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48 海と山



 海と山に挟まれた一本の道を進んでいく。

 ここはそういうダンジョンだった。

 試しに山の中に入っていくとある程度の段階で木々でできた壁があって先に進めなかった。

 海の方はまさか泳ぐわけにもいかない。

 というわけで、この道を進むしかない。


 海を見ていると思う。


「釣りがしたい」


 竿から釣り糸を垂らして魚を釣るのだ。

 鱗を剥いで火で炙ったり、煮たり、干してみたり。

 ダンジョンには肉に野菜や米やパンとか、食事は豊富だけれど魚がない。

 いや、ないわけではないみたいだけれど、高級品みたいな扱いになっている。

 潮干狩りして貝で汁とかもいいな。


「ああ、お腹空く」

「やめて。ていうか、なんでこの臭いでお腹空くの?」


 スラーナは海の臭いがダメらしく、ずっと顔色が悪い。

 慣れないからかな?

 でも、地上にもダメっていうのはいたな。


 クトラとタレアが喧嘩すると、「磯臭い」と「獣臭い」の言い合いが出たらするし。

 俺はどっちも大丈夫なんだけどな。


 出て来るモンスターは山からはツキノワベアとか、大きなくて剣みたいな牙が突き出たサーベルボア。

 短剣を使い長い尻尾を使って木の上から切り掛かってくるソードモンキー。


 海からは羽の生えた小魚が群れで襲ってくるフライングフィッシュに、水鉄砲を撃ってくるガンドルフィン。


 などがいた。

 最初は全部を素手で相手した。

 海から出てこないガンドルフィンだけは、スラーナの属性と弓で片付けたり、数が多い時は面倒なので逃げたりした。

 そのうち、山からのモンスターは刀が抜けることに気付いた。


 やっぱり刀が使える方が戦える。

 その中でもソードモンキーとの戦いでは、刀が妙にやる気を見せているような気がした。

 刃があるものが好きなのか?

 切れ味が増すとかあったりするのか?


 とりあえず使っている段階ではよくわからない?

 その内、はっきりとしてくるのか、少しずつの変化に馴染まされてしまうのか。

 もしかしたら傷んだ部分が勝手に治っているのかもしれない。

 それはそれで便利だ。

 脂を落としたりとかの手入れぐらいはできるけど、本格的なのは無理だし。

 刀を扱える鍛治師とか、いるのかな?

 修理不要になるなら、そういうことを気にしなくて良くなるからいいんだけど。


「どう?」

「うん、なんか普通にやれてるね」


 スラーナの「どう?」は深度Dの体感的な強さだと思った。

 間違っていなかったみたいで「そうよね」と頷いている。


「でも、タケルと一緒だとなにが起こるかわからないから、油断をする気はないけど」

「俺はなにもしていないよ」


 確かに古城エリアでは変なボスが出てきたりしたけど、それだけだ。

 他のダンジョンでは、普通に攻略できていた。

 ここだって普通に進むに決まっている。


 道をひたすらに進んでいるとやがて道が途切れ、砂浜にたどり着いた。

 あ、刀が絶対に出ないと鞘にがっちり収まってしまった。


「海に投げ込んでしまいたい」


 道具にわがまま言われるというの、最初はそんなものかと思っていたけどモンスターごとで出る出ないを変えるのが面倒になってきた。


「別の武器を探す?」

「その方がいいかも」


 スラーナの提案に頷くと、抗議をするかのように細かく震える。

 だけど、柄を握っても出てこない。


「まったく!」


 鞘を叩いて前を向くと、海の向こうで渦が生まれていた。

 渦から何かが出てくる。

 ……いや、出てこなかった。

 そいつは見える範囲では人の形をしていた。

 海から上半身だけを出し、その部分は全て鱗に覆われている。

 瞼まで鱗の形に沿っていて、目は隙間から覗いているように細い。

 筋肉質で、その手には槍が握られていた。

 柄が一メートルもないぐらいの、短槍と呼ばれる部類だと思う。


「あれなに?」

「マーマン? いや、普通のマーマンではなさそうだけど」


 地上にいる半魚呑に似ているような気がするけれど、ちょっと違うような?

 なら、マーマンでいいのか。


 油断していたわけではないけれど、マーマンはその場から短槍を投げた。

 空気が唸り、真っ直ぐに俺に向かう。


 キャッチ。


 空気が破裂するような音がしたけれど、刺さる前に止めることができた。

 そのまま投げ返す。

 マーマンは海に沈んでそれを避けて、出てきた時には新たな短槍を持っていた。


「俺が防ぐからスラーナが攻撃で」

「了解!」


 マーマンは決して海から出てこない。

 海に姿を消したかと思ったら現れて、短槍を投げてくる。

 嫌らしいけれど、単調なので反撃のタイミングを掴むのは難しくなった。

 スラーナの矢と俺の投げ返した短槍が頭と胸を貫くのに、五分も掛からなかったと思う。


「これで終わり?」

「そう、なのかな?」


 一本道だったし、時間感覚的に深度Eならこれぐらいでだいたいボス級のモンスターが出てきていた。

 道の終わりがこの砂浜だったのだから、あのマーマンがボスでいいと思うのだけど……それにしてはさすがに弱すぎるような?


「……タケル」

「うあ」


 波打ち際に流れ着いた魔石を見つけて拾うと、スラーナが別のものを見つけた。

 それは、海にたくさん姿を見せるマーマンたちだった。


 全員が、揃って短槍を構える。


「これ、どんどん増えるタイプかな?」

「それは嫌ね」


 だけど結局、マーマンはどんどん増えていき、全滅させるまでに一時間ぐらいかかった。

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