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51 魔石採掘と負傷



 大ムカデも大ダンゴムシも硬そうだったけれど、刃喰の前では苦労することはなかった。

 大ゲジゲジは柔らかかった。

 ただ、あの無数の足に捕まった先端にある長い牙に噛まれることを考えるとしんどい。


「こっちに近づけさせないでよ!」


 スラーナが悲鳴を上げている。

 彼女の属性『風』によって生まれた真空の刃は空中で複雑な軌道を描いて巨大昆虫たちを切り刻んでいく。


「ふふふ、そんな心配はご無用!」


 そんな中、シズクは虫に囲まれてもまったく動じていない。

 正面からの無数の突撃を大楯で受け止め、だけど動きを止めることなくさらりと突撃を流していく。

 受け流された昆虫たちは急カーブをして、またシズクへと向かっていく。


「すごい」


 昆虫の群れというのは気持ちが悪いけれど、その統率された行動は見ていて気持ちよささえ感じてしまう。


「僕の属性『美』の前では誰も目を離すことなんてできないよ!」


 シズクの属性は『美』というのか。

 実際、ここにいる昆虫のモンスターたちはどれもシズク以外は見えていないかのようで、俺とスラーナは攻撃に専念することができた。

 なんとか全滅させると、魔石の小山ができていた。


「戦闘があったのですか?」


 終わったところでプライマが戻ってきた。


「ああ、プライマ。君に僕の美しい活躍を見せられなかったね」

「いや、もう十分見ていますから。それよりも怪我は?」

「したさ!」

「なんでそこまで自信に満ち溢れているのか」


 呆れた様子でシズクに近づいていく。

 だけど、怪我をしているということに驚いた。


「え? 負傷していたんですか? すいません!」


 スラーナも慌てる。


「はははっ! 謝る必要なんてないさ。君たちの代わりに傷を負うのが僕の仕事だ」


 近寄ってみれば、腕や脇、足などに擦り傷や小さな切り傷がいくつもあった。

 昆虫たちの外殻が当たったりしていたのかもしれない。


「そうです。そして、傷を癒すのが私の仕事です」


 プライマも慌てる様子を見せず、あの小ぶりの杖のようなものを傷口に向ける。

 光が発せられ、それが傷口を紫色に染めた。


「毒はないですね。では、癒します」

「よろしく」


 あの杖のようなものは傷の具合を確認するための道具なのか。

 納得しながらさらに経過を見ていると、プライマの手から生まれた光が傷を撫でていき、あっという間に消えていった。

 傷だけでなく、一緒に破れていた服まで元に戻っている。


「すごっ」

「はい。私はすごいんです」

「え?」


 思わぬ出た言葉に対して、思ってもいなかった返事が出てきた。

 スラーナを見ると彼女も驚いている。

 そして、シズクが笑う。


「彼女は僕に負けないぐらいの自信家だよ。まぁ、僕の自信の方がすごいんだけどね!」

「それでは、負けないぐらいではありませんね」

「負けないぐらいだが、勝つほどではない。つまり僕の方がすごいということじゃないか。間違っていないさ」

「まったく」


 治療を終えたプライマはシズクから離れると、その前に地面に放っていた袋とツルハシを俺に向けた。

 俺だけに。


「では、採掘をお願いします」

「え?」


 なんで?


「俺だけ?」

「私は回復役です。パーティの耐久力です。こんなことで疲れるわけにはいきません」

「僕はパーティの体力だ。僕が攻撃を引き受けられないぐらいに疲れると困るだろう?」

「ええと……じゃあ、私は素早さかな? 疲れて足が遅くなったら困るわね」

「つまり、力担当の俺だけにやれと? あの、力も疲れたら攻撃力が落ちるかと」


 俺の儚い抵抗を試みてみた。


「腕力だけなら私が癒します。全員が疲れるとそういうわけにはいきませんので」

「正論っぽい!」


 そういうわけで、俺はツルハシを振るって周りに見える魔石の結晶を削った。


「すごい」

「あれを一時間で終わらせるのか。やるね。さすが、期待の新人だ」

「だ、大丈夫?」


 プライマ、シズク、スラーナの順に声をかけられた。

 俺の横には壁から削り落とされた魔石の山がある。


「俺が、ずっと掘ってるのに……楽しそうにお喋りして……」

「ご、ごめんなさい」

「だって仕方ない。やることがなかったんだから」

「そうです」


 必死にツルハシを振っている間、三人はとても楽しそうにしていた。

 なんか、わかりあっている感じで、それなのに俺は、離れた場所でツルハシを振っているだけで。


「悲しい」

「ごめんってば!」

「いや、しかし君もすごいね。次のモンスターがやってくる前に採掘を終わらせられるなんて。うん、すごいよ」

「すごーい」

「心がこもっていない!」


 この後は、三人が一度戻って魔石を預けに行き、俺は「休んでいろ」と留守番をさせられた。

 やっぱり、一人なんですけど?


「さあ、行こうか? 行くんだよね?」

「もう帰ります?」

「行くよ!」


 帰ってもいい雰囲気を作ろうとしているけど、まだ四人構成のパーティでの戦いをしていないようなものだ。

 だって、プライマはその時いなかったんだし。


 それに、守備役のいる戦い方というのをもうちょっと詳しく知りたい。


「絶対に行く」

「冗談だよ。これで終わりというわけにはいかない」

「あなたたち以外にも、臨時で組まないといけない人たちがいますから」


 それから俺の疲労はプライマによって癒された。


「……」

「どうしました?」

「いや、不思議な感覚なんで」


 徐々に消えていくのではなく、ある瞬間に突然、消えてしまった。

 重かった体が軽くなり、上げるのも辛くなっていた腕が簡単に上がるし、力が込められる。


「そうでしょう。私は優秀なので」


 二人揃って自信家だ。

 似合いの二人なのかなと思った。

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