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19 新解釈




 オーガは額に角のある大柄な人型モンスターだった。

 複数のオーガが行手を遮っている。

 その手には柄の長い斧のようなものを握っていて、殺意を放つ鋭い眼光が矢のように俺たちを刺していた。


 大爺に雰囲気が似ているなと思った。

 いやいや。

 大爺の方が大きいし、強そうだし、大爺が赤銅色の肌なのに対して、このオーガはゴブリンと同じ緑色の肌だ。


 違う違う。

 ぜんぜん違う。

 他人の空似ならぬ他種の空似に違いない。

 だって、大爺には勝てる気がしないけど、このオーガには負ける気がしない。


「オーガはゴブリンとは違うわ! 気を付けて!」

「いや、大丈夫だよ」


 スラーナの言葉に被せるように応えると、オーガの群れの中に飛び込む。


【流水斬り】


 オーガの群れの中をすり抜けて行き、切り裂く。

 抵抗す様子も、反応することもなく、オーガたちは倒れていった。


「ええ……」


 大爺に似てるのに弱いなんてありえない。

 こいつら嫌いだな。


「オーガってそんな簡単に倒せるモンスターじゃないわよ」

「そう?」

「そうよ」

「ううん」


 言われて、剣を確かめる。

 前にカイザーセンチピードと戦った時に使った剣と大きな違いはない。

 ないけれど、前より斬れている気がする。

 なにが変わったというわけではないはずだけど、なにかが変わっているみたいだ。

 術理力がまた向上したかな?

 それで身体能力が上がっている?


「あっ!」


 スラーナが声をあげて駆け寄る、

 オーガの死体が薄まり、消えていくところだったのだけれど、そこに何かが残っていた。


「それは?」


 青い結晶体が転がっていた。

 オーガ全てがなにかを残して消えている。

 結晶体以外にも見たことのある形のものもあった。


「魔石。それにこれはドロップという現象よ」


 ドロップ。

 たしか授業でやっていた。

 ダンジョンのモンスターはほぼ死体を残さない。

 死体を残す方法はあるけれど、それをしないと残らないのだそうだ。

 全て、消えてしまう。

 ダンジョンに吸収されているという話だ。

 だが、消えずに残ってしまう物がある。

 それがドロップという現象。

 ドロップされる物は魔石という、魔力の結晶体がなのだそうだ。

 それだけでなく、別の物がドロップすることがある。

 その中には武器や防具、魔法が込められた道具なんかもあったりするらしい。


「昔はゴブリンからでも魔石が出ていたらしいけど」


 そう言いながらスラーナが魔石を拾うのを手伝う。

 中には矢筒もあって、スラーナが補充できると喜んだ。


「落ち込んでいても仕方ないし、脱出できる方法を探しましょう」

「う、うん」


 魔石を手に入れたからか、それとも矢の補充のできたからか、スラーナは前向きになれたようだ。


「まぁ、こうなったら楽しんだ方が楽かもね」

「そうそれ!」


 俺の呟きにスラーナが勢いよく食いついた。


「魔石を大量に持ち帰ったら、キヨアキの奴、歯噛みして悔しがったりしないかな?」

「そ、そうかもね」

「ふふ、それは楽しみね」


 スラーナが目をキラキラさせてそんなことを言うとは思わなかった。

 それに……。


「……そういう考え方?」


 ちょっと、驚きだった。

 新解釈を見たというか。

 地上の他の集落との付き合い方では、権力者には逆らわないのがお約束だった。

 その方が交渉が楽だ。

 ただ自分の村で余っている物を対価に、自分の村で足りない物をもらうだけの付き合いなのだから、集落の中のことに口を出す必要はないと思っていた。

 悔しがらせるとか、やり返すとか……そんなことをやる時は、もう相手を滅ぼす時だと決めていた。

 だけど、そうか……他人じゃない集団なら、やられっぱなしでいるのも悪いのかもしれない。

 相手に対して自分の価値を示し、手を出しにくい存在だと認めさせることも必要なのかもしれない。

 ていうかそれって、不通に他の集落との付き合い方の肝要な部分でもあるんだけど。

 なんだけど……ああ、そういえば、クトラとタレアも知り合ってからずっと、やったりやられたりしている。

 二人はオクトパシアとタイガリアンで、住んでいる集落も違うし、集落での考え方も違ったりしている。

 だけど、二人の喧嘩はじゃれ合いぐらいで落ち着いている。

 そういう付き合い方もあるし、そういう付き合い方にしてしまえばいいのかもしれない。


[その結論は、クトラとタレアに真顔で『いや違う』と言われるのだということを、残念ながらタケルは気づいていない]


「まだまだ未熟だなぁ」

「え?」


 そう呟くと、スラーナに変な顔をされた。


「え? オーガをあんな風に斬れる人が未熟?」


 スラーナが理解できない世界の真理を覗いたみたいな顔をした。

 なんで?


「え? いや……そこじゃなかったんだけど、でも、まだ属性もはっきりしていないし」

「うん、そうかもしれないけど、でも、たぶん、あなたの属性は、きっともう発動していると思うな」

「ええ?」


 意外なことを言われた。


「どこで?」

「私もこうだと説明できないけど、あなたのやってることってすごすぎるもの。きっと、見てすぐわかるものじゃないのよ」

「……わかるものがいいよ」

「あはは、さあ、そろそろ行きましょう。私たち、ご飯も持っていないのよ」

「そうだった」


 あまり長く迷ってもいられない。

 俺たちは迷宮をさらに進んだ。

 出てくるオーガを薙ぎ払い進んでいく。

 スラーナの風が道を示す。

 彼女が敵の出現や接近を感知し、俺が倒す。

 そういう役割が自然に出来上がり、進んでいき、そして一つの部屋に辿り着いた。

 部屋の前には立派な両開きの扉がある。


「ここがゴールかな?」

「そうだと思う。というか、そうでないともう魔石を持てない」

「そだね」


 倒したオーガの魔石を拾い続けたら、持ってきていた背負いバッグがパンパンになってしまった。

 その重さにスラーナがグッタリしている。

 魔石も放置していたら、時間経過で消えてしまうらしい。

 なのでどこかに貯めておいて後で取りに行くとかできない。

 持てない物は捨てていくしかない。


「そんなの、もったいない!」


 泣きそうな顔でスラーナがそんなことを言うなんて、最初の頃からだと想像できない。


「それじゃあ、ここで終わりであることを願おう」


 スラーナに苦笑を投げかけ、俺は扉を押し開けた。






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