まさか、こんな短期間でまた戻って来るとは思わなかった。
クトラとタレアと合流し、村に戻ってくる。
「これが、タケルの故郷?」
「そうだよ」
「……いい雰囲気ね」
「そうかな?」
ダンジョンの街の方が発展していて過ごしやすいと思うけど。
「優しそうな空気がある……わ、よ、ね」
村に入ったところで、子供達が駆け寄って来た。
鬼族の子供たちにマジマジと見られて、スラーナが少し口籠もる。
「あら、怖がっているの」
「はんっ! その程度かぁ?」
「なによっ! 違うわよっ!」
クトラとタレアに煽られて、スラーナが怒鳴り返す。
「というより」
「……そうね」
シズクとプライマがなにかを言いかけて黙り、俺と子供たちを見比べている。
「なにさ?」
「いや、うん」
「なんでもないわ」
「あらあら、そちらの二人も怖いのかしら?」
「さっさと帰れ帰れ!」
「違うって」
「そうではなくて……」
「なら、はっきりとおっしゃってはどうです?」
「そうだそうだ。隠し事してんじゃねぇ」
「なら……」
「遠慮なく……」
シズクとプライマは頷き合い、声を揃えた。
「「この子たちって美形よね」」
「それっ!」
「「は?」」
その答えにスラーナが勢いよく同意し、クトラとタレアがびっくりする。
俺も、そんなことを言われるとは思わなかった。
「肌の色と角がある以外は人間とほとんど一緒だし」
「顔の造作がみんなすごく整っていますね。美形です」
「うん」
「「「こんな中で育ったタケルってかわいそう」」」
スラーナまで揃って、俺に哀れみの目を向けてきた。
「そんな評価でかわいそうって言われたの、初めてなんだけど?」
たった一人の人間ってことで同情みたいな目を向けられたことはあるけど、その価値観で言われたことはなかった。
なんなのそれ?
それに俺、村の人たちに嫌われていないよ?
みんなに……とは言わないけど、好かれてると思うんだけど?
「ねぇ?」
「「「うんっ」」」
ほら、同意してくれてる。
「タケル〜お土産〜〜」
「なんだこいつら? 嫁か?」
「タケル兄ちゃんが嫁連れてきた〜」
「たくさん〜〜」
「やる〜」
「「こいつらは嫁じゃねぇ!」」
好き放題言い出した子供たちだけど、クトラとタレアに怒られて、笑いながら逃げていった。
「嫁……」
「人気者だね」
「そのようですね」
「「あっ、ちなみに僕たちは嫁になる気はないからね」」
「……念押しされるのはそれはそれで複雑なんですけど?」
「大丈夫、一人は否定していないよ?」
「そうですね」
「わ、私は!」
「うん、まぁ、とりあえずミコト様のところに挨拶に行こうか」
「……っ!」
「痛っ!」
「ふんっ!」
なんでかスラーナに叩かれた。
理不尽だ。
村の真ん中にある家に行く。
他よりもちょっと大きいそこは村長の家ということになっている。
ミコト様が起きている時は、そこで暮らしている。
「早い帰郷だな。タケル」
「ええと、いろいろあって」
「そのようだ」
ミコト様はくっくと笑って、俺たちを見た。
「ダンジョンの人間か。よく姿を見せる」
「……はっ! あ、あの、初めまして。タケルのクラスメートのスラーナ・イルシです」
「流丈シズクです。タケルの先輩です」
「プライマ・尾美です。同じく先輩です」
「ミコトである。正真の名を名乗る時は限られておる故、これで許せ」
「「「はい!」」」
さすがミコト様。
三人はとても姿勢良く話を聞いている。
「それで、どのような事情となったのだ?」
「ええと……」
オババ様にも語ったことを繰り返して地上に出た流れを説明する。
「ふうん」
「……なにさ?」
なんでそんな、ニヤニヤした笑みで俺を見るのさ?
「そんな強者がおったのかとな」
「だからなに?」
「逃げずに抗ったのだろう? ならばなぁ」
「だから……」
「まぁよい、まぁよい。油断のツケはおのれで払えよ、タケル」
「ぐ、ぬうう」
見透かされてる感じで言われて、言葉もない。
「……」
ああ、スラーナに睨まれてるんだけど。
シズクとプライマはわかっていない感じだ。
「まぁ、仲間を救う手立てが我らが里の因果で生まれるのなら、利用すればよかろう」
「はい、ありがとうございます」
というわけで、三人は村長の家の客間に泊まることになった。
クトラとタレアは、ミコト様に言われてそれぞれの村に戻っていった。
俺も村長の家で家事を手伝うけど、寝る場所はちゃんと他にあるので夜はそっちに移動する。
掃除はしてくれてるって話だけど、冷えてるだろうなぁ。
「タケル」
帰ろうとしていると、スラーナに呼び止められた。
「ちょっと、歩こう」
「え? あ、うん」
「タケルの家ってどっち?」
「あっち。あの小さいの」
「ふうん」
指差す先にある小さい家はほとんど夜に隠れてしまっている。
そっちに向かって並んで歩く。
だけど、スラーナは進行方向ではなく、じっと俺を見ていた。
「なに?」
「さっきの、ミコト様の話」
「え?」
ギクッ。
「あれって、ヤンたちとの戦いで手を抜いていたって話よね?」
ギクギクッ‼︎
「な、なんのことかな?」
「属性……使っていなかったのよね?」
「ううっ!」
「やっぱり」
ヤンというかフーレインというか、その前のダンジョンからずっと、属性なしの術理技だけで戦っていました。
「いや、術理技を使いこなす訓練っていう意味でさ。あの……」
「……」
「うん、まぁ、ごめん」
それを正体不明の敵相手にまで続けていた理由には、ならないよね。
反省。
「……実を言うと、私も使うのを抑えていたのよ」
「え?」
「合わせ技も考えていたから、完全に全部っていうわけにはいかなかったけど」
「あ、そうなんだ」
そういえば、スラーナの戦いを思い出してみても、そうかもってところがある。
「は〜あ、私も、変な奴に影響されちゃったな」
「ええと、それって俺が悪い?」
「そう、タケルが悪い」
「ええ……」
「だから、私を置いていくとか言わないでよ」
「スラーナ?」
「私も適性者なんだから、待機戦力とかになるつもりはないの。わかった?」
「ええと、わかった」
「なら、いいよ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
満足した様子でスラーナは家の中に戻っていく。
「……なんかちょっとすっきりしない」
なんでだろう?
モヤモヤしながら、俺はなつかしの我が家に入った。
冷えた室内が、妙に染みて辛い。