「ここはダンジョンじゃないの?」
「なんでそんなことがお前にわかるの?」
そういう疑念や質問に答えるには、正直になるしかない。
揉めるだけ時間の無駄だし。
地上で育ち、ジョン教授と出会ってダンジョンにやってきたことを話す。
「僕は信じるよ」
「私も」
解毒の葉っぱを齧りながらシズクとプライマがそう言った。
「こういう知恵があるところが、たしかに『らしい』って思うし、信じない理由もないよね」
「もともと、地上観測隊の話は聞いたことがあります。戻れなかった人たちの中に生き残りがいた。それは喜ばしい話ですよね」
「それに、問題はここからどうやって戻るかを考える方が重要よね」
「「それ」」
スラーナの言葉に二人が頷く。
他の連中も同意するしかないって感じになった。
「食料もだけど、武器を取り上げられたのがきついね」
「火はなんとかなったけどね」
いま、俺たちを温めている焚き火は、みんなで集めた枯れ木に、キヨアキの属性で着火してもらった。
「これ、あいつらもどこかにいると考えた方がいいのよね?」
「そうだろうねぇ」
プライマの言葉にシズクが頷く。
「……もしかしたら、連中の目的は僕たちのディアナだったのかな?」
「ああ、ポータルの履歴ですか」
「そうそう。ポータルの履歴を集めて、もしかしたら移住先に相応しいダンジョンを探していた。深度Eのダンジョンにいたのもそういう理由なら納得だね」
「でも、ハグスマド同盟の勢力全部を移住させるほどの領域となると」
「それに、あっちだっていくつものダンジョンを攻略して空間を確保していたはずなのに、それらはどうなったのかも気になるよね」
「……ダンジョンの維持が不可能になって、避難先を探している途中に、ダンジョンよりも広大な地上への座標を手に入れた?」
「調査のために行くぐらいはしそうだね」
「それにしても、私たちまで巻き込まなくても」
「そうだね。それに、あの移動反応はなにか変だったね」
「ハグスマド同盟のディアナはああいうものなの?」
「どうなんだろうね」
そんな会話だけをしているわけにもいかない。
とりあえず人心地ついたし、体を温めている間に枯れ木と草で籠を作ったので、火が落ちる前に食料を集めるとしよう。
道具の類が一つもないから調理は無理だし、木の実があればいいんだけど。
「私も手伝うわ」
「じゃあ、よろしく」
というわけでスラーナと一緒に色々と集める。
「タケル、この赤い実は?」
「そっちはだめ、こっちが食べられる」
「これの方が美味しそうよ?」
「うんでも、食べるとお腹下すよ」
「うっ。じゃあ、これは?」
「それは幻覚作用があるからね」
「……じゃあ、これは?」
「それは触っただけで手が爛れるから、触らないで」
「……ねぇ、こんなところにあるもの食べて、大丈夫なの?」
「だから、大丈夫なものをちゃんと覚えておかないとダメなんだよ」
「……よく覚えてるわね」
「こういうのは得意。あ、この辺り、ありそうだ」
「その記憶力、どうして授業で活かせないのかしら?」
「聞こえてるよ」
移動中に見つけたちょうどいい感じの棒を見つけていたので、【鋼体】を流し込んで土を掘り返す。
【俯瞰】【小盾】はほんと、術理技の基礎中の基礎だね。
どんなものにも応用が効く。
「やっぱりあった」
「なにそれ? 木の根?」
引き摺り出したのは茶色い棒みたいなもの。
山芋って聞いている。
「焼くだけで食べられるからいいよ」
「これを?」
スラーナは信じられないという顔をしている。
味付けはダンジョンの方が調味料が多くて濃いだろうけど、いまならこういうのでも美味しいんじゃないかな。
山芋が十分に採れたし、日も沈んでしまったので戻ることにする。
持ち帰った木の実と山芋は、好評というわけでもなかったけど、みんなちゃんと食べた。
焼いて、湯気が出た頃合いで皮を剥いて中を食べる。
ホクホクで美味しいと思うんだけどね。
安心したのか、みんなが次々と眠っていく。
見張りの順番を決めなかったので、仕方ないからまずは俺がするしかない。
「これからどうするの?」
「安全を求めるなら俺の村に行けばいいんだけど。でも、俺たちがここにいるっていうことを学園に知らせる方法がないよね」
「帰る手段がないわね。ディアナを取られたから」
「そういうこと」
「どうしたらいいと思う?」
「俺は村に戻ればそれでもいいけど、スラーナたちは帰りたいだろうし」
「こんな時でなかったら、あなたの村を見てみたいけどね」
「ダンジョンほど見るものはないよ」
こんな光景、ダンジョンにいればいくらでも見れるし。
「でも、ここにはあなたがいたんでしょ?」
「え? まぁ」
「それなら、タケルの小さい時の秘密もいっぱい転がってるはずでしょ?」
「……いまちょっとなにか、いい感じになにかを感じたんだけど?」
「あら珍しい。そうなの?」
「返して欲しいなぁ」
「ダメ」
「……こんな時になにをしてるんだ?」
「「はっ⁉︎」」
キヨアキが薄目を開けてこちらを睨んでいる。
「いい根性だな。こんな時に」
「「なにもしてないけど?」」
「……うぜぇ」
「ええと、それで、キヨアキはどう思う?」
「ディアナと装備を取り返す。まずはそれだ」
「そうだよね」
「そうね。そうしましょう」
「……ふん」
「チッ、せっかくいい所だったのに」
「このままキスまで黙って見届けるものでしょうに。無粋ね」
なんか変な小声まで聞こえてきたよ?
いや、ええと……なにもないよ。
なにも起きてない。
ていうか、なんなのこの感じ?