成長酔い防止の休憩期間はまじめに学園に通う。
役に立つことをしているんだという気持ちはあるのだけれど、いまいち身が入らない。
「山梁くん」
そんな俺に担任のアニマ先生が呼ばれた。
終わりのHR後のことだ。
いつも通りの冷たい態度に、なにを言われるのだろうと警戒しながら近づく。
「スラーナさんも」
と、なぜかスラーナも呼ばれた。
二人でアニマ先生の前に立つと、少し言いにくそうな顔をする。
「あなたたち、パーティを組む気はないかしら?」
「パーティ?」
「ほら、あなたたち、二人組でしょう? それで深度Dになっているのだから大したものなのでしょうけれど、基本的なパーティの立ち回りというものを覚えておいてほしいの。そうすれば、いざという時に他者と連携するときに役に立つから」
「ああ、なるほど」
パーティ。
授業で聞いてはいる。
ダンジョンの攻略を行う際に仲間と組むチームの名前をパーティと呼ぶのだけれど、最小単位で最も安定している構成は、功守補回だということになっている。
つまり、攻撃専門が一人、敵を引きつけるなどで味方の行動の自由を確保する守備役が一人、状況に応じて動きを変える補助役が一人、行動時間を伸ばすための回復役が一人、という構成だ。
「俺は攻撃専門だよね?」
スラーナに確認すると頷いた。
「そのまま敵を引きつける守備役もしているわね。私は補助役が主で、状況次第で攻撃役になったりもする」
この間の、海の中から出てこないモンスターなんかを攻撃するのは、スラーナじゃないと無理だった。
「いないのは回復役だね」
回復役とは、他者の怪我を癒すことのできる属性を持った者のことだ。
一応、怪我を治療するポーションというものは持ち歩いているけれど、スラーナとは怪我をするような事態になったら即時撤退という取り決めはしている。
「でも、回復系統の属性を持った人ってそうはいないでしょう」
スラーナがアニマ先生に返す。
そう。
属性というのは自分で選んで発現させるものではないので、どうしても数が揃ってくれなくなる。
回復系統の属性は、ダンジョン攻略の仲間としても、また医療機関で働く医師としても需要がある。
引く手数多という奴だ。
なので、パーティがこの理想型ばかりになることはない。
「そういう問題を放置しておくと、大人になっても解決しないままになるので、回復系統の属性を得た生徒に協力してもらって、全員が理想型を体験できるようにしているのです」
「つまり、私たちにその順番が回ってくると?」
「そうです。それで、あなたたちは二人なので、もう一人、仮の補充をしたいのだけれど、山梁くんが攻撃役として、スラーナさんの役割は……」
「それなら補助役でしょう」
俺が考える間もなく、スラーナは断言してしまった。
いや、たしかにそうかもしれないけど。
「では、守備役の人も探して、今度組んでもらいますので。そうね、来週はちゃんと学園に来るように」
「わかりました」
話が終わると、アニマ先生はさっさと職員室に戻って行った。
「事務的」
少しうんざりした様子でスラーナが言う。
「ごめんね」
「タケルが謝ることじゃないでしょ」
とはいえ、アニマ先生が気に入らないのは俺だ。
スラーナは巻き添えを食っているだけなのだから。
「そもそも、気に入らない理由が嫉妬でしょ。みっともないわよ」
「嫉妬?」
「あなたがジョン教授のお気に入りだから、気に入らないのよ」
「いや……え? そうなの?」
「なんであなたって、そんなにこっち関係は鈍感なの?」
「いや……そういえば、そんなこと言われたかも?」
でもあれは、なんか俺のことを危険視してるみたいな感じだったような?
「え? 言われたの? それはそれでアニマ先生どうなの?」
「いや、そんなダイレクトに言ったわけじゃなくて……」
「どっちにしても、子供に恋愛事情を悟られるなんて、無様なよね」
「厳しいね。でもまぁ、そんなことより、来週まで時間あるならもう一回、いや、二回はダンジョン行けそうだ」
「……あなたも、ジョン教授と同類よね」
「え?」
「だから気が合うんでしょうね。いいわよ。行きましょう」
「やった」
というわけで、深度Dのダンジョンに挑戦する。
今回入ったのは、どこかの建物の中、みたいな感じの迷宮だった。
玄関から始まるのだけれど、階段が途中で壊れて上がれなかったり、廊下に家具を詰め込んで塞いでいたりして、普通のやり方だと通れないようになっていた。
壊れた壁の穴を抜けたり、広い通気孔の中を抜けたりして、上を目指していく。
中の様子からして、地上にある朽ちたビルによく似ている気がする。
では、出てくるモンスターは人間か、人間が死んだ後のアンデッドとかかと思うのだけれど、出てきたのは犬顔で人間に似た二足歩行のモンスター、コボルドだった。
手には剣や槍を持っているからか、刀が「俺の出番だ!」とばかりに震えて自己主張しているのが、イラっとする。
お前が戦いたがらなかったせいで、前のダンジョンでは苦労させられたんですけど?
こんなにこいつが主張してくるようになったのも、成長したということなんだろうか?
やっぱりコボルトの持つ剣や槍の刃部分が消失していたりするので、食べている疑惑がある。
なので、今回はわざと打ち合って損傷が多めになるように戦ってみた。
愚かの極みみたいな戦い方だけど、自分が使っている物の正体をたしかめるには必要だ。
コボルト十体ほどと戦ってみて刃の具合を見る。
欠けていない。
打ち合った際に飛び散る金属の欠片を何度か見た。
それが全部、相手モンスターの武器からだけだった?
そんなわけがない。
なら、こいつは戦った相手の持つ、武器……刃を奪っている?
喰らっている?
そうして、自分自身を強めているのか?
「なぁ、そうなのか?」
俺の問いに、刀はぶるり、と震えた。
肯定だと感じた。
「なら、今日からお前の名前は
刃を喰らう刀。
「単純ね」
「え? でもかっこよくない?」
「……まぁ、変ではないかな?」
「なら、それで十分だよ」
刀の性質もわかって、名前も決まった。
その後のダンジョンはあちこち巡らされたことを除けば順調に進んで、最後は同じ刀を持ったコボルト・サムライたちとの大立ち回りで締めくくることになった。