対して、



「やっと俺の魅力に気づいてくれたか? そうだよな。こんなしかめっ面といるより──」



 緑眼を輝かせた夜叉が、また余計なことを口走る前に、「そうじゃなくて」とマヤは否定した。



「いやいや、頭数がそろったなあ、と思って」



「頭数?」



 チャラ系の鬼が、怪訝な顔になった。



「そう、一人より二人、一鬼より二鬼って感じ。人でも鬼でも、味方ならダレでもいいってこと。だって、かなりヤバイんでしょ、ここ」



「ダレでもいいって、よ」



 意地の悪い顔をしたアスラが、肩を震わせて──クックックッと嗤う。



「俺、夜叉衆の長だよ。こんな扱いされたの……はじめてだ。現場に俺が現れたら、敵は慄き、味方は諸手をあげて喜ぶのに」



 非難がましい目を向けられても、マヤはお構いなしだ。



 黄泉比良坂所の職員でなければ、今後もたいした接点はないだろう。



「ところで、夜叉って強いの? アスラとどっちが強い?」



「どう考えても俺の方が強ぇが、こいつも弱ぇわけではない。一応、鬼神で現世では、日ノ本北東方面隊・怨霊憑物夜行やこう改方あらためかたで鬼隊長をしているからな」



「なにそれ、長ったらしい役職名。でも、改方あらためかたっていうことは、奉行所みたいな感じ?」



 アスラが「まあ、そうだな」と答えたので、



「それじゃあさあ、ちょっと、先に行って様子みてきてよ。全員で行くよりも、ここは改方あらためかたが先陣きってさ、小槌を探してきて。手柄はもちろん、わたしたちが貰うけどね」



 マヤの言葉に、「ひでぇ」と夜叉が青ざめた。






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