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63 行方不明



 ガクたちとタイミングが合わなかったので、スラーナと二人でダンジョンに行こうと準備してポータルに向かうと、なにか騒ぎが起きていた。


「どうかしたんですか?」

「あっ、君たち」


 ダンジョンポータルの受付でよく見る人に話しかけると、向こうもこちらを覚えていた。


「ちょうどよかった。君たちにも強力してほしい」

「なんでしょうか?」


 なにか大事だと気付いたスラーナが前に出た。

 情報収集を俺に任せないのは正しいので、おとなしく耳を傾ける。


「ダンジョンに入って帰還が確認できていないパーティがいるの。深度Eなんだけど……」


 受付の人の話はこうだった。

 深度Eのダンジョンに学園の生徒パーティが攻略に入った。

 帰還が遅いと、職員がディアナの痕跡を追ってみたのだが、所在が不明となっているというのだ。

 そのために、彼らがどのダンジョンにいるのかがわからなくなってしまった。


「いまは多くの人に声をかけてダンジョンに潜ってもらっているのだけど、深度Eの数は多いから」

「それなら私たちも捜索に参加します。いいわよね」


 スラーナに聞かれて、俺も頷く。

 なにより、行方不明になっているパーティは学園の生徒だし、そこに含まれている名前に流丈シズクとプライマの名前があった。

 恩人の二人がいるのだから、行かないという選択肢はない。


 俺たちは受付の人に選んでもらった深度Eのダンジョンに入った。


 目の前にあったのは、迷路型のダンジョンだった。


「人探しをするには最悪のダンジョンね」

「しかも、いるかどうかわからない」


 最初から気が重くなってしまうけれど、俺もスラーナも進む速度には影響しない。


「これって、中に人がいる状態で攻略したらどうなるんだろ?」

「ダンジョンが消滅でもしない限り、攻略した状態は維持されない。時間の経過で元に戻るわ」

「なら、消滅したら?」

「その時には、全員が外に出されるはずだけど……ディアナの反応がなくなっているというのが気になるわね。わからないわ」


 攻略よりも捜索を優先しないといけないのに、このダンジョンにいるかどうかはわからない。

 気が遠くなる作業だ。


 だけど進む。

 道を阻むのは錆びて穴の空いた鎧を纏う兵士たちだった。

 ラスティポーンだとスラーナが教えてくれた。

 ここは錆びのダンジョン。

 全ての金属類に容赦のない錆が襲いかかる。


 ……らしいのだけど、さすがに深度Eまで存在力を減じてしまったいまではそれほどの脅威ではないそうだ。


「だってさ、出てこい」


 と、腰の刃喰を叩くのだけど、鞘から出てこようとしない。

 錆るなんて冗談じゃないと言わんばかりに、ガッチリと鞘に収まってしまっている。


「ワガママな」

「別の武器も用意するべきじゃない?」

「そうかもしれない」


 なんてスラーナと話しながら先を進んでいく。

 いつぞやの海岸のダンジョンの時みたいに、武器が使えない代わりにまた拳で戦うことになるのだけど、今回は術理技がある。

 手に【鋼体】をかけて硬い手刀とすることで、対処することができた。

 切れ味は望めないけれど、【虎牙】を使えば破壊力の補助になる。


 海岸のダンジョンが深度Dだったのに対して、こちらは深度E。

 あの時よりモンスターが弱くなっている上に、あの頃にはなかった術理技の補助があるのだから戦闘はかなり楽に進んでいった。


「もしもこのダンジョンにいるのだとしたら、どういう状況でピンチになると思う?」


 錆びた武器にとどめを刺す錆食いという大顎の昆虫を殴り倒した後で、スラーナに聞いてみる。


「そうね。私たちみたいに罠に嵌って隠しエリアに入り込んだとか?」

「らしくな強いモンスターがいたら、慌てるかもね」


 シズクとプリズマがいたということは、俺たちの時みたいにパーティ体験のためのダンジョン攻略だった可能性が高い。

 だとしたら、二人以外の生徒たちが慌てた結果、危機に陥るということもあり得る。


「でも、一番の懸念はディアナの反応が追えないということよ。全員のディアナが壊れるというのはどういう状況? 全滅以外は、ちょっと考えられない」


 ディアナ……Dungeon Entrance Generatorは帰還用のポータルを作るという機能が代表的だけれど、その内部のシステムは俺には理解できないぐらい複雑だ。

 それでも俺がわかる部分で語れば、『帰るための出口を作れるということは、常に帰るための場所と繋がっている』ということになる。

 その機械をパーティの全員が持っているのに、その全員との繋がりがわからなくなるというのは、どういう状況か?


 不幸な結末以外の結果は存在するのか?


 もし、その結末が待っているのだとすれば、その痕跡を見つけることはできない場合が多い。

 ダンジョンは死者を取り込んでしまうからだ。


「そんなことにはならないわ。だってあの二人の先輩は強いもの」

「うん、そうだ」


 嫌な予感はある。

 だけど、あの二人が死んだという可能性はいまのところ考えていない。

 ひどい怪我だって、プリズマがいれば治るだろう。

 しかしだからこそ、深度Eのダンジョンであの二人が危機になる状況が想像できない。


 一体、なにが起きているのか。


「カイザーセンチピードみたいなのが隠れているとか?」


 俺は、最初のダンジョン体験で襲われたあの巨大ムカデのことを思い出した。

 あいつはいつか倒す。


「あの討伐不能種? そういう解明されていない現象が残っているのも事実だろうけど、そんなものがどのダンジョンにも残っているのだとしたら、深度Eを初心者に任すなんて余裕のあることはできないと思うのだけど……」


 と、スラーナが言葉を止めて、俺を見る。


「なに?」

「まさか、タケルに関わったからそんな希少な事例に引っかかったとか?」

「どういう言い草?」

「いや、自覚があるでしょ?」

「ないっ!」


 言いたいことの察しはついたけど、あえて断言する。

 俺にそんな悪運みたいなのはない……と思うんだけど。


 地下世界に来てから珍しい事例に何度も遭遇しているのも事実だったりするので、自分でも説得力がないのはわかっている。


「でもまぁ、本当にそんなものがあるなら、ここでもそれを発揮できたらいいんだけど」


 そうしたら、案外簡単に、二人を見つけるきっかけになるかも……。


「あ」


 しれないなんて、考えたけれど。


 進む迷路の先に、これまでにない雰囲気が待ち構えているのを感じ取ってしまい、スラーナと目を合わせた。


「見つけた?」

「だったらいいわね」


 目配せの後で、俺たちは戦闘態勢に入った。

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