イマダン 50 守備役と回復役
アニマ先生との約束の週となり、学園に通っていると顔合わせとなった。
「二年生のプライマ・尾美です。回復役です。」
「三年の
二人とも女性だったのだけど、雰囲気が全然違った。
プライマが静かな雰囲気の人で、シズクがかっこいい感じの人だ。
「君が噂の一年生か」
と、シズクが俺を見てニヤリと笑う。
「腕利きなんだって?」
「いや、どうでしょう?」
「ふうん、謙遜するタイプか。僕とは違うね」
「自信家なんですか?」
自信家という言葉には、なんとなく嫌なイメージがついている。
だけど、シズクには自然とその言葉を返していた。
「そうだよ! 任せておきたまえ、僕が、君たちを守るから!」
その瞬間、シズクの姿が光ったような気がした。
なんか、自信がまっすぐですごいな。
対して話題の回復役のプライマは静かな人だった。
挨拶をしたきり黙って俺とシズクとの会話を見ている。
目が合うとニコリと笑うけれど、言葉はなかった。
物静かな人なのかな?
「君たちは深度Dだったよね? 問題ない。行こうか」
シズクの先導で、俺たちはダンジョンに入った。
今回のダンジョンは大きな結晶があちこちから生えている、地下洞窟のようだった。
「おっ、ラッキーじゃないか?」
シズクが嬉しそうに声を上げる。
彼女は自分の身長と同じような大きさの盾を持っていた。
その盾の内側に幾つかの武器が収まっている。
状況に合わせて使う武器を変えるのかな?
それより、言葉の意味がわからない。
「ラッキー?」
「これ、見えてるの全部魔石だ」
「えっ⁉︎」
シズクに言われるまで俺どころかスラーナまでわからなかった。
「見えてる分を採掘して持って帰るだけでもけっこうな儲けだね」
「でも、どうしてこんなことに?」
周りにある魔石の結晶を見るスラーナがそんな疑問を口にした。
「ダンジョンの全体は変化しません」
スラーナの疑問に答えたのはシズクではなく、プライマの方だった。
プライマは、短い杖のようなものを持っている。
あれはなにをするものだろう?
自衛の際に、あれで戦うのか?
「ですけれど、細かい変化は常に起こっています。それは、ダンジョンというものが世界として固定された存在ではなく、あくまでも仮初の存在であるから、と推測されています。そして、その推測は、何度も人間が攻略という形で介入することによってダンジョンの本質を人類の生存圏へと変質させることができることで、ある程度の実証ができています」
「それは……つまり?」
「本質が固定化されていないので、細かい部分は変化します。今回は魔石の結晶群という幸運となりましたが、時にはその深度に相応しくないモンスターや罠という形で現れたりもします。ですから、シズク先輩はラッキーと言ったのです」
「……なるほど」
いきなりスラスラと話し出したので、俺だけじゃなくてスラーナもびっくりした。
そんな俺たちの視線に気付いたのか、プライマはハッとした顔で俯いた。
「すいません。喋りすぎました」
「あっ、いえ」
「いえいえ、大丈夫です」
俯くプライマを二人して宥めていると、シズクが笑う。
「驚いたろう。物静かなのは見せかけで、プライマは意外にお喋りさんなんだ」
「シズク先輩」
「はいはい。さて、後輩諸君。いつまでも呑気に話している場合ではないが、この幸運を逃して攻略に邁進するわけにもいかない。魔石発掘に勤しもうではないか。プライマ、。一度戻ってツルハシと袋の追加をもらってきてくれるかい?」
「はい」
「腕のDEG《ディアナ》で我々は繋がっているから、プライマが別の場所に出ることはない。このまま採れるだけの魔石を採掘するんだ」
「え、そういうのもするんですか?」
「もちろん。我々はダンジョンを人の住める場所にし、魔石を持ち帰る。その役目はどちらも重いのだよ」
「は、はい」
「それに、この作業はそんなに楽なものでもないよ」
「え?」
その時、遠くから音が聞こえてきた。
なにか、いろんな吠え声が混ざっているような?
それに複数の足音?
「魔石の集積地はモンスターも引き寄せる。これから、たくさんモンスターが来るよ」
「じゃあ、この音って」
「そう、モンスターの音さ!」
その瞬間、奥にあった穴から大量のモンスターが雪崩れ込むように侵入してきた。
入ってきたのは、洞窟らしい昆虫が巨大化したもの。ムカデにダンゴムシにゲジゲジに……この数はゾッとする。
昆虫は一匹だとそこまでじゃないけど、群れられると生理的嫌悪感がすごい。
「さあ、まずは僕の仕事だ!」
ゾワワとしている間にシズクが一歩先んじ、俺たちの前に立つ。
「僕を、見たまえ!」
大楯をかまえながら、彼女が叫ぶと、全身から光が発された。
それが、彼女の属性が発現した瞬間だったのだろう。
奥の穴から飛び出したモンスターたちは、この場に広がろうとしていたのに、動きを変えてシズクに向かって突進していく。
「タケル!」
「わかってる!」
シズクにモンスターが集中している間に、俺とスラーナはモンスターを倒しまくった。