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Wonder Starlit
三好ことね
現実世界現代ドラマ
2024年09月25日
公開日
8,320文字
連載中
一人の実験により、星座は擬似的に人間の形へと変わった。
そんな彼ら、星座と一人の観測者は、この世界を照らす程のアイドル、つまりはスターになるため共同生活をすることとなる。
立派なアイドルになるため、人間の形をした通称ホシビトたちの生活は当然前途多難で――

プロローグ スターと

 視界に映ったのは、夜空。

 疲れた私には、いつもより星が輝いて見えた。


 ふと、思い出す。輝いている人間が『スター』と呼ばれていたことを。

 スター、つまりは星。


 思いついた、思いついてしまった。

 あとは、成し遂げるだけだ。

 たとえ禁忌と言われようとも、私にはその一線を越える覚悟がある。


 ならば、そうならば必ずや成し遂げよう。

「――これは、成功が約束された実験だ。星座たちよ、真のスターと成れ!」


 ――午前九時丁度。

 都会の離れ。

 深い森の中にその場所は、ひっそりと存在する。

 研究所……と呼ぶには、少しばかり小さすぎるその場所は、今日という日、大きな実験を開始することとなる。

『星座の観測者』として働くことになった天灯里あまあかりコウは、緊張しつつも扉を叩く。

 そして、一呼吸置いて扉を開く。

「失礼します」

「やあ、待っていたよ。観測者クン」

 白衣を着たいかにも寝不足な女性は、天灯里の方へと振り返る。

 寝不足を訴える寝癖と睡魔に耐える瞼とは対照的に、その表情は自身に満ちていた。


「この時間に間に合うとは、君は運が良い。なんて言ったって、時間通りに来ない人間なんて世の中いくらでもいるからね。君が一秒でも遅れたら、先に始める予定だったよ」

「は、始めるって……観測を、ですか?」

 目線を左右に向ける天灯里。

 それも当然、この研究所には見合わないほど大きな機械が、十数個あるのだから。


「いいや? 確かに君は今この瞬間から観測者となる。伝説の始まりの目撃者となり、その責任として観測し、記録する義務がある。……とはいえ、名乗らないのも不便だ。君、名前は?」

 いつの間にか詰め寄られる形となり、その威圧感から答えざるを得なかった。

「天灯里コウです」

「良い名じゃないか! 私はセイ。気軽にセイ博士とでも呼んでおくれ」

 楽しげに笑いながら離れると、十数の機械を束ねているもう一つの機械へと近づく。


「あの、それって……?」

「言わなかったかい? 君は『星座の観測者になる』と」

「ええ、それを聞いて此処に来ましたが……」

「天灯里クン、そもそも君は運が良い。本来なら私一人で完結するはずだった実験に参加できるのだから」

「へ……?」

 ――確かに今実験、と言われた。

(この人は何をする気だ……?)

 天灯里は警戒心で身を引き締める。

 そんな姿をセイは誂うように笑った。


「諸事情があってね、君以外巻き込めなかったんだ。これから起きることは現実だと、しっかり君が覚えておけ」

「諸事情って、一体何を……」

「まあ、落ち着け。見ての通り私は寝不足でね。責任は取れないよ」

「――っ!」

 セイはその言葉通り、なんの断りもなくスイッチを押し、起動した。

 瞬間、十数の機械から光が放たれる。

 ――それは目を開けていられないほどの瞬き。


 白が止んだ頃、漸く目を開くことが叶った天灯里は絶句する事となった。

 そこには、機械と同じ数の人間が居たからだ。


「……な、な、な!? い、一体何を……! 彼らは……一体何処から……」

「『何処から』って、星空からだよ?」

「は、はい……?」

「彼らは星座。私はこの機会を通して彼らを捕まえたスカウトしただけだ」

 尚更何を言っているのか、理解に苦しむ。


「まず、私が星座をの反応を観測し、捕まえるスカウトする。勿論、彼らには拒否権だってある。私の誘いに乗ったものが、こうしてホシビト、と言う名の疑似人間になったわけだ」

「疑似人間……? 実験で人間を造った、ということですか!?」

「まあ、そうなるね」

「そんな人類の禁忌みたいなこと……」

「だから言っただろう? 『諸事情で君以外巻き込めなかった』と。君、目撃してしまったね? スターが生まれる瞬間を」

 その言葉に次第に背筋が寒くなる。

 こういった状況で恐怖を覚えるのは、人間の当然の本能とも言えよう。


「ならば、その責任を取らねばならない。そうだろう? 君は観測者として働くんだ。そう――星座スターの観測者、としてね」

 その言葉の圧から、『君には拒否権はない』と告げられているかの様で天灯里は黙ることしか出来なかった。


「疑似人間改め、ホシビトの彼らは現代の人間としての生活を知らない。それに加え、私は研究者だ。生活リズムなんて有って無いようなものだ」

 それを証明するかの如く、軽くあくびをすると説明を続ける。


「彼らはこれからアイドルとして生きていく。諸々の手配等はこちらが済ませる。何と言ったって、私が初めた実験だからね」

「諸々の手配って、まだなにかあるんですね……。で、具体的に僕は何をすれば?」

 全てを諦めた天灯里はセイの実験を受け入れる。

 否、それしか道が残されていなかっただけなのだが。


「君がすることは、二つ。アイドルの彼らをサポートすること。次にこちらが最重要なのだが、彼らが人間として生きるために共同生活をしてほしい。そして、人間というものを彼らには学んでもらう」


 伝え終わったセイの表情は打って変わって真剣なものであった。


「拒否権はないが念のため聞かせてもらう。引き受けてくれるかな?」

 こうして、天灯里の平穏な生活に終わりを告げ、人間の形をした星座をアイドルとして、人間としてサポートする事となるのだった。


 「君は今から彼らとこの地図に記された場所へ向かってほしい。私は諸々済ませたらそちらに向かうよ。車は手配してあるから、運転は君に任せよう。なんて言ったって――」

「寝不足なんでしょう? いくらなんでも運転は任せられませんよ」

「察しが良いな、君。しかしそれだけではない。――彼らはまだ生まれたばかり。名前も無いのだからね」

 名前も、というのはどういうことだ?

 少なくとも、彼らには星座としての名称は有ったはずだ。

 そんな天灯里の思考を読むかのように、セイは続ける。


「まさか君、星座の名称を名前として使えるとでも思っているのかい? 使ったらこんな実験一瞬でバレるだろうね。信じる者と信じない者は分かれるだろうが――人間じゃない、とバレたホシビトは星空に帰らねばならない」

「なるほど、何方にせよ疑いの眼差しが向けられることは避けたい、ということですね」

「彼らのためにもね」


 何処か納得のいかない感情はあるが、一先ず彼らと生活してみなければ何もわからない。

 天灯里はセイの言葉通り、疑似人間……基、ホシビトを連れ、記された場所へと向かうのだった。

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