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24 古城へ




 古戦場を進んでいく。

 丘の頂上にある古城を目指していくのだけれど、進むほどに敵の数が増えていく。

 スラーナも流石にこの数は無理になってきて、彼女は無理せず俺の戦闘参加を許してくれた。

 数は増えたけれど強さが変わったわけではないので、【流水斬り】で片付けていく。

 倒した数は以前のオーガを超えているのに、持ってきた背負いバッグはまだ半分も満たされていない。


「手に入る魔石の差がすごいね」

「それがそのまま強さの差なのよ」

「そっかぁ」


 弱いから魔石が少ないのではなく、魔石が少ないから弱いのか。

 なら、深度のランクが変化するということは、手に入る魔石の量が減るということになるわけで。

 魔石は人が暮らす色々なことに使われているわけで、だから魔石はどんどん稼がないといけないわけで。

 結局、人はどんどんとダンジョンの深いところに潜っていかないといけないのか。


 なんか、大変だ。


 城の前に来て、ようやくモンスターが変化した。

 とはいえ骨であることは変わらない。

 スケルトンガーダーという。

 錆びてはいるけど欠けの少ない全身鎧と盾を持ち、武器は片手剣で統一されている。

 ずらりと並んだ奴らは城の前から動く気はないらしい。

 だけど、この古戦場を攻略するためには城の中にいるボスを倒さないといけないそうなので、いかなくてはいけない。


 作戦会議だ。


「スラーナは囲まれない方がいいよね」

「そうね。どこかで射撃に専念できたら」


 周囲を見回して折れた塔のような場所があったので、そこに移動してみる。

 途中でモンスターに襲われなかったし、戦場を城の正面入り口に集中すれば問題なさそうだ。


「ここなら問題なさそう」

「よし、それじゃあ」

「待って、打ち合わせを」

「大丈夫、スラーナが狙うところはわかるから」

「え?」


 ここに来るまでに戦っていてわかったけれど、時々、モンスターに線が現れないのがいる。

 どういうことかと思っていると、すぐその後にスラーナの矢がそこに飛んでいくということが続いたので、そういうことなのだと理解した。


「わかられると、なにか照れるわね」

「え?」

「なんでもない! やりましょう」

「おう!」


 スラーナがなにか呟いていたけど、関係のないことのようだった。

 タイミングを合わせて、スケルトンガーダーの群れに飛び込む。



† † ????† †



 先にいた連中がやられたか。

 だが、こちらには気づいていないな。

 少しはやるようだが、まだ甘い。

 所詮は実戦経験の少ない子供だな。

 しかし、そんな子供を殺せとは、後味の悪い仕事だ。

 いや、この仕事をするようになってから後味の良かったことなど存在しない、か。

 学園の副理事長が学園の生徒を殺せという。

 調べてみれば、標的の生徒に副理事長の息子が恥をかかされたからだという理由なのだから、笑えない。

 それでも上が代金を受け取ったのだから、やらなければならない。


「恨むなよ」


 なにもわからずに殺してやるから。

 手にしているのは狙撃銃。

 その形は、人類が地上にいた頃に開発されたマクミランという狙撃銃からの系譜だと言われている。

 だが、かつては火薬の爆発によって吐き出されていた銃弾は、いまは魔力式加速誘導によってかつての名銃よりも速く遠くに射出することができる。

 だが、それだけではモンスターは殺せないし、戦闘中の適性者を殺すこともできない。

 そこに属性が乗る。

 この男の属性は『気』

 己の武器に術理力から発生したエネルギーをまとわせて、破壊力を増加させる。

 呼吸を止め、スコープに切り出された標的の戦う姿を追いかけ、ここぞというタイミングで引き金を……。


「をっ、がっ……」


 小さな衝撃が体を抜けたかと思うと、喉から空気と液体が漏れていく。

 血が溢れている。

 斬られた?

 いつ?

 誰が?

 まさか?

 あの刀を持った生徒か?

 いや、そんな、この距離で?

 気付いたのか?

 だが、どうやって斬った?

 わからない。

 わからないまま、男の意識は暗闇に落ちていった。



† † † †



「?」


 いま、なにかを斬った。

 妙に主張の強い、切迫感のある線が現れたのでそれを斬ったのだけれど、その感触が目の前にあるスケルトンガーダーの硬く乾燥したものとは違った。

 なにを斬ったのかわからないのが怖いところだけれど、敵であることだけはたしかだ。

 線から感じた主張の中には、殺気も混ざっていた。

 まぁいいか。

 ここにはスラーナ以外に味方はいないし、殺気を放っているということは敵判定で問題ないはずだ。

 最後のスケルトンガーダーを倒す。


「やったわね」

「ナイス援護」


 駆け寄ってきたスラーナに声をかけ、一緒に魔石を拾う。


「後、残っているのは?」

「この城の奥にいるボスだけよ。たしか古城の王と古城の王妃の二体。剣と弓のコンビらしいわ」

「ふうん」


 剣と弓か。


「俺たちみたいだね」

「え?」


 驚いたスラーナの顔が赤くなっていく。


「な、なに言ってるのよ!」

「え?」

「王、王妃なのよ! 一緒なわけ」

「いや、剣と弓のコンビってところが」

「あっ……」

「え?」

「なんでもない」

「そうなの?」

「そうよ!」


 なにを勘違いしたんだろう?

 ううん?

 なんか、こういうのクトラとタレアでもあったような気がする。

 なんなんだろうな。


「さあ、もう休憩はおしまい! 古城に……」


 なんて叫んだところで、それが起きた。

 爆発。

 古城が吹き飛んだ。

 白い粉煙とともに飛んでくる大小の瓦礫。

 俺はスラーナを抱えて古城から離れる。

 衝撃波に背中を突かれ、降り注ぐ瓦礫の雨を、視界にある線の導きに従って回避する。

 安全圏まで逃げられたと判断して振り返り、俺たちはそれを見た。


「なに、あれ?」

「ボスじゃないの?」

「あんなのじゃないわよ!」


 そこには、奇怪なものがあった。

 髭を生やした男性と枯れた金髪が特徴的な女性のミイラ。

 それらが腐った真紅のマントに纏い、立っている。

 ねじれ、絡み合い、一つの存在となり。

 そして、古城の大きさを越える巨大さとなって俺たちを見下ろしている。

 王と王妃である証明なのか、二つの頭の上にはくすんだ冠があった。


「でも、たぶんボスだ」

「こんなのありえないわ!」

「でも、いるしなぁ」


 俺が刀を構えると、スラーナは信じられないと言いながら弓を握る。


「逃げないのよね?」

「こいつを倒さないといけないなら、倒すしかないよね」

「あなたといると、普通じゃないことばかり起こるんだけど、なにかしてない?」

「なにもしてないよ」

「本当にぃ」


 ほんとになにもしていないんだけど、たしかにいろいろ問題も起きている。

 でもやっぱり、俺のせいではないと思う。

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