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14 救助



 スラーナの感覚に従って進んでいく。

 彼女の武器は弓で、接近戦には向いていない。

 近づいてくるゴブリンを倒すのは俺の役目になっていた。


「声はどこ?」

「あっち!」


 スラーナの声に従って進んでいると、そこには大岩が見えた。

 横に長く、上に何人かが乗れるぐらいに広い。

 そこに五人が乗り、近づいてくるゴブリンに対処していた。


「あれよ!」

「わかった!」

「え? ちょっ!」

「一気に行く。暴れるなよ」

「ええ⁉︎」


 走ったまま、スラーナを抱えると、驚く彼女に声だけかけて速度を上げると、跳んだ。

 ゴブリンの頭を越えて、大岩の上に着地することに成功。


「え? え?」

「スラーナ⁉︎」


 大岩の上にいたのはクラスメートだった。


「ここでしばらく迎え撃って。逃げられるようになったら逃げる! スラーナ、頼んだよ」

「えっ! ちょっと! もうっ!」


 戸惑う彼らとスラーナにそう告げると、俺は大岩から下りて、ゴブリンたちを薙ぎ払っていく。

 元からいた五人は大岩に近づくゴブリンの対処に専念し、スラーナの矢らしきものが、時々、俺の視界にあるゴブリンに命中している。

 頭や胸によく命中している。

 彼女の技量も確かだ。


 数が多いのは面倒だけれど、ゴブリンそのものは強くない。

 質と量を両方備えたモンスターは地上にもいるけれど、あっちの方が厄介だ。

 数を相手にするときの肝は、いかに武器を壊さないようにするかなのだけれど、術理力によって身体能力が上がったことで、それもやりやすい。

 とはいえ、術理力の肝心の部分はそれじゃないはず。


 俺には、どんな属性があるのだろうか?

 いまだにそれははっきりしていない。

 楽しみだ。

 ここから先にどうなるのか?


「タケル!」


 呼ばれてそちらを見ると、スラーナたちが大岩から下りているところだった。

 気がつけば、辺りのゴブリンの数がかなり減っていた。

 いつの間にか、けっこう倒していたみたいだ。


「行きましょう!」

「わかった」


 彼らを先に走らせ、俺もその後を追う。


「……あなた、強いわね」


 スラーナが近づいてきて、そんなことを言った。


「そうかな?」

「ええ! 他の人を見てそう思わない?」

「ううん。まぁ、俺は子供の頃から鍛えてるし」

「それなら私だってそうなんだけど?」


 走りながら恨めしそうに俺を見る。

 器用なことをするなぁ。


「でも、あなたのおかげで無事に戻れそう。ありがとうね!」

「うん、まぁ、どうも?」


 なんか、こういうのは照れるね。


「それはそうと、花頭に逆らってよかったの?」

「ああ、うん。まぁね。でも、こういう時に仲間のために動くっていうスラーナの考え方は間違ってないと思ったから」

「タケル……」


 うまく言えたらしく、スラーナが感心した顔をしてくれた。

 ……と、思ったら疑わしそうな目で見てくる。


「なんて言っておいて、本当は、彼が実はそんなに権力なさそうだから、っていうのが理由だったりしない?」

「え?」

「あ、当たった」

「いや……あはは、まぁ、そういうところもあったりもするけどね」


 副理事長になるには理事長に選ばれなくてはいけなくて、その理事長も理事長選挙というのを経なくては慣れない。

 選挙がなにかは、聖ハイト学園に来て知った。

 地上のモンスターたちのような、強者が優先される独裁的な権力というのは、人間社会には存在しないらしい。

 かつては存在したらしいけれど、いまは民主主義というもので運営されているそうだ。

 そんな社会では、副理事長という立場はそれほどの権力を持っているとは思えない。

 あの時、スラーナがキヨアキに言ったことには、そういう意味が含まれていた。


「そもそもスラーナ」


 俺はそらした視線を戻して彼女を見る。


「あの時あんなことを言ったのは、実は俺に向けてだったりしない?」

「さあ、なんのことかしら?」


 さらっと、彼女は惚けてみせる。

 スラーナもけっこういい性格をしているのかもしれない。

 ポータルに向かって走っているうちに、他にも逃げて来た生徒と合流することができた。


「これなら無事に戻れそう」


 いくつかの小集団ができあがっているのを見て、スラーナがほっと息を吐く。

 俺もそう思った。

 だけど、成功の瞬間の油断こそが最も危険な瞬間であると、ミコト様にも言われている。

 こういう時にこそ、悪いことは起こると。

 その予言が当たった。


 グラリ……と。


「え?」

「あ、地震?」


 体が揺れたのかと思ったけど、違う。

 地震だ。


「え? 地震? これが?」


 スラーナが戸惑う声を上げている間に地震はどんどんひどくなっていく。

 ついに、走ることもできないほどになった。


「なに、なんなの?」

「落ち着いて、冷静になろう」


 地面の鳴動が音となり、あちこちから聞こえてくる悲鳴を覆い隠していく。

 地下に存在する硬いものが擦れ合う音。

 地上なら地層のぶつかりあいだけれど、ダンジョンだとなんになるのか?

 そんなことを考えていると、目の前で地面が裂けた。

 地割れだ。


「きゃあっ!」

「落ちないように、気をつけよう」


 スラーナにしがみ付かれて困っていると、さらに困った事態だ近くの裂け目から覗いてきた。

 なにか、別のモンスターの目が暗闇から俺たちを見ていた。




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