「最初はグー!じゃんけんポン!俺の勝ち!グ・ミ」
「じゃんけんポン!僕の勝ちだね。チ・ョ・コ・レ・イ・ト」
ある日、ヒロシとマサカズはじゃんけんステップをしながら下校していた。じゃんけんの勝率はヒロシの方が高かったが、ゲームはいつもマサカズが勝っていた。その事がヒロシは気に食わなかった。
「あー!また負けたー!何でじゃんけんでは俺の方が勝ってるのに、マサカズが先にゴールするんだよ!」
「だって、ヒロシ君はグーばっかり出すもん。グーで勝っても二歩しか進めないから、負けるのも仕方無いよ」
マサカズの言う通りだった。じゃんけんステップではグーで勝った時は『グ・ミ』と言いながら二歩進めるが、チョキなら『チ・ョ・コ・レ・イ・ト』で六歩、パーだと『パ・イ・ナ・ッ・プ・ル』で同じく六歩進む。グーが圧倒的に弱いのだ。
「ヒロシ君、勝ちたいならグーを出す回数を減らしてチョキも使おうよ」
「いやだっ!グーはヒーローの技なんだよ!つーか、グーが一番カッコいいのに、何でじゃんけんステップでは最弱なんだよ?」
「この遊びを作った、昔の人がそう決めたからだよ」
「そっか、んじゃあ『今は』仕方ねえな」
ヒロシはそう言い、その日以降はじゃんけんステップのルールに文句を言う事も無くなり、マサカズも一安心していた。だが、ヒロシは納得などしていなかった。その事をマサカズが知ったのは三ヶ月後。ヒロシから新しい遊びを持ちかけられた時だった。
「じゃんけんステップ・完全平等版というのを考えた。テストプレイに付き合ってくれ」
「じゃんけんステップ・完全平等版?」
「グーが『ぐんまけん』、チョキが『チョリソー』、パーが『パンプキン』で全部五歩にした」
「食べ物で統一しないの?」
「『ぐ』で始まる五文字の食べ物が思い付かなかったんだよ!とにかく、これでグーは最弱じゃ無くなった!やってみよーぜ!」
暇だったし、ちょっと面白そうと思ったマサカズは、ヒロシと一緒にじゃんけんステップ・完全平等版をやってみた。
「じゃんけんポン!俺の勝ち!く・ん・ま・け・ん」
グーで勝って五歩進んで楽しそうなヒロシ。ヒロシが文句を言わないので、マサカズも勝負を純粋に楽しめた。
だが、勝負を数回繰り返すと二人とも飽きてしまった。
「なんかさー、つまんねえよな、このルール」
「どれで勝っても歩数が一緒だからね」
「逆転要素とかも無くなっちまってるし、このルールは駄目か。マサカズ、お前を『スゲー!』って言わせたくて考えてみたけど、これはボツだ。付き合ってくれてありがとうな」
グーチョキパーで歩数が違う事で駆け引きが生まれていた事に気付いたヒロシは、完全平等版をボツにして、翌日からはまた普通のじゃんけんステップで遊び始めた。
そして、五十年の月日が流れた。会社を早期退職したマサカズは、地元に帰って来てヒロシと再会した。
「マサカズ、久しぶりだな!今、何やってるんだ?」
「去年こっちへ帰って来て、両親の畑を継いだよ。ヒロシは?」
「俺は母校で校長をやってる」
グーばかり出す馬鹿のヒロシが校長になったと聞いて、マサカズは驚いた。
「勉強嫌いだったヒロシが先生、それも校長か。頑張ったんだね」
「ああ。大人になっても、じゃんけんステップの研究していたら、世間から白い目で見られるからな。小学校の教師になるしか無いと思ったんだ」
「君、そんな理由で就職先決めたの!?」
やはりヒロシは馬鹿だ。でも、田舎の小学校とはいえ校長にまでなったのなら、立派なものかも知れない。
「それでよ、俺の考えたじゃんけんステップが、小学生の間で大人気な訳よ!久しぶりにやらねーか?つーか、やれ!」
「はいはい」
「じゃあ、これルールブックな」
「はい?」
【じゃんけんステップ・レベル100の遊び方】
1:まずは先攻後攻をじゃんけんで決めます。
2:先攻になった方は、じゃんけんの掛け声を担当し、『最初は【ホニャララ】!じゃんけんポン』と言い、その掛け声に合わせてじゃんけんして下さい。
3:【ホニャララ】に入る言葉は、グミ・ぐんまけん・具志堅・グーの中から選んで下さい。選んだ言葉によって、勝利時に歩ける数が変わります。
4:各言葉ごとの勝利時の獲得歩数はこの様になっています。
グミの場合は、グーでグミ(二歩)、チョキでチョコレイト(六歩)、パーでパイナップル(六歩)。
ぐんまけんの場合は、グーでぐんまけん(五歩)、チョキでチョリソー(五歩)、パーでパンプキン(五歩)。
具志堅の場合は、グーでぐしけんようこう(八歩)、チョキでちあきなおみ(六歩)、パーでパンチさとう(六歩)。
グーの場合は、グーでグー(二歩)、チョキてチョキ(三歩)、パーでパー(二歩)。
例えば、「最初はぐんまけん!じゃんけんポン!」と言って勝った方がチョキを出していたら、「チ・ョ・リ・ソ・ー」と言いながら五歩進み、「最初はグー!じゃんけんポン!」の掛け声でパーを出して勝ったなら、勝ったほうが「パ・ー」と言い二歩進みます。
5:じゃんけんの勝敗がつき移動が終わったら、今度は後攻側が掛け声を担当し、どちらかがゴールに辿り着くまで繰り返して下さい。
「スゲー!」
ルールブックを読み終わったマサカズは思わず叫んだ。ヒロシは五十年掛けて最強のグー(ぐしけんようこう)を生み出した上でゲーム性を維持し、瞬間の判断力を競う要素まで取り入れた。そして、小学校の校長という立場を使い、このじゃんけんステップ・レベル100を地元のルールとして浸透させたのだ。
「スゲー!ヒロシ君、色んな意味でスゲー!」
「遅くなったけど、やっとお前のスゲーが聞けて、俺も嬉しいよ。じゃ、やろうぜ」
「うん!」
ヒロシとマサカズは、四十数年ぶりにじゃんけんステップをしながら家に帰った。
「最初は具志堅!じゃんけんポン!また僕の勝ちだね。パ・ン・チ・さ・と・う」
「くっそー!」
四十数年ぶりの勝負は、最強のぐしけんようこうで勝ちたいヒロシを、パンチさとうで狙い撃ち続けたマサカズの圧勝で終わった。