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 古戦場となったダンジョンは、その言葉らしくない広さがある。

 ただそれは前に体験した平原もそうだったので、そういうものなのだと受け入れることができた。

 モンスターもすぐに出てきた。


 スケルトンウォリアーと呼ばれる錆びた鎧を着た骸骨が、錆びた武器で襲いかかってくる。

 動きはそんなに早くないし、力も強くないけれど、剣や槍を使いこなす技量があるのが少し厄介だ。

 でも前のオーガほどではない。

 前回は戦闘で貢献できなかったとスラーナが頑張っている。

 属性による風を纏った彼女の矢は外れることなく、そして命中とともに衝撃波が放たれて鎧に関係なく骨をバラバラにしてしまう。

 頭骨が砕けたスケルトンウォリアーは、魔石やドロップアイテムを残して消えていく。

 スラーナがはりきるから、俺が魔石を拾う役をずっとしている。

 オーガの時に比べれば、一つ一つが小指の先ぐらいの小さいものばかりだ。


「これぐらいの強さの敵から、魔石がちゃんと出るのかな?」


 ゴブリンやコボルトは出たところを見ていない。

 昔はゴブリンからもちゃんと出たそうだけれど、最近は出ないとか。


「そうかもしれないわね。それより、気付いてる?」


 属性の風で敵の接近を感知し、見えない場所にも矢を放つことのできるスラーナはもう気付いているようだ。

 もちろんと、頷く。


「ずっと誰かに見られてるね。誰だろ?」

「じっと相手の隙を狙うモンスターもいるそうだけど、古戦場にいるモンスターにそんなのは……スカベンジャーラットかな?」

「スカベンジャーラット?」

「大きなネズミのモンスターよ。こちらが弱っていると気づくとどこからともなく集まってくるという話だけど」


 ああ、そういう面倒なのは、地上にもいるなぁ。


「でも、そういう視線とは違う気がする」


 どちらかといえば、もっとちゃんとした肉食獣みたいな強い視線だ。

 だけど、近付いてこない。

 機を窺っている?


「うっとうしいわね」


 スラーナがイライラしている。

 集中力が乱れているようなので、俺は休憩を提案した。

 彼女の属性による警戒網は強いけれど、使いっぱなしになるから疲労が早いという弱点がある。

 近くにあった岩場に腰を下ろし、水筒とチョコバーで水分と栄養補給。

 チョコバーは美味しい。


「ううん」


 とはいえ、このままずっと視線を感じ続けるのは俺も嫌だ。

 なんとかできないものかと考えながら視線を感じる方を見ると、「あっ」線が見えた。



† † ????† †



「気付かれてるな」

「ああ、気付かれてる」


 依頼を受けて、あの二人をスカベンジャーラットの餌にするべく機会を窺っていた裏家業の男たち。

 なのだが。


「付け入る隙がないな」

「あの弓使いの属性は風か。あいつのせいだな」

「まずはあの女を片付けるか」

「ん? あいつ」


 その時、男の方がこちらを向いた。

 いままであからさまな態度を見せなかったのに、どうしたのか?

 自身の武器に手をかけた。

 剣の仲間だが、あまり見ない形だ。


「たしか……刀……」


 そう呟いたところで意識が断たれた。



† † † †



 見えた線に従って【飛燕斬】を放つと、その後は線が見えることはなかった。

 念の為に一人で確認に向かう。

 少し離れた場所の石壁にそれらは隠れていたが、【飛燕斬】は石壁を避けてその二人を断っていた。

 人間だ。


「ああ……」


 どうしようかな?


「見なかったことにしよう」


 視線には明らかな悪意があった。

 となると……倒しても問題のない人たちだったん。

 うん、きっとそうだ。


「なんだった?」

「モンスターだったけど、逃げられたみたいだ」


 魔石を持っていない理由を考えると、そういうことになった。


「そう?」

「うん」

「ならいいけど」


 気付かれたかな?

 だけどスラーナはそれ以上追求してくることはなかった。

 それよりも、視線を感じなくなったことの方が重要なのだろう。

 俺にとってもそうだ。

 人間にはキヨアキのような奴もいる。

 全員が味方とは限らない。

 そしてここはダンジョンで、自分と仲間を守ることを一番に考えないといけない。

 人間だから、同族だからと大事にする理由にはならない。

 それよりいまは、このダンジョンという場所をもっと調べてみたい。

 そっちの方が重要だ。


「そういえば、なんで深度Eに入らないとダメだったのかな?」


 当たり前のようにここに来させられたし、その後は変な視線に付き纏わられていたから、そのことを疑問に思うのが遅れてしまった。


「実力が足りないから? でも深度Sにたくさんの人が挑戦する方がいいんじゃないの?」

「ええと……深度はAに近づくほどモンスターが強くなるのはそう。でも、強いモンスターを弱くする方法があるの」

「へぇ」

「たとえば、この古戦場だけど、私がもっと小さい頃は深度Bだったと言ったら、信じる?」

「そうなの?」

「そうなの。だけど、たくさんの適性者が何度も攻略を繰り返すごとにモンスターが弱くなっていって、いまは深度Eになっているのよ」

「何度も攻略することが重要なんだ」

「そう言われている。他に方法があるのかもしれないけど、わかっていないわ」

「でも、それなら強い人が何回も攻略すればいいんじゃない?」

「それが無理みたいなの。同じ人が繰り返してもダメらしくて」

「つまり……強い人が何度も攻略するんじゃなくて、大勢の人によって攻略されることに意味がある?」

「そういうことね」

「大変だ」


 それを繰り返し続けて、ここにいる人たちはダンジョンで生きていくだけの広大な空間を確保したのだ。


「俺たちはそういう人たちの続きをしてるわけだ」

「続き、ね。うん、そうね」


 そう考えると、すごく興奮してきた。

 俺たちはさらに古戦場を進んだ。




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