なんだか不完全燃焼な気分で戻らないといけなくなった。
ポータルを呼び出してから戻り、事情を説明して縛ったローネを差し出す。
大騒ぎになった。
ローネが適性者だとわかると術理力を抑制する首輪が掛けられて、どこかに連れていかれた。
スラーナによると警察という、決まりを守らない者を取り締まる集団がいて、それがローネを雇った何者かを探すのだという。
「誰かが俺たちを狙ったということ?」
「そういうことみたい」
「誰が?」
「知らないわよ」
「まぁ、そうか」
殺そうとまで憎まれるようなことに、お互い思い当たる節なんてない。
「ええと、じゃあどうしよ。またダンジョン行く?」
「ダメよ」
俺の提案を否定したのは、スラーナではなかった。
取り調べ、というものを受けている間にアニマ先生が迎えに来ていた。
というか、彼女が迎えに来たから俺たちは帰れるらしい。
「あなたたちはしばらくダンジョンに行くのは禁止です」
「なんで⁉︎」
やっと面白くなってきたのに。
「危険な目に遭っているんだという自覚をしなさい。特に山梁タケル。あなたに何かあったらジョン教授にも迷惑がかかるということを認識しなさい」
ジョン教授にか。
それはダメだなぁ。
「それなら仕方ないか」
「そうね」
スラーナを見ると、彼女も納得した様子だったので大人しく寮に戻ることにした。
とはいえ不満は不満。
なんか不完全燃焼。
「君がいろんなことに興味を持つのはいいことだと思うけどね」
ジョン教授がやってきて事情を説明して、その後談笑しているときにそのことを話した。
彼は苦笑してコーヒーを飲む。
そんな苦いのをよく飲むと思う。
村のお茶も苦いけど、それとはかなり違う。
ミルクと砂糖を入れないと飲めない。
「そもそも君は、ここになにしに来たんだい?」
「え?」
ナニシニ?
「ええと、それは……」
俺以外の人間がいると知って、それを見たくて?
だったような?
「それなら、もう少し学校で人間を見ればいい。学校の成績はどうでもいいよ。適性者なら追試がかなり甘くなるから留年になることもないだろうし」
「留年?」
「おや、説明してなかったかな? 成績が悪すぎたら、もう一度同じ学年をするということだよ。そして他の子たちは上の学年になる」
「え?」
「君だと、スラーナくんを先輩と呼ばないといけなくなるということかな?」
「そ、それは……」
困る。
というか、なんだろう。
ダメというか。
あ、これは。かっこ悪いという気持ちだ。
「それは、困ります」
「はははは! とはいえ外出禁止でダンジョンに行けないなら、少しは勉強とクラスメートと少しは交流したらいいんじゃないかな」
ジョン教授は笑ってそう言う。
留年はしたくないから勉強は頑張ろう。
クラスメートの交流は、してるつもりだ。
適性者だからか戦闘訓練が多い。
戦闘に特化した能力を持つ人たちだということだけど、同年代ぐらいだとこれぐらいの実力なのかと思うことが多い。
でも、スラーナは強い。
強くなっていると思う。
なぜかというと、たぶんだけどダンジョンに潜っていることが原因だと思う。
モンスターを倒すことで得られる強さを求めた方が、技術も強さも早く手に入るんじゃないかと思うんだけど。
「でも、モンスターとの戦いは命の危険があるでしょ?」
「それはそう」
そういう疑問をスラーナにぶつけてみると、とても正論な返しがやってきた。
「命の危険の前にやるべきことをやるのは、おかしいことかしら?」
「ううん」
スラーナの言い分はとても正しいと思う。
思うんだけど。
「俺、覚えられなければ死ねい、とかよく言われたからなぁ」
「なにそれ怖い」
「いや、ほんとに」
ミコト様もそうだし、大爺もそうだった。
俺に戦いを教えてくれた人たちは基本的に実戦主義者だったと思う。
でも、考えてみたら、武器の振り方ぐらいは教えてくれていた……かな?
いや、でも……すぐに狼の群れが流れてきたからって近くの森に放置されたな。
囮になれとか言ってたけど、けっこう長く放置されて狼に追いかけ回されたよな。
他にも半魚呑とかいう、海から大量繁殖して襲いかかってきた集団の時も大変な目に遭った。
そういえば、あれでクトラと仲良くなったんだっけ?
仲良くなったといえばタレアの時もだ。ハートレッドとかいう変な獅子獣人が暴れていた時だったんだけど、強そうだったのに俺とタレアに押し付けられた。
ひどい話だとは俺だって思うんだけど、ミコト様も大爺も「戦わなければ強くならん」と胸を張って言うんだもんなぁ。
「ねぇ」
「ん、なに?」
「クトラとタレアって誰?」
「誰って、幼馴染っていうのかな? 割と小さい頃から一緒にいるから」
「女の子?」
「え? まぁ」
クトラはオクトパシアっていう水棲種だし、タレアはタイガリアンという虎獣人だ。
女の子といえば女の子だけど、種族が違うんだけど。
「でも、話ができるんでしょ?」
「できるよ」
「仲良くしてるんでしょ?」
「してるよ」
「同等の関係だと思ってる?」
「うん」
「ふぅぅぅぅぅん」
「え? なに?」
「なんでもない。それより、もうお喋りはおしまい。テスト勉強するんでしょ?」
「そうだけど」
なんか変な終わりだなと首を傾げながら、俺は来たるテストのための勉強をした。
しんどい。
戦闘訓練よりはるかにしんどい。