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72 救出準備



 ルオガンたち翼竜人に運ばれて、商店街にまで運んでもらった。

 空を飛べばあっという間だ。

 彼らはジャシンの集団が縄張りの外に出たことを察知して、偵察に来ていたらしい。

 その原因が俺たちだと知ったので、これは、保護というよりは連行なのかもしれない。


「タケルのおかげで解毒葉が補充できたよ。ありがとうね」

「いえ」


 運ばれる前に、少し戻って解毒葉を集め直した。

 それをオババ様に渡したところだ。

 商店街の顔役である老竜人のオババ様は、この辺りの竜人たちの長老でもある。

 翼竜人たちに連行された俺が、オババ様に事情を説明するのは当然の流れだった。


「それにしても、ダンジョンの人間どもにここへの行き方が広まっちまうか」

「申し訳ありません」

「まぁ、あんたに迎えが来た時点でこんな日が近くなったのはわかりきっていたけどね」

「それは……」


 オババ様は、俺がダンジョンに言って他の人たちと交わることに良い顔をしていなかった。

 それはきっと、ミコト様が懸念していることと、同じ考えのはず。

 つまり、人類が地上に戻ってきて、すでにいるオババ様たちと争いになると考えているということ。

 その可能性を俺も否定できない。

 なにより、ヤンたちは自分たちが生活しているダンジョンを失いつつあるという。

 地上を新たな生活の場として臨むかもしれない。


「あんたのせいって言いたいわけじゃないよ。道ができちまったんだ。道は、その上を通る者を選べやしないさ」

「はい」

「まぁ、争い多きこの地に再び住みたいと思うかどうかは知らないが、それを知るには、あんたが連れてきたあの娘たちは、良い試しになるかもしれないが……」


 オババ様がキセルから口を放し、プカリプカリと煙を吐く。


「なんでことごとく、女ばかりなんだい?」

「え? いや……お、男もいたんですよ。途中までは」


 なぜかみんな、途中でアブサトラのいる森の方に走っていっただけで。


「……あんた、嫁を探しに行ったのかい?」

「違いますよ!」

「やれやれ、クトラとタレアが暴れそうだ」

「だからぁ……」

「「タケルゥッ‼︎」」

「だからなんで来るのさ⁉︎」


 ドタバタと足音がしたと思ったら、クトラとタレアが滑り込んできた。


「「タケルゥッ‼︎」」

「ぐわっ!」


 抱きつく二人に押し倒されて、なにもできなくなる。


「連れてきましたよっと」

「ほい、ご苦労さん」

「やれやれ、翼が生えたばっかの俺様を使い倒しやがって」

「はん、タケルに対抗してようやく生えてきたような半人前が、偉そうなことを言うじゃないか」

「あ、あいつは関係ねぇし!」

「いや、たすけて……」


 二人に絡みつかれて動けないし、首が、ちょっと締まってるんですけど。


「「タケルタケルタケルタケル!」」

「いや、苦しいって、だから……」

「「……なんで他の女の臭いがするの?」」

「だからぁ!」

「ちょっと、なにをしてるの!」


 あ、スラーナの声。

 なんだろう。

 嫌な予感。


「あなたたち、離れなさい!」


 ここに来てすぐは人間以外に動揺していたのに、もう慣れて来ている。

 たいしたものだとは思うのだけど、いまここに来るべきではなかったんじゃないかなと思う。

 思っても、もう遅いのだけれど。


「「この臭いだ」」


 息苦しさからは解放されたけど、その代わり、クトラとタレアはスラーナをじっと見る。

 いや、睨む。


「な、なに?」

「あなた、タケルのなに?」

「え?」

「隠すなよ。なんなんだ?」

「なにって……、彼のクラスのクラス委員で、パーティの仲間で」

「クラス?」

「パーティ?」

「あ、クラスっていうのは……」

「そういうのではなくて!」

「お前はタケルの女なのかって聞いてんだよ!」

「はぁ、女ぁ⁉︎」


 ああああああああああああああああ。


「なんで一緒にいるだけでそんなことになるのよ!」

「では、違うのね?」

「それは……」

「違うんだよな?」

「違うわよ!」

「なら、いいです」

「え?」

「でも他人の男にあんまり引っ付くのは感心しませんね」

「そうだ。あんまり引っ付くなよ」

「なっ、なっ」

「ええと、二人とも、ちょっと落ち着こう?」

「「「タケルは黙ってて!」」」

「はい」


 なんで三人の息が揃ってるわけ?

 よくわからないけど、三人が膝を突き合わせて話し出したので、そこから脱出。

 あ、シズクとプライマがニヤニヤしながら見ている。


「来てるならたすけてくれてもいいのに」

「いやいや、後輩の青春に遭遇するという滅多にない機会に、そんな無粋なことはしないよ」

「まったくです」


 だめだ、この人たちも話にならない。


「ここは大丈夫ですか?」

「驚いていますよ、十分」

「だけど、面白いね。こういう世界の形もあるものなんだ」

「へぇ」


 二人の反応をオババ様が興味深く見つめている。


「それで、オババ様」


 あっちは放置するしかないなら、俺は俺で話を進めるしかない。


「仲間を助けるためにアブサトラの森に行きたいのです」

「なら、準備が必要じゃのう」

「はい。それで」

「わかっておる。さっきの解毒の葉が代金じゃな」

「たすかります」

「私も行くわ!」


 意を汲んでくれたオババ様が席を立ったところで、スラーナが叫んだ。


「「ええええ……」」


 そして、クトラとタレアがその発言に慄いている。


「あなた、本気?」

「正気じゃねぇ」

「なによ、仲間をたすけるだから当然でしょ!」


 三人の間でどんな話をしていたかわからないけど、二人への対抗心でスラーナが燃えていることだけは、はっきりとわかった。

 だから、止めないと。


「いや、やめた方がいいと思うよ?」

「どうしてよ⁉︎」

「そうだよ。ボクたちちょっといいところなしだったからね」

「ここで活躍しないと情けないですから」


 シズクとプライマまでやる気になってる。

 でも、だめなんだな。


「いや、本当にやめよ? 危ないから」

「危ないのなんか、ダンジョンで慣れているよ」

「そうです」

「タケル、どうしてだめなの?」

「いや、それは……」


 男の口では、ちょっと言いにくいんだよね。

 クトラとタレアが言ってくれたらいいのに……あっ、だめ?

 きもい? うんうん、もう想像してお腹を押さえてるね。


「タケル?」

「いや、あのね……」

「アブサトラは特殊な出産方法をするんだよ」


 救いの神は後ろにいた。

 さっきまでつまんなそうにしていたルオガンが、煙を吐きながら言う。


「胎生のメスを利用して繁殖するんだけどその増え方がキモくてな。子宮に大量に卵をぶち込むんだよ。んで、卵が孵化するまではそのメスは生かされて、孵化した後はその子供たちの餌に……」


 そこで、女性陣から嫌悪感満載の視線が突き刺さっていることに気づいた。

 ルオガン、遅いよ。

 でもありがとう。


「「「「「最低」」」」」

「俺様が考えたんじゃねぇだろ!」


 悪いのはアブサトラなんだけどね。


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