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79 順位戦



 スラーナに釘を刺されたけれど、ダンジョンに連絡をする役目の人も必要ということでシズクとプライマには帰還してもらうことになった。

 俺のディアナにある座標のデータを二人のそれに移してから、送る。

 うまくヒヒバンガを避けながらディアナが反応してくれる場所を探し、ポータルを出現させる。


「戻ってくるんだったらジョン教授に協力してもらった方がいいかも。この辺りは危険だから、俺の案内がないと襲われるよ」

「わかった」


 念押しにそう言ってから二人を見送り、村に戻る。


 村に戻ると村の広場が騒がしい。

 向かってみると、スラーナとタレアが戦っていた。


「なにごと?」

「あら、タケルおかえりなさい」

「いや、なんで二人がやりあってるの?」


 弓のスラーナと、爪や牙を使った格闘戦のタレア。

 練習でやり合うにはあまり相性がいいとは言えない。


「それはもちろん。地位を決めるためですよ」

「地位って」


 クトラの髪というか触手がまとわりついてくるのに任せたまま、首を傾げる。


「こういうのは大事ですから」

「いや、大事って……だからなんで?」

「……その鈍感をいい加減にどうにかしたいような。そのままでいいような」

「え?」

「とにかく、女の問題ですから、タケルは黙って見ていればいいんです」

「ううん」


 わけがわからない。

 そして首にかかった触手に力がこもってるのが怖いんですけど?

 クトラ?


 戦いの方は、始終タレア有利に動いている。

 距離を取って弓を構えて撃つという手順が必要な弓は、離れていれば強力だけれど、それはつまり距離が取れなければまともに戦えないということでもある。

 そして距離を取っても、タレアには別の攻撃手段がある。


 距離が取れたと弓を構えたところで、タレアがニヤリと笑う。

 罠だ。


「甘いぜ!」


 叫んだタレアから生まれた風がスラーナを叩き、弓が吹き飛び、一緒に矢筒も転がって矢が地面に散らばる。


「…………」


 スラーナがボソリと呟いた。


「ははっ! これで!」


 ふらつくスラーナにタレアが距離を詰める。

 爪を引っ込めた拳がスラーナの腹部に刺さろうとした。

 ……けれど、その拳にスラーナの腕が絡みつく。


「はっ? へ?」

「あったま来た!」


 あっ、さっきの呟きってたぶんこれだ。

 腹部への拳打をかわしてその拳と腕に抱きつくように引き寄せ、宙に浮くとタレアの首に足をかけた。

 ああ、なんだっけ?

 体術の授業で見た。

 腕ひしぎ十字固だっけ?


「あいたっ! いたたたたた!」


 腕の関節を極められて、タレアが苦しんでいる。


「まいったなら相手の体を叩くんだよ」


 稽古だと分かったのですっかり傍観者気分になった俺は、タレアに助言する。

 脱出方法なんてわからないだろうし、人間同士の稽古のルールも知らないからね。


「ふ、ざ、け……いたたたたたっ!」


 関節技は痛いよね。

 骨の作りがほとんど人間と同じなタレアにはよく効くはず。


「こ、の……」


 あ、タレアが一度引っ込めた爪を出した。

 自由な方の腕でスラーナの体を刺す気か?

 それもまた脱出方法の一つだけど、人間同士の稽古ならやり過ぎ判定だ。


「そこまで!」


 止めようかと思っていると大喝が広場に響いた。

 大爺だ。


「勝者、スラーナ!」

「なんでだよ!」


 大爺の宣言でスラーナが脱力し、脱出したタレアが抗議する。


「もうすぐ抜け出せた!」

「そうかもしれんが、見ろ」

「え?」


 大爺が指さしたのははるか上。

 そこにはスラーナの矢が宙に浮き、待機していた。

 いつの間に?

 というか、あれってもしかして【念動】?

 スラーナも使えるようになったのか?


「お前が爪を出す前に、すでにスラーナはお前を殺す準備を終えていた」

「ぐぎ」

「それに、あの関節を極められた時、さっさと折って離れてしまえば、お前に反撃する余裕などなかったはずだ」

「……あいつ、手を抜いたのか!」

「違う」


 スラーナが反論する。


「稽古と聞いているもの。人間同士なら、稽古で重傷になるようなことはしない」

「そういうことだ」

「ぐぎぎぎ……」


 興奮するタレアは納得いかないようだったけれど、それでも負けを認めてそこから離れて、こちらにやって来た。

 俺に気づいてちょっと元気を失ったタレアに対して、クトラは上機嫌だ。


「ふふ〜ん、一番手を買って出ておいて、その程度?」

「うるせぇ!」

「まぁいいわ。それなら私が格の違いというものを見せてあげるわ。そう、正妻という格の違いをね!」

「ふざけんな!」

「ふふふ、そこで負け犬なら負け猫となって見ていなさいな」

「ぐがぁぁぁぁ!」


 散々にタレアを煽ってから、クトラがスラーナの前に移動する。

 スラーナにも動揺はない。

 二人を相手するのを承知していたみたいだ。


「さあ、私にはさっきのような手段は通じませんよ!」


 頭の触手をうねらせ、クトラがスラーナに向かっていく。

 いろいろあった。

 いろいろあった末に、クトラの頭の触手が三つ編みになっていた。


「あっ、あっ、ほどけない。ほどけないわ! なんで!」


 ほんとになんでだろ?

 あ、三つ編みの締めで先端を結んでいるんだけど、あそこを【念動】で固めてるんだ。


 抑える部分を最小限にして力を注いでいるんだな。

 ううん、すごい。

 普段できることができなくなって混乱するクトラに、スラーナは首絞め技を極めたところで大爺に勝利判定を受けた。


「やーいやーい、負けたぁ!」

「ぐっ……」

「これでお前が三番な」

「っ! なんでですか!」

「あたしの戦いを見た上で負けたんだから当然だろ? やーい、三番!」

「ふざけ、ふざけるなぁ! 猫ぉぉぉぉ!」

「やるか海産物!」


 そして二人の戦いが始まる。

 こっちはいつものことなのでいいや。


「すごいね。二人に勝つなんて」


 俺はスラーナのところに向かった。


「でも、あっちも本気ではなかったでしょ? 力を抑えていた感じがする」

「ああ、まぁ……」


 タレアの風やクトラの水とか、外に向かう魔力はほとんど使ってなかったとは思う。


「ルールで勝ったっていう感じだから、そこまで嬉しくもないかな」

「でも、これであの二人には認められたと思うよ」

「そう?」

「うん、二人とも単純だから」

「単純ね」

「なに?」

「タケルには言われたくないだろうなって」

「え? なんで?」

「それがわからないところがねぇ」


 本気で呆れらたんだけど。

 なんなんだろ、最近そんな目で見られることが多い気がするんだけど?

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