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56 術理技テスト本番



 放課後。

 俺たちは指定された体育館に移動した。

 この学園にはいくつも運動場と体育館があるので、あちこちにある学園地図を見ながらじゃないと移動できない。


「おっ、来たな」


 山洞先生はすでにいた。

 他にも生徒がいる。

 きっと二年生なのだろう。

 ジャージ姿の彼らは、俺たちに「誰だ?」という視線を向けてきた。

 山洞先生はそんな視線を無視し、俺たちに待っていろという。

 それからさらに数人がやってきて、山洞先生と他の先生たちは頷いた。


「では、術理技授業の資格試験を行う。テスト内容は単純だ」


 そういって、山洞先生は透明なビニール袋を取り出した。

 隣には大きめの蛇口付きタンクがある。


「このビニール袋に水を入れる。多くて八割くらいだ。いっぱいにすれば難易度が上がるだけだぞ」


 山洞先生は実際にビニール袋に水を入れた。

 半分くらいかな?

 水を止めて、口を閉じる。


「で、これを」


 と、手のひらの上に乗せた水袋に、山洞先生が術理力を流しているのが見えた。

 その途端、袋の中の水が泡立ち、やがてぐるぐると回り出した。

 中心に穴が開くぐらいに渦を巻いていたかと思うと、さらに速度を上げて水は蛇のように細長くなり袋の中で円を作った。


「術理力でこうやって水を回転させるんだ。属性は使うな。すぐにわかるからな。属性という個性を介さない、純粋な術理力だけでこれをやるんだ。合格点は渦を巻くぐらいを一分間維持だ。袋が破れたら即失格。テスト後に全員で掃除をするからな」


 というわけでまずは全員で袋に水を入れる。

 それから各自練習し、できると思ったら先生たちのところで実演する……という流れだ。


 ここにいるのは俺たち以外は上級生だ。

 だからテスト内容を知っていたみたいで、すぐに先生のところに向かっていく人もいる。


 スラーナも眉間に皺を寄せながら、袋を両手で包むようにしている。


 俺は、先生がやったことを思い出しつつ、袋を片手に乗せて、術理力の流れを意識して目を閉じる。


 さて、どう動かす?


 水を棒で思いっきりかき混ぜるイメージ?

 いや、ちょっと違うか。

 水の中に術理力を浸透させて、水も術理力の流れとして巻き込んで動かす。


 たぶん、こういうイメージだ。


 目を開けてみると、手の上にある袋の中で水がぐるぐる回っていた。

 うん、この感じ。

 もうちょっと強い方がいいな。

 穴ができるぐらいの渦になった。

 合格圏内だ。

 これを一分間維持か。

 なら、山洞先生ぐらい回したいな。


 ううん。


 できた。


【CtoC】を真似した時に比べたら、簡単だ。

 それはそうか。


「さすがだな。合格だ」


 山洞先生のところで見てもらい、合格をもらう。

 スラーナは?

 俺がやっている間に、後ろに並んでいた。

 待っていると、彼女も無事に合格できていた。


「どう?」

「さすが」

「ふふん」


 胸を張るスラーナにちょっとほっこりした。


「ねぇ、あなたたち。もう合格したの?」


 練習やテストで袋を破っている生徒がいたので、テスト後の掃除が確定している。

 そのため、終わるのを待ちながら、二人でテストで使った術理力の流れについて話していると、落ち着いた声に話しかけられた。


 振り返ると、やはり女性がいた。

 見たことがないけれど、先生だろうか。

 ジョン教授と同じような、彫りが深くて顔立ちがはっきりしている。赤みがかった金髪が波打っていて、表情をわかりにくくしているような気がした。


「はい、終わりました」


 俺が首を傾げている間に、スラーナが答える。


「ふうん。優秀なのね。なら、面白いものを見せてあげる」


 そういうと、その女性は掌を上にすると、術理力をそこに出したかと思うと、すぐに消した。


「「え?」」

「あら、わからなかった?」

「は、はい」

「ふふ、なら宿題ね。いつか、わかったことを私に見せて」


 女性は自分がなにをしたのか教えることなく、意味深な笑みを投げかけて去っていった。


「なにしに来たんだろう?」

「さあ?」


 スラーナもあの人が誰なのかわからなかったらしく、首を傾げている。

 テストの時間が終わり、全員で濡れた床を掃除したり、タルとかを片付けたりしている時に、山洞先生が教えてくれた。


「さっきの人は、カル・スー教授だ」

「教授?」

「術理学の教授だ。学園の理事でもあるし、鑑定の達人でもある。あの方の目にかかれば、わからないものはないぞ」

「へぇ、そうなんですか。術理学の教授ということは、適性者なんですよね?」

「ああそうだ。術理技の研究者でもある」

「なるほど」


 それなら、さっき見せられたのは、術理技だったのか?

 だったとしたら、かなり高難度の技を見せてくれたのかもしれない。

 わからなかったのが、悔しい。


 ううん、これはちゃんと、思い出して再現を目指そう。


「そういえば、ジョン教授ってなんの先生なんですか?」

「ジョン教授は生物学、モンスター学にダンジョン学だ」


 すごく呆れられた目で見られてしまった。


「それ以外にもさまざまな研究をしておられるがな。お前、後見人のことだろう」

「はぁ、すいません」


 山洞先生に怒られてしまった。

 その通りなので、頭を下げるしかない。

 俺の中でジョン教授って、なんでも知ってるすごい人だった。

 ていうか、学園っていうものを知る前からの人だから、そういうのがわかる前に、そのイメージができてたからなぁ。


 スラーナにまで呆れられているけど、こればっかりは仕方ないと思うんだ。


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