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64 襲撃者





 迷路の先から現れたのは、プライマたちではなかった。

 別の集団だ。

 年齢は、ジョン教授ぐらいだろうか。

 たしか、壮年というのだったか。


 講師以外でこの年代の適性者に会ったことがない。

 どうしてここに?

 向こうも、こちらを見て動きを止めた。


「どなたですか?」


 まず声をかけたのはスラーナだった。


「君らは学生か?」


 先頭にいた男が質問で返してきた?

 学生?


「そちらは?」

「ああ……調査のために来た」


 数は六人。

 持っている武器からして、近接担当は三人。

 盾役は別か?

 残りが遠距離と回復かもしれない。


 六人か。


「どちらの所属の方ですか?」

「そちらも名乗れ」

「ここがどこかわかっていれば、私たちの身分だってある程度わかるでしょう?」


 スラーナはあくまでも名乗らなかった。


「逆に、ここにあなたたちがいる方が不自然です。名乗ってください」

「ちっ」


 頑なな態度に、ついに向こうが舌打ちを吐いた。

 それを合図にした。

 まだ向こうが構えていない瞬間に踏み込み、舌打ちした男の顎を【鋼体】をかけた腕で殴った。


「ごっ」


 顎先にかかった衝撃が脳天を抜けて、男はそのまま膝から崩れ落ちる。


「なっ!」

「テメェっ!」


 他の二人が武器を抜く。

 どちらも剣。

 鞘に引きこもっていた刃喰が喜び勇んで飛び出す。

 剣が自ら飛び出したことに驚いた二人の前で掴み、【虎牙】をかけた一閃を剣を砕いた後で四肢に走らせた。


「早い!」


 予想通りの盾役が残りの二人を庇う位置に立つ。

 盾役の周囲に光の壁が走り、背後の二人に行く道を塞がれた。

 属性か。


 その光壁は盾役の周りにも残っており、俺の上段からの一閃を受け止める。

 接触点に【虎牙】を打ち込む。


「はっ、術理技か! だが、そんな初歩技……」


 盾役が何かを言っている間にも【虎牙】を発動させる。

 そしてさらに【虎牙】を。


「なっ、くそっ、お前……」


 刃喰の刃はそれ以上進まないけれど、【虎牙】から放たれる衝撃は浸透しているようだ。

 盾役は痛みに堪え、足を震わせる。

 それがわかれば問題ない。


 さらに【虎牙】。


「ぐわっ!」


 ついに耐えられなくなって、盾役は足を追ってその場に崩れ、光壁が解けた。

 その隙を縫って、柄尻で盾役の首を打ち、気絶させる。


 盾役が俺に動きを縛られた間に、スラーナは後ろの二人に攻撃を仕掛けていたようで、二人とも気絶している。

 どちらも涙目になっているんだけど?


「なにしたの?」

「【俯瞰】と【小盾】の応用で矢に催涙剤を運ばせて、二人の上で撒いたの。その後で、いつものように風を操って、ね」

「なるほど」


 納得しながら、六人を縛っていく。

 全部、術理技でどうにかしようとする俺とは違って、スラーナは他の物まで利用しようとする。

 頭がいいとそういうことも思いつくのか。


「催涙剤って買えるんだ」

「買えないわよ。だから、胡椒と唐辛子で自作したわ」

「おお、すごい」


 縛り終え、武器の没収も完了し、改めて顎を打って気絶した男の前に立った。

 刃喰は抜いたまま。

 スラーナには離れたところで武装したままになってもらっている。


「それで、あなたたちは誰ですか?」


 男の頬を打って気絶から立ち直ってもらう。


「あっ? ぐっ……マジかよ」


 男はすぐに事態を悟ったようだ。


「今度はこちらの質問に答えてくれますよね?」

「おいおい、子供が大人相手に刃物を使うなんて……」

「できるかどうかを試す相手には困っていないんだけど、本当にその先を言うつもりかな?」

「わ、わかった」


 刃喰の刃が喉に食い込み、血が流れる。

 もう少し深くいけば太い血管に当たる。

 そのギリギリを見定めたことを理解してくれたのか、男は素直だった。


「くそっ、とんでもねぇ、ガキにぶつかっちまった」

「そういうのはいいから、まずは自己紹介をお願いします」

「……俺たちは、ハグスマド同盟の適性者だ」

「ハグスマド同盟?」


 知らない。


「うちとは違うダンジョンに住んでいる人類よ」

「なんと」


 人類は他にもいた。

 しかしなるほど。

 だから彼らは俺たちのことを『学生』と言ったのか。

 学園にいる人たちは、俺たちのことを『生徒』と呼ぶもんね。


 地上をダンジョンからの侵攻してきたモンスターに奪われた人類は、逆に空白地となったダンジョンに逃げた。

 だが、入ったダンジョンは一つではない。

 世界の各所にあるダンジョンにそれぞれに逃げた。


 やがてディアナの完成によって、隔絶していた多くの人類は交流し、一つとなっていったのだけれど、考え方の違い、既得権益の衝突などから完全な統一とはならず、現在もいくつかの政治的集団が存在する。


 ハグスマド同盟というのも、その一つだそうだ。


「ちなみに、こっちの名前は?」

「……人類統一連合。勉強……いやそうね。当然すぎて誰も教えなかったのかもね」

「そういうことで」


 無知をツッコまれる所だったけれど、いまはそれどころじゃないと思ってくれた。

 ラッキー。


「お前、もうちょっとちゃんと勉強しろ?」


 逆に捕まった男に言われてしまった。

 だが無視。


「そんなあなたたちがどうしてここに? いや……俺たち以外のこっちのパーティと接触しなかった?」

「……」


 俺の問いに男は黙る。

 刃喰に力を入れた。刃が血管の表面に触れる。

 後ちょっと動けば、血が溢れ出す。


「した。捕まえた」


 男は短く答えた。

 彼らの特徴を聞いていけば、その中にシズクとプライマのものもあった。

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