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43 悪意の襲撃



† † キヨアキ† †



 ダンジョンに篭り続けた。

 強くなるために。

 適性者はモンスターを倒せば強くなる。

 そしてより強い武器を手に入れたければダンジョンに潜っていくしかない。


 ダンジョンに逃げ込んだ人類はこの状況に適応し、さまざまに発展してきたが、適性者の使用する武器や防具に関しては、いまだドロップ品に勝てない。

 通常の製造方法では再現不可能なことが多すぎるのだという。


 それは、いまだ人類が発見していない技術や法則が使用された特殊な存在なのだ。


 適性者として強くなり、強力な武器を手に入れる。

 キヨアキはそれを望み、ダンジョンに潜る。


 父親から刷り込まれた権力志向はあるし、他者との付き合い方に問題はあるけれど、適性者としての彼の有り様はさほど異常ではなかった。


 キヨアキはダンジョンに潜る。

 頭にある仮想敵はタケルだった。

 奴はたしかに強い。

 だが、適性者の強さはダンジョンで戦闘を積み重ね、ドロップ品の武器を手に入れることで覆すことができると信じていた。

 必ず、そうなると。


 だから、潜った。

 E級のダンジョンを繰り返し、D級ダンジョンの挑戦権を手に入れた。

 順調だった。

 ついて来ていたクラスメートの二人も成長し、父親に付けられた護衛たちも強くなっていく。

 キヨアキの考えは正しい。

 ダンジョンに潜れば潜るほど強くなる。

 倒したモンスターから体内に吸い込まれていくなにか。

 それが術理力へと変化し、あるいは肉体そのものに浸透し、強化されていく。

 存在そのものにダンジョンの因子が詰め込まれていく。


 その一体感は強者への道である。

 だが、危険な道でもあった。


「坊ちゃん、そろそろ一度、休憩しましょう」


 父親から付けられた護衛は、その危険性を知っていた。

 ダイスたち裏社会の住人とも繋がりの者たちだが、その中でも普通に適性者として活動しながら、時折彼らに強力して小遣いを稼ぐという者たちがいる。

 その繋がりで得た仕事だ。

 E級やD級なんて危険度の低いダンジョンの攻略に付き合うなんて、彼らからしてみれば簡単な仕事だった。


 それでもモンスターと戦い続け、魔力だろうと言われているダンジョンの因子を吸収し続けることの危険性を知っていた。


「ダメだ! まだまだやるぞ!」


 語気を荒げて、キヨアキが拒否する。

 仲間のクラスメートたちも凶暴な目をしていた。

 これはまずいと護衛たちは思った。


 成長酔いだ。

 体に入り込むダンジョン因子が成長を促進するために肉体に働きかけ、その際に快楽中枢を刺激される者がいる。

 適性者全員に起こることではないが、非常に珍しいというほどでもない。

 キヨアキたち三人ともがそうなることも、まぁあるだろうぐらいの確率だ。


 彼らはすでにE級やD級でどれだけ戦ってもこんなことにはならない。


 酒と同じだ。

 飲み方を覚えてしまえば、対処法を身につけることができる。

 だが、ダンジョンに入りたてのキヨアキたちにはそれがわからない。


 困ったことになったと、護衛たちは視線を合わせた。

 だが、それでもこの段階では事態を軽く見ていた。

 まぁ、いずれぶっ倒れる。

 その時には一日病院で寝れば終わる程度のことだと思った。


 思ったのだが……。



† † † †



 ずっと感じて嫌な予感の存在が濃くなったと思った時、ダンジョンポータルでの騒ぎが警報として届いた。

 多数のモンスターがポータルを抜けて暴れているのだという。


 どうしてこんなことがわかったのか。

 ヤルナーフとの戦いで垣間見えたなにかと関係しているのかもしれない。

 掴みかけたそのなにかが、いまだに俺を刺激し続けていると考えると納得できるような気もする。

 正解はわからない。


 ただ、頭に突き刺さり続ける頭痛のようになってくると無視することもできない。

 ポータルに近づけば、そこには様々なモンスターがいた。

 見たことのあるゴブリンやオーガだけでなく、虫型や獣型、鳥型などの様々なモンスターが大量にいる。


 ゴブリンの大増殖を見た時の光景を、より狭い範囲に凝縮したようだった。


 ダンジョンの出入りを管理するこの空間は、もともとモンスターの逆流を考慮して、生活エリアとはすぐにつながらないようにできている。


「ここから先には行かせるな!」

「役割毎に隊列を作れ!」

「怪我をしたらすぐに下がれ! 動けなくなったら他の連中の足を引っ張る!」

「術理力の管理を怠るな!」


 あちこちから聞こえてくる声は、注意事項ばかり。

 こういうことに慣れている雰囲気があった。


「じゃあ」

「うん」


 一緒にここまで来たスラーナと別れ、戦場に飛び込んでいく。

 負傷して後ろに下がる誰かに代わって前に出て、前にいるモンスターを斬る。

 頭痛は強くなっていくけれど、動きを阻害することはなかった。

 視界に走る線の数も、ダンジョンに潜っていた頃のようになっていて、問題ない。


 いろんな種類のモンスターが混ざっているのに、それらが喧嘩することなくひたすらに前に進んでいるのは、異様な光景のように思えた。

 こんなにも種族が違うのに、戦闘とはいえこんなにも意思を統一できるものなのだろうか?

 なにか、強力な存在が支配しているのか?


 嫌な予感が膨れ上がっていく一方で、なるべく無心に戦うように集中している中で、その声が叩きつけられた。


「山梁タケル!」


 濁った雄叫びと共に、モンスターの群れを押し分けて、邪悪な鎧姿が接近してきた。


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