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第7話 幕間イーサン 〜コトハが現れる前〜

「イーサン様、今回も……申し訳ございません」

「…………そうか、またか」


 今回もまた駄目だった。


 哀しげな表情でこちらを見るレノに、無意識で「いつになったら見つかるんだ――」と愚痴を言いそうになる心と言葉を、イーサンは呑み込んだ。

 レノは大陸一力を持つ神子である。他国でもある程度の精度で番を見つける事ができる力のある彼女は、大陸一を名乗るのに相応しい、とイーサンは思っている。実際、他国にいる神子よりも頭ひとつ飛び抜けた力があるらしい。

 そんな彼女が「判らない」と判断したのであれば、他の神子がイーサンの番を見つける事は不可能と同義だという事だ。


 イーサンはこんな事を十年も繰り返していた。幾ら長寿の竜人族とは言え、十度も「いない」と言われるのは、彼としても中々に辛い。


 そもそもイーサンがこんなにも番を待ち望んでいたのは、家族の影響によるものだ。

 兄たち二人は彼と十歳以上離れており、彼が幼い子供の頃に二人は番を得ている。彼は兄二人の儀式を見ていたし、兄が幸せそうに番と過ごす姿を何度も見てきたのだ。

 番に対する期待が人一倍大きくなっていった、というのが正しい。


 番の儀式は二十歳以上と決まっており、数え年で二十になる者たちが儀式を受ける。中には事情があって受けられない者もいるので、全員がというわけではないが。

 イーサンは勿論、二十歳の年に儀式を受けた。そして非常に楽しみにしていたのである。儀式の前日の夜、嬉しさが顔に出ていたイーサンを家族が微笑ましく見ていたくらいだ。

 だからレノから「イーサン様の番を見つける事はできませんでした」と告げられて、非常に衝撃を受けて――それが十年前の話。そこから彼は毎年儀式を受けていた。


 儀式は数ヶ月に一度の頻度で王城内にある聖堂で行われている。その儀式は一般開放されており、二十歳以上の者であれば誰もが受ける事ができる。ちなみにイーサンの兄たちもこの一般開放された儀式で番を教えてもらっていた。

 ただ、番の判らなかった彼だけは二年目以降、ずっと一般開放の儀式前に受けさせてもらっている。彼が会場の治安警備を引き受けた時に儀式を行う事が暗黙の了解となっていた。


 言葉を呑み込んだイーサンは、レノに頭を下げた後その場から離れ、部屋を出る。そして集まってきた参加者の様子を遠巻きに見つめた。

 儀式の流れは単純だ。女神像の後ろにある部屋へと参加者の一人が入り、レノの儀式を受けた後は左側にある扉から退出する。儀式の内容はレノと儀式を受けた者しか知られないようにする仕組みだ。

 だが彼女の儀式を受けた全員が、退出する際に頬を紅潮させていた。左側の扉から退出する参加者は、大体がイーサンの後ろの通路を利用して教会を出ていくため、嫌でも目についてしまう。

 頬を染めた彼、彼女たちは番が見つかったという事だ。そんな彼らの姿を羨望の眼差しで見る。彼は参加者から離れた場所で警備をしているので、彼の視線には誰も気づく事はない。


「そろそろ私には番がいないと諦めるべきなのだろうな……」


 そんな彼にレノ以上の力を持つ神子が現れた、という朗報が届くのはもう少し先の話――。



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