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27 救助




「そういえば、名前は?」

「わたし、ローナ」

「そっか。それで、友達はどこに」

「ええと……」


 ローナはあちこちを見回して、「たぶん、あっち」と言った。

 すごく頼りない。


「どうする?」

「とりあえず行ってみましょう。私の風でなるべく探ってみる」

「わかった」


 先にローナをポータルに送って手助けを呼ぶということも頭に浮かんだけれど、その間にローナと同じぐらいの子供が死んでしまったらと考えると、それもできなかった。


 スラーナの属性『風』が広い範囲で音を拾う。


「あっちからバーンドマンの大群」

「避けよう」


「こっちからファイアウルフの集団。もう見つかってるわ」

「わかった、迎撃する」


 バーンドマンは大群は脆いのにしぶといけれど、動きが鈍いので離れていれば逃げるのは容易い。

 ファイアウルフは火を放つ毛皮を持つ狼だ。

 足も早いし、体当たりされたら熱そうだし、長い牙で噛まれればすぐに血管が裂けてしまうだろう。


【流水斬り】


 だとしたら、襲われる前に倒しきる!

 群れの中を素早く駆け抜け、切り捨てていく。


「さあ、行こう」


 落ちた魔石がもったいないけれど、人命優先だ。

 俺たちはローナの示す方向に進んでいった。



† † ???† †



 なんなんだこいつ?

 新人適性者の始末なんて変な仕事だとは思ったけれど、まさか、こんな奴だとは。

 隙があればいつでもと思うのだけれど、その時が来たと思った瞬間には奴と目が合っている。


 気が付かれた?


 かと思うと「大丈夫だよ」と笑いかけてくるのだ。

 本心から心配している様子で。

 純粋な善人のような顔で。

 だが、わかる。

 長年の経験でわかるのだ。

 その時がくれば、こいつはなんの躊躇もなく斬るだろう。

 そして、斬った後でどうしてこんなことにと慌てるのだ。

 戦いと感情がまるで別となっている戦闘兵器のような人間は、存在する。

 こいつは、絶対にそうだ。

 どんなに好機に見えても、自分の手で、なんて考えない方がいい。

 必ず、失敗する。


 焦る必要はない。

 この先に、ちゃんと罠を用意してある。



† † † †



 ローナの示す先に進んでいくと、焼け残った建物のようなものがあった。

 そこから泣き声が聞こえてくる。


「あそこ!」


 半壊した二階建ての家。

 その二階部分で子供の影らしきものが見えた。

 周囲にはバーンドマンが溢れかえっている。


「まかせろ!」


 群がるバーンドマンの群れを【流水斬り】で薙ぎ払い、ある程度片付けてから二階へと跳ぶ。


「大丈夫かい?」


 柱にしがみ付いて震える男の子に声をかける。

 だけど、答えない。

「うわぁ、たすけてぇぇーー」と、泣き声とも悲鳴ともつかない声を上げ続けている。


「たすけに来たよ」


 もう一度、声をかけながら、周囲を伺う。

 バーンドマンも、他のモンスターもここまでは来ていない。

 この子は混乱しているのかな?


「ねぇ、少し落ち着こうか」


 と、柱に手をかけようとして、震えた。

 熱い。

 この柱、周りが炭になっているけれど、もしかして芯には火が残っている?

 そんなものを、どうしてこの男の子はずっとしがみ付いていられ……。


 瞬間、男の子が光った。


 あっ。



† † ローナ† †



 爆発が建物の内部から溢れ、そこにあったものを崩壊させ、押しのけ、吹き飛ばす。

 轟音が鼓膜を痛いほどに叩く。


 やった!


 衝撃波で突き飛ばされる中、ローナは内心で快哉を上げた。

 実際の顔は、痛みに呻き、起き上がり、土台だけを残した火災現場を呆然と見つめる芝居を続けている。


「なに?」


 なんて言ってみる。

 友人と恩人が一度になくなったことを、受け入れられない顔。

 これでいい。

 視界にいれていないが、もう一人の女に疑われてはいけない。

 わたしは、直接の戦闘能力はないのだから。

 この演技力と独特な属性だけでやっていくしかないのだ。


 ローナの属性は『幻』


 見えるだけの幻覚ではない。

 触れば本物のような感触があるし、音もある。熱もある。

 飲食物として提供すれば、満足感を与えることができる。

 実際には栄養がないので、それだけを与え続けることができれば、餓死させることだってできる。

 爆発物をそうだとわからないようにすることだって、できる。


 さあ、後はおまけのこの女を片付けて戻るだけ……。


「はっ、あぐっ!」


 なに?

 いきなり、息が、できない。


「なにかおかしいと思ったけど、やっぱりそうだったわね」

「あっ、うっ」

「風で触れたあなたの形と、目の前にある形が合わなかったのよね」


 風?

 風で触れた?

 この女の属性は『風』?

 その風で触れた?

 風に幻が通じなかった?

 では、いま、なにをされている?

 息が、できない。


「風の流れを制御して、あなたの口や鼻から大気が入らないようにしているのよ。適性者同士の戦いならあまり意味がないことだけど、どうやらあなた、身体能力には自信がないようね」

「ぐっ……」


 意味がない?

 それなら、この場から離れれば無効になるという。


「がっ!」

「正体を見せたあなたを撃つのに、躊躇うと思った?」


 足に、矢が。

 くそっ、息が。


「相棒……心配」

「え? ああ、タケルのこと?」

「大丈夫だよ」


 その声が背後から聞こえて来た。


「まさか、爆発するとは思わなかった」

「油断よ」

「うん、ごめん。でも、なんとか逃げ切れた」

「そん……」


 そんな。

 爆発した状態から逃げたというの?

 そんなこと、ただの新米適性者ができることじゃない。

 こんな、こんな……



† † † †



「あっ」


 ローナが倒れた。

 すると、女の子に見えていた姿が消えて、本当の姿が現れた。

 年上の女性だ。

 アニマ先生よりも上かな?


「この人、どうしようか?」

「とりあえず、縛って連れて帰るしかないんじゃないかな?」

「なら、ダンジョンは?」

「また今度よ」

「ええ」


 ここまで来て戻らないといけないなんて。

 ついてないなぁ。

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