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25 異常なボス戦




 奇怪な融合を果たした古城の王と古城の王妃。

 ねじくれた古木のように混ざり合い、巨大化したボスモンスターにも線がある。

 だけど、少ない気がする。

 だんだんとわかってきた。

 動くための線。

 防ぐための線。

 切るための線。

 視界の中で渾然一体となった複数の線の中で、どれを選び、どれを捨てていくか。

 組み合わせはいくらでもあるけれど、それは決して勝利にだけ繋がっているいるわけではない。

 失敗すれば、死ぬことだってある……はず。


 ボスモンスター……名前がないと不便なので双頭王ということにする。

 双頭王には四本の腕があり、剣と盾、そして弓矢を操る。


「スラーナは一回、距離を開けよう」

「そうね」


 声をかけてから、俺は双頭王に接近する。

 大きな盾が視界一杯に迫ってくる。

 周囲の瓦礫をものともせずに近づいてくるそれを飛び退いて避ける。

 結果的に後ろに回れたけれど、こちらが動くよりも早く弓から矢が放たれた。

 足元に伸びる線に従って右斜に進めば、矢はすぐ横の地面に突き刺さる。

 柱のような矢が次々と降り注ぐけれど、その着弾点が全てわかるので、それを避けて双頭王へと接近する。

 だが、その時には奴の盾が行く手を遮っていた。

 足が止まったところで、上から剣による刺突が降り注ぐ。


「厄介だね」


 再び避けるのに専念していると、風を纏ったスラーナの矢が双頭王の片方の頭を打った。

 双頭王の意識がスラーナに向く。


「おっと。そうはさせない」


 弓の狙いがスラーナを求めようとしたけれど、その動きによって盾に隙間ができた。

 線はその隙間を縫って懐へ入るように導いている。

 危険な賭けのように思えたけれど、従った。

 盾の下を滑り抜け、足を斬る。

 足首を切断できたけれど、四本あるのでそれでは倒れない。

 よろけはしたので、スラーナへの狙いはそれた。

 そのまま股の下を抜けて、背後へ行く。

 だがその時には振り返っていて、俺に刺突の雨を降らせる。

 だけど、これでいい。

 スラーナではなく、俺に注意が引かれている方が、立ち回りやすい。


「ん、ここっ!」


 線の導きに従って刀を振ると、刺突と衝突した。

 切れはしなかった。

 しなかったけれど……なんだ?


 ィイィン……。


 なんだか、刀が不思議な音を発している。

 ぶつかり合った共鳴の音が残っているのとはまた違う。

 まるで、刀そのものがなにかを求めて鳴いているかのような?


 コレガホシイ。


 そう言っているように感じられた。


「我儘!」


 なんかそんな気がするな!

 あっ、いま、不服の雰囲気を感じた!

 武器に意思疎通を求められるってなにさ!


「もうっ!」


 双頭王が剣を振り上げる。

 迎え打てと刀が訴える。

 一部の線が赤く光った。

 それに従い、刀を振るう。


 ガガガガガガッ!


 激しい金属のぶつかり合い。

 質量の差から、俺の方が絶対的に不利なはずだった。

 それなのに……。


「っ⁉︎」


 双頭王が音もなく動揺しているのがわかる。

 手にしている巨大な剣が、根本を残して消えていればモンスターだって動揺するに違いない。

 斬ったんじゃない。

 残骸はどこにも飛んでいないから。

 正解は、刀が喰った。


 なんでそんなことをするのかわからないけれど、この刀はそれを求めている。

 やっている内に、答えが出てくるのか?

 ともあれ、いまそこにある結果は、双頭王が剣を失ったということ。

 その事実は悪いことじゃない。


 双頭王は盾を前面に押し出して俺に向かって突進してくる。

 その盾の真ん中に上下に駆け抜ける一筋の線が見えた。

 これだ。

 刀を鞘に戻し、静かに息を腹の底に落とす。

 突撃しながら、双頭王が弓を構え、俺に向かって撃とうとした。

 だが、その手に一閃が襲いかかり、巨大な手を貫通した。

 スラーナの矢だ。


【居合術・山斬り】


 鞘から駆け抜ける斬撃は迫る盾を二つに割り、その先端から放たれた斬撃波が双頭王の本体に迫り、駆け抜ける。

 一拍の間を置いて、双頭王は二つに裂けた。


「うっ」


 なにかが自分の中に入り込んだ感触があった。


「なんだ?」


 なにか、毒みたいなものでも受けたのかと心配したけれど、一瞬の気持ち悪さ以外は特に不調も異常も感じられなかった。

 結局、なんだかよくわからない。


「タケル、無事?」

「うん、そっちは?」

「大丈夫だけど、さっきちょっと気持ち悪かった」

「そっちも? 俺も一瞬だけど」

「なんだったんだろう?」

「わからない。ともかく、それを回収して、すぐに戻りましょう」


 俺たちの前にはとても大きな魔石が転がっていた。


「どうして?」

「こんなこと初めてだと思うけど、私の予想が確かなら」


 と、スラーナが語っている間に、地面が揺れ始めた。


「また地震?」

「違う。このダンジョンが変化し始めているのよ」

「え?」

「深度が解除されるのよ。大丈夫だと思うけど、なにが起こるかわからないから早く行こう」

「わかった」


 スラーナに急かされて、急いで脱出のためにポータルに飛び込んだ。




 古戦場フィールドの深度が解除された。

 そろそろだろうと思われていたようで、その事実自体は驚かれなかったけど、最後に出てきた双頭王の件は驚かれた。

 というか疑われたんだけれど、持ち帰った魔石の大きさを見せると信じてもらえた。

 それからは、ジョン教授をはじめとした大人たちに何度も同じ話を聞かれることになって疲れた。

 スラーナの言う通り、初めての出来事だったらしい。


 ジョン教授は他にも刀の能力のことにも興味を持たれたけど、詳しいことはわからなかった。

 刀はドロップ品なのでどんな能力があるのかわからない。


「使っていておかしな感じはしないのだろう? なら、呪いはないから大丈夫だと思うよ」


 と、おおらかに笑っている。

 本当に大丈夫なのか不安だけど、刀の方が使いやすいのだから今のところはこいつを使っていくしかない。

 あと、双頭王を倒した後のことを聞いてみた。


「ふむ、それは君の体が大量の魔力を吸ったからだと思うよ」


 とのことだ。

 モンスターを倒すと、その体を構成していた魔力のの一部が魔石になり、さらに一部が倒した者たちの体に宿る。

 そうやって、人間は体内の魔力を増やし、術理力へと変換していくのだという。

 でもそれなら、守護像を倒した時にもそれを感じてもいいような気がするけれどと言ったのだけど、「それになったからじゃないかな?」とジョン教授は刀を指差した。

 なるほど、と思った。

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