冴えないリーマンである俺はめでたく100社目の会社から首を切られたとこだった。
ふらりと足が赴いたのは電車のホーム。
もう、生きる気力もない。
妻も取れない人生だった、悔いばかりが残るのはしょうがないだろう。
おめおめと生き延びて101回目の再就職もしたくない。
人生を辞めてやる。
神なんて、いなかったんだ。
ふらりと足が自然と動く。
いつもJRは人身事故で止まってんだ、俺が飛び込んだぐらい、なんでもないさ。
また疲れたサラリーマンの飛び込みがありました、とかさらっとニュースで流れて、芸能人の恋愛事情に押し流されていくんだ。
ああ、くだらない人生だった。
でもこれでおわりだ。
ふらりふらりと電車のホームに近づく。
迫る電車はもうすぐだ。
周りの声も聞こえない、
ぐっばい、くだらない人生よ。
身を投げる時、何か強い力に引っ張られた気がしたーーー。
「ああんもう! ! あなたは死んじゃダメなんですってば! ! ! ! 」
グイッと引っ張られた先、温かな温もりと柔らかな感覚に目を見開いた。
見たこともない、豊満なおっぱいに顔を押し付けられて、声がした方を見れば。
艶やかな真っ白い翼に、金の髪、蒼い瞳をした、天使としか呼べない物体がそこにいた。
「……は? 」
「もうもう、あなたは全世界のバランサーで、死んじゃいけない人なんですよう! 分かりましたか? 」
慌てて周りを見てみたら、何もかもが止まっていた。
迫り来る電車も、周りで騒ぐ人も、時計も何もかも。
「どうなってんだ、死後の世界か、ここは」
「だから死んでないですってば! 」
わかりましたか? と顔を覗き込む天使ははちゃめちゃに可愛い。
だからこそ分かるわけがない。
「どうやら、あなたは死の気が出てますが、このわたしが来たからには死なせないですからね! !なにからも守ってみせます! むん!やりますよ〜! !」
どうやらこの天使は俺を死から守る存在らしい。
そんなのはクソッタレなんだが。
「頼むから死なせてくれ……」
ぶらん、と天使に捕まったまま、呟くしか出来なかった。
危機一髪で命拾いしやがったことだけは、伝わった。