迷路の先から現れたのは、プライマたちではなかった。
別の集団だ。
年齢は、ジョン教授ぐらいだろうか。
たしか、壮年というのだったか。
講師以外でこの年代の適性者に会ったことがない。
どうしてここに?
向こうも、こちらを見て動きを止めた。
「どなたですか?」
まず声をかけたのはスラーナだった。
「君らは学生か?」
先頭にいた男が質問で返してきた?
学生?
「そちらは?」
「ああ……調査のために来た」
数は六人。
持っている武器からして、近接担当は三人。
盾役は別か?
残りが遠距離と回復かもしれない。
六人か。
「どちらの所属の方ですか?」
「そちらも名乗れ」
「ここがどこかわかっていれば、私たちの身分だってある程度わかるでしょう?」
スラーナはあくまでも名乗らなかった。
「逆に、ここにあなたたちがいる方が不自然です。名乗ってください」
「ちっ」
頑なな態度に、ついに向こうが舌打ちを吐いた。
それを合図にした。
まだ向こうが構えていない瞬間に踏み込み、舌打ちした男の顎を【鋼体】をかけた腕で殴った。
「ごっ」
顎先にかかった衝撃が脳天を抜けて、男はそのまま膝から崩れ落ちる。
「なっ!」
「テメェっ!」
他の二人が武器を抜く。
どちらも剣。
鞘に引きこもっていた刃喰が喜び勇んで飛び出す。
剣が自ら飛び出したことに驚いた二人の前で掴み、【虎牙】をかけた一閃を剣を砕いた後で四肢に走らせた。
「早い!」
予想通りの盾役が残りの二人を庇う位置に立つ。
盾役の周囲に光の壁が走り、背後の二人に行く道を塞がれた。
属性か。
その光壁は盾役の周りにも残っており、俺の上段からの一閃を受け止める。
接触点に【虎牙】を打ち込む。
「はっ、術理技か! だが、そんな初歩技……」
盾役が何かを言っている間にも【虎牙】を発動させる。
そしてさらに【虎牙】を。
「なっ、くそっ、お前……」
刃喰の刃はそれ以上進まないけれど、【虎牙】から放たれる衝撃は浸透しているようだ。
盾役は痛みに堪え、足を震わせる。
それがわかれば問題ない。
さらに【虎牙】。
「ぐわっ!」
ついに耐えられなくなって、盾役は足を追ってその場に崩れ、光壁が解けた。
その隙を縫って、柄尻で盾役の首を打ち、気絶させる。
盾役が俺に動きを縛られた間に、スラーナは後ろの二人に攻撃を仕掛けていたようで、二人とも気絶している。
どちらも涙目になっているんだけど?
「なにしたの?」
「【俯瞰】と【小盾】の応用で矢に催涙剤を運ばせて、二人の上で撒いたの。その後で、いつものように風を操って、ね」
「なるほど」
納得しながら、六人を縛っていく。
全部、術理技でどうにかしようとする俺とは違って、スラーナは他の物まで利用しようとする。
頭がいいとそういうことも思いつくのか。
「催涙剤って買えるんだ」
「買えないわよ。だから、胡椒と唐辛子で自作したわ」
「おお、すごい」
縛り終え、武器の没収も完了し、改めて顎を打って気絶した男の前に立った。
刃喰は抜いたまま。
スラーナには離れたところで武装したままになってもらっている。
「それで、あなたたちは誰ですか?」
男の頬を打って気絶から立ち直ってもらう。
「あっ? ぐっ……マジかよ」
男はすぐに事態を悟ったようだ。
「今度はこちらの質問に答えてくれますよね?」
「おいおい、子供が大人相手に刃物を使うなんて……」
「できるかどうかを試す相手には困っていないんだけど、本当にその先を言うつもりかな?」
「わ、わかった」
刃喰の刃が喉に食い込み、血が流れる。
もう少し深くいけば太い血管に当たる。
そのギリギリを見定めたことを理解してくれたのか、男は素直だった。
「くそっ、とんでもねぇ、ガキにぶつかっちまった」
「そういうのはいいから、まずは自己紹介をお願いします」
「……俺たちは、ハグスマド同盟の適性者だ」
「ハグスマド同盟?」
知らない。
「うちとは違うダンジョンに住んでいる人類よ」
「なんと」
人類は他にもいた。
しかしなるほど。
だから彼らは俺たちのことを『学生』と言ったのか。
学園にいる人たちは、俺たちのことを『生徒』と呼ぶもんね。
地上をダンジョンからの侵攻してきたモンスターに奪われた人類は、逆に空白地となったダンジョンに逃げた。
だが、入ったダンジョンは一つではない。
世界の各所にあるダンジョンにそれぞれに逃げた。
やがてディアナの完成によって、隔絶していた多くの人類は交流し、一つとなっていったのだけれど、考え方の違い、既得権益の衝突などから完全な統一とはならず、現在もいくつかの政治的集団が存在する。
ハグスマド同盟というのも、その一つだそうだ。
「ちなみに、こっちの名前は?」
「……人類統一連合。勉強……いやそうね。当然すぎて誰も教えなかったのかもね」
「そういうことで」
無知をツッコまれる所だったけれど、いまはそれどころじゃないと思ってくれた。
ラッキー。
「お前、もうちょっとちゃんと勉強しろ?」
逆に捕まった男に言われてしまった。
だが無視。
「そんなあなたたちがどうしてここに? いや……俺たち以外のこっちのパーティと接触しなかった?」
「……」
俺の問いに男は黙る。
刃喰に力を入れた。刃が血管の表面に触れる。
後ちょっと動けば、血が溢れ出す。
「した。捕まえた」
男は短く答えた。
彼らの特徴を聞いていけば、その中にシズクとプライマのものもあった。