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54 体験の終わり




 ビートルマンスコルピオを倒すことに成功し、スラーナたちのところに戻る。


「よくもまぁ」


 シズクが呆れたのか感心したのかわからない顔をしている。


「見ただけで使えるようになったのですか?」


 冷静そうなプライマも目を見開いているので、これは驚いているのだろう。


「なんとか、できたね」


 スラーナを見れば、うんうん頷いている。


「ともあれ、これで終わりだね。おっ」


 シズクがなにかに気づいた。

 その視線を追って振り返ると、ビートルマンスコルピオがいたところに箱のようなものがあった。


「宝箱ですね」

「深度Dでも出るんだ」


 プライマが呟き、スラーナが驚いている。


「宝箱?」


 俺が首傾げていると、スラーナが教えてくれた。


「刃喰を手に入れたときみたいなのなんだけど。ダンジョンの最奥を占拠するボスモンスターを倒すと宝箱が出ることがあるの」


 これは、ダンジョンの存在感が薄れている深度EやDなんかの深度では出現するのは稀らしい。


「魔石の鉱脈にしろ、宝箱にしろ、君たちって運がいいよね」

「これ、開けても大丈夫なんですか?」


 シズクが褒めてくれるけど、俺はそれより宝箱の中身が気になった。


「どうかな? たまに罠があるらしいんだけど」

「なるほど」


 俺の属性で見てみると、特に怪しげな線は見えない。

 でも鍵がかかっているようなので、それを壊す線に刃を通す。


「大丈夫そうです」

「それ、君の属性の効果?」

「そういう感じです」

「ふうん、便利そうだ」


 開けてみると、中身はなんと弓だった。


「スラーナ用だね」

「え?」


 弓だからそう言ったのだけど、スラーナが驚く。


「私がもらってもいいんですか?」


 俺よりもシズクとプライマを気にしている。

 二人に異論はなさそうだった。


「物が物ですし。今回、私たちはただのゲストですからドロップ品の取り合いで揉めるつもりはありません」

「一応補足しておくと、普通はパーティで取り分については決めておくほうがいいよ。後、私たちみたいな、一時的な追加メンバーともね。事前の話し合いは大事」


 と注意をもらった。


「まぁ、宝箱や魔石の分け前で揉めるなんて、深度Bになってからだっていうけどね」

「存在力の低下しているダンジョンはあまり儲からないから」

「だからこそ、弱くなっているし、私たちのような新米の訓練の場所となるわけ」

「なるほど」

「さあ、もう帰ろうか」


 シズクに言われ、ディアナで帰還する。

 受付のところで魔石売却分を分け合って、それぞれの口座に入金する。

 お金のことはあまり気にしていなかったけれど、これでしばらく心配する必要はなさそうだ。


「今日は、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 スラーナが二人に頭を下げたので、それに倣う。


「ふふっ」


 と笑ったのはプライマだった。


「あなたたちでは私の出番がほとんどなくて退屈でした」


 でも、次に言った言葉はいつも通りに冷静だ。


「しかし、怪我をしないのはよい冒険者の証だそうです。できれば、そのまま実力だけでなく冷静さも身につけてください。そうすれば、次の時も私は楽ができますので」


 そう言って、我先にと去っていく。


「どうやらプライマが君たちが気に入ったようだね」


 シズクがそんなことを言う。


「そう、ですか?」


 出番がなかったって言われたんだけど?」


「彼女の出番があるということは、死にそうな事態になってる可能性もあるからね」


 まぁ、ダンジョン攻略なんて常に死と隣り合わせなんだけど、とシズクは笑いながら付け足す。


「あの子がああいうふうに冷たいのは、いざという時に取り乱さないようにという自戒の意味もあるんじゃないかな。まぁ、僕の勝手な憶測だけど」


 そう言って、軽く笑う。

 死と隣り合わせという意味でなら、モンスターの攻撃を一手に引き受けるシズクだってそうだ。


「君は攻撃役としてとても優秀なようだ。そのままもっと頼りがいのある適性者になってくれると、僕としても嬉しいよ。スラーナ、君もね。二人はとてもいいコンビのようだよ」

「はっ、えっ……と、ありがとうございます」

「次は、僕たちともちゃんと背中を預けられるようになろう」


 爽やかな笑みを残して、シズクはプライマを追って行った。


「……なんか、かっこいい人だね、シズク先輩って」

「……そうね」

「ああいうのが、ちゃんとした人付き合いなのかな?」

「いや……あれを許されるのは、かなり限定的だと思う」

「そっかぁ」

「え? タケルって、ああいうことがしたいの?」

「いや、わかんない」


 かっこいいなとは思う。

 思うんだけど。


「俺にはできないかなぁ?」

「うん、タケルには無理だと思う」

「断言するのは……ひどいと思う」

「あはは、それより……術理技のことを知りたいんじゃないの?」

「そうそう。スラーナも気になる?」

「気になるというか、タケルが使えるようになるなら私も負けてられないから」

「うんうん。じゃあ、先生のところに行ってみよう」

「明日ね。どうせ、また休憩期間を入れないといけないんだから」

「了解」


 そういうわけで、基本パーティを体験する時間は終わった。

 色々と勉強になった。

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