プライマが疲労を抜いてくれたので先へと進む。
ちなみに、さっきの魔石が売れた額はけっこうすごかった。
だけど、その額を聞いてびっくりしたのは俺だけだ。
「ああ……うちの兄さんは私よりも稼いで帰ってくるから」
スラーナの兄さんは深度Bを攻略する適性者だったはず。
そこまでいくと手に入る魔石の量もすごいから、それを売った額も比例する。
では、プライマとシズクは?
「僕とプライマは深度Cまで行けるからね」
「回数をこなせば、こういうこともたくさん経験します」
「でも、臨時収入は嬉しいよ。プライマ、またあの店に行こう」
「いいですね」
「スラーナさんも行くかい?」
「え? どこですか?」
「コスメの個人店なんだけど、生産系の属性持ちの適性者が作った化粧品や美容用品が売られているんだ。ダンジョンで荒れた肌には、効くよ」
「ぜひっ!」
すごい勢いで食いついた。
女の子同士だとこういう会話になるのかと思いながら、俺は先頭を歩いていく。
洞窟の中の冷たい湿気を吸い込みながら進む。
いくつか分かれ道はあったけれど、少し進むと行き止まりばかりで、結局は一本の道を進んでいく感じになる。
「こういう脇道の注意を怠ると、潜んでいたモンスターに背後を取られることになります」
「そのまま挟み撃ちにされてピ〜ンチ。あるあるだね」
ちょっとうんざりし始めたところで、プライマの注意が飛んだ。
茶化すようなシズクの発言も含めてもっともな意見なので、俺たちは虱潰しに調べながら進んで行った。
ん。
「来るわ」
足を止めたのと、スラーナの声は同時だった。
おしゃべりをしていても『風』の属性で周囲を探索している。
油断はない。
「おっと、今回の趣旨を忘れてもらっては困るよ」
前に出ようとしていると、シズクに止められた。
「今回は、パーティの基本を学ぶ時間だからね」
「了解です」
先頭をシズクに譲り、近づいてくる存在を見た。
出てきたのはさっきまでと違う。
人型のモンスターだ。
虫が二足歩行になったような姿をしている。
元となった虫はダンゴムシだろうか。
発達して甲殻が増えた足で立ち、体のやや前面に付け根のある腕には槍と自身の甲殻を使ったのではないかというような盾を持っている。
「ビートルマンよ」
スラーナが名前をあげる。
「ストレートな名前だね」
「二足歩行してる甲殻のある虫っぽいのはみんなそうだと思って」
「しかも雑だった!」
「考えたのは私じゃないからね!」
モンスター図鑑の知識を披露しただけだとスラーナが主張していると、ビートルマンがさらに姿を見せた。
ぞろぞろと。
「……虫って、集団であればあるほど強いって思ってるよね、絶対」
「そうかもね」
俺の感想にスラーナが頷く。
背の高さも俺たちと同じぐらいになっているし、二足歩行になったからか壁や天井に張り付いているのはいなかった。
肩も触れ合う密度で参列になって接近してくる。
盾で壁を作って槍で突くというのは、わりと有りな戦法かな?
「んん、では、今回は盾役の攻撃方法というのを見せてあげよう」
壁を作って接近してくるビートルマンとシズクの距離がさらに接近する。
「さあ、かかってきなさい!」
シズクの属性『美』が開放される。
彼女の放つ無形の魅力に引き寄せられたビートルマンたちは、彼女の後方には目もくれず、一斉に槍による刺突を敢行する。
「んんっ! ナイス攻撃!」
その全てを大楯で受け止めたシズクは、余裕の顔で笑う。
「でも、まだ足りない! もっとだよ、君たち!」
とさらに攻撃を誘う。
シズクの言葉に煽られるようにビートルマンたちは大楯を槍で突き続ける。
俺は、シズクの体が光っているのを見た。
属性による輝き?
いや、違う。
属性になる前の術理の光だ。
「んん、よしっ!」
そう見えたと同時に、シズクが声を上げ、大楯を前に突き出す。
【CtoC】
その瞬間、シズクの周りにあった術理の光が即座にうねり、大楯に集中し、そして前方に解き放たれたのを見た。
解き放たれた術理の光は衝撃波となってビートルマンに襲いかかり、吹き飛ばした。
「ううん、いまいち。さあ、いまのうちに!」
言葉とは裏腹に爽やかに笑うシズクに促され、俺は隊列を崩したビートルマンに切り込み、スラーナの矢が後方から詰めようとしてくる連中を矢と風で押さえつける。
【流水斬り】
足を止めた連中の中に入り込み、後方まで切り捨てながら突き進む。
「さあっ! 君たちが見ていいのは、僕だけだよ!」
後方に回った俺を攻撃しようとしていたビートルマンがシズクの言葉に引き寄せられ、次々とそちらを見ていく。
すごいな。
ここまでなにかの意思を操作できるものなのだろうか?
前の時もそうだったけど、ビートルマンも最後まで俺を攻撃しようとはしてこなかった。
「シズク先輩」
俺は彼女に聞いてみた。
「もしかして、俺たちの注意も引きつけたりできます?」
「試してみる?」
シズクは意味ありげな笑みを浮かべた。
そして、俺とスラーナが言葉を失ったところで破裂するように笑った。
揶揄われた。
でもきっと、彼女はそれができると思っている。