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じゃんけんステップ・レベル100
M
文芸・その他ショートショート
2024年09月25日
公開日
2,432文字
完結
ヒロシとマサカズは、じゃんけんステップで遊んでいたが、グーだけ歩ける数が少ない事にヒロシは不平等を感じた。なので、ヒロシは自分でオリジナルじゃんけんステップの新ルールを作る事にしたのだった。

第1話

「最初はグー!じゃんけんポン!俺の勝ち!グ・ミ」

「じゃんけんポン!僕の勝ちだね。チ・ョ・コ・レ・イ・ト」

 ある日、ヒロシとマサカズはじゃんけんステップをしながら下校していた。じゃんけんの勝率はヒロシの方が高かったが、ゲームはいつもマサカズが勝っていた。その事がヒロシは気に食わなかった。

「あー!また負けたー!何でじゃんけんでは俺の方が勝ってるのに、マサカズが先にゴールするんだよ!」

「だって、ヒロシ君はグーばっかり出すもん。グーで勝っても二歩しか進めないから、負けるのも仕方無いよ」

 マサカズの言う通りだった。じゃんけんステップではグーで勝った時は『グ・ミ』と言いながら二歩進めるが、チョキなら『チ・ョ・コ・レ・イ・ト』で六歩、パーだと『パ・イ・ナ・ッ・プ・ル』で同じく六歩進む。グーが圧倒的に弱いのだ。

「ヒロシ君、勝ちたいならグーを出す回数を減らしてチョキも使おうよ」

「いやだっ!グーはヒーローの技なんだよ!つーか、グーが一番カッコいいのに、何でじゃんけんステップでは最弱なんだよ?」

「この遊びを作った、昔の人がそう決めたからだよ」

「そっか、んじゃあ『今は』仕方ねえな」

 ヒロシはそう言い、その日以降はじゃんけんステップのルールに文句を言う事も無くなり、マサカズも一安心していた。だが、ヒロシは納得などしていなかった。その事をマサカズが知ったのは三ヶ月後。ヒロシから新しい遊びを持ちかけられた時だった。


「じゃんけんステップ・完全平等版というのを考えた。テストプレイに付き合ってくれ」

「じゃんけんステップ・完全平等版?」

「グーが『ぐんまけん』、チョキが『チョリソー』、パーが『パンプキン』で全部五歩にした」

「食べ物で統一しないの?」

「『ぐ』で始まる五文字の食べ物が思い付かなかったんだよ!とにかく、これでグーは最弱じゃ無くなった!やってみよーぜ!」

 暇だったし、ちょっと面白そうと思ったマサカズは、ヒロシと一緒にじゃんけんステップ・完全平等版をやってみた。

「じゃんけんポン!俺の勝ち!く・ん・ま・け・ん」

 グーで勝って五歩進んで楽しそうなヒロシ。ヒロシが文句を言わないので、マサカズも勝負を純粋に楽しめた。

 だが、勝負を数回繰り返すと二人とも飽きてしまった。

「なんかさー、つまんねえよな、このルール」

「どれで勝っても歩数が一緒だからね」

「逆転要素とかも無くなっちまってるし、このルールは駄目か。マサカズ、お前を『スゲー!』って言わせたくて考えてみたけど、これはボツだ。付き合ってくれてありがとうな」

 グーチョキパーで歩数が違う事で駆け引きが生まれていた事に気付いたヒロシは、完全平等版をボツにして、翌日からはまた普通のじゃんけんステップで遊び始めた。


 そして、五十年の月日が流れた。会社を早期退職したマサカズは、地元に帰って来てヒロシと再会した。

「マサカズ、久しぶりだな!今、何やってるんだ?」

「去年こっちへ帰って来て、両親の畑を継いだよ。ヒロシは?」

「俺は母校で校長をやってる」

 グーばかり出す馬鹿のヒロシが校長になったと聞いて、マサカズは驚いた。

「勉強嫌いだったヒロシが先生、それも校長か。頑張ったんだね」

「ああ。大人になっても、じゃんけんステップの研究していたら、世間から白い目で見られるからな。小学校の教師になるしか無いと思ったんだ」

「君、そんな理由で就職先決めたの!?」

 やはりヒロシは馬鹿だ。でも、田舎の小学校とはいえ校長にまでなったのなら、立派なものかも知れない。

「それでよ、俺の考えたじゃんけんステップが、小学生の間で大人気な訳よ!久しぶりにやらねーか?つーか、やれ!」

「はいはい」

「じゃあ、これルールブックな」

「はい?」


【じゃんけんステップ・レベル100の遊び方】

1:まずは先攻後攻をじゃんけんで決めます。

2:先攻になった方は、じゃんけんの掛け声を担当し、『最初は【ホニャララ】!じゃんけんポン』と言い、その掛け声に合わせてじゃんけんして下さい。

3:【ホニャララ】に入る言葉は、グミ・ぐんまけん・具志堅・グーの中から選んで下さい。選んだ言葉によって、勝利時に歩ける数が変わります。

4:各言葉ごとの勝利時の獲得歩数はこの様になっています。

 グミの場合は、グーでグミ(二歩)、チョキでチョコレイト(六歩)、パーでパイナップル(六歩)。

 ぐんまけんの場合は、グーでぐんまけん(五歩)、チョキでチョリソー(五歩)、パーでパンプキン(五歩)。

 具志堅の場合は、グーでぐしけんようこう(八歩)、チョキでちあきなおみ(六歩)、パーでパンチさとう(六歩)。

 グーの場合は、グーでグー(二歩)、チョキてチョキ(三歩)、パーでパー(二歩)。

 例えば、「最初はぐんまけん!じゃんけんポン!」と言って勝った方がチョキを出していたら、「チ・ョ・リ・ソ・ー」と言いながら五歩進み、「最初はグー!じゃんけんポン!」の掛け声でパーを出して勝ったなら、勝ったほうが「パ・ー」と言い二歩進みます。

5:じゃんけんの勝敗がつき移動が終わったら、今度は後攻側が掛け声を担当し、どちらかがゴールに辿り着くまで繰り返して下さい。


「スゲー!」

 ルールブックを読み終わったマサカズは思わず叫んだ。ヒロシは五十年掛けて最強のグー(ぐしけんようこう)を生み出した上でゲーム性を維持し、瞬間の判断力を競う要素まで取り入れた。そして、小学校の校長という立場を使い、このじゃんけんステップ・レベル100を地元のルールとして浸透させたのだ。

「スゲー!ヒロシ君、色んな意味でスゲー!」

「遅くなったけど、やっとお前のスゲーが聞けて、俺も嬉しいよ。じゃ、やろうぜ」

「うん!」

 ヒロシとマサカズは、四十数年ぶりにじゃんけんステップをしながら家に帰った。

「最初は具志堅!じゃんけんポン!また僕の勝ちだね。パ・ン・チ・さ・と・う」

「くっそー!」

 四十数年ぶりの勝負は、最強のぐしけんようこうで勝ちたいヒロシを、パンチさとうで狙い撃ち続けたマサカズの圧勝で終わった。

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