スラーナの感覚に従って進んでいく。
彼女の武器は弓で、接近戦には向いていない。
近づいてくるゴブリンを倒すのは俺の役目になっていた。
「声はどこ?」
「あっち!」
スラーナの声に従って進んでいると、そこには大岩が見えた。
横に長く、上に何人かが乗れるぐらいに広い。
そこに五人が乗り、近づいてくるゴブリンに対処していた。
「あれよ!」
「わかった!」
「え? ちょっ!」
「一気に行く。暴れるなよ」
「ええ⁉︎」
走ったまま、スラーナを抱えると、驚く彼女に声だけかけて速度を上げると、跳んだ。
ゴブリンの頭を越えて、大岩の上に着地することに成功。
「え? え?」
「スラーナ⁉︎」
大岩の上にいたのはクラスメートだった。
「ここでしばらく迎え撃って。逃げられるようになったら逃げる! スラーナ、頼んだよ」
「えっ! ちょっと! もうっ!」
戸惑う彼らとスラーナにそう告げると、俺は大岩から下りて、ゴブリンたちを薙ぎ払っていく。
元からいた五人は大岩に近づくゴブリンの対処に専念し、スラーナの矢らしきものが、時々、俺の視界にあるゴブリンに命中している。
頭や胸によく命中している。
彼女の技量も確かだ。
数が多いのは面倒だけれど、ゴブリンそのものは強くない。
質と量を両方備えたモンスターは地上にもいるけれど、あっちの方が厄介だ。
数を相手にするときの肝は、いかに武器を壊さないようにするかなのだけれど、術理力によって身体能力が上がったことで、それもやりやすい。
とはいえ、術理力の肝心の部分はそれじゃないはず。
俺には、どんな属性があるのだろうか?
いまだにそれははっきりしていない。
楽しみだ。
ここから先にどうなるのか?
「タケル!」
呼ばれてそちらを見ると、スラーナたちが大岩から下りているところだった。
気がつけば、辺りのゴブリンの数がかなり減っていた。
いつの間にか、けっこう倒していたみたいだ。
「行きましょう!」
「わかった」
彼らを先に走らせ、俺もその後を追う。
「……あなた、強いわね」
スラーナが近づいてきて、そんなことを言った。
「そうかな?」
「ええ! 他の人を見てそう思わない?」
「ううん。まぁ、俺は子供の頃から鍛えてるし」
「それなら私だってそうなんだけど?」
走りながら恨めしそうに俺を見る。
器用なことをするなぁ。
「でも、あなたのおかげで無事に戻れそう。ありがとうね!」
「うん、まぁ、どうも?」
なんか、こういうのは照れるね。
「それはそうと、花頭に逆らってよかったの?」
「ああ、うん。まぁね。でも、こういう時に仲間のために動くっていうスラーナの考え方は間違ってないと思ったから」
「タケル……」
うまく言えたらしく、スラーナが感心した顔をしてくれた。
……と、思ったら疑わしそうな目で見てくる。
「なんて言っておいて、本当は、彼が実はそんなに権力なさそうだから、っていうのが理由だったりしない?」
「え?」
「あ、当たった」
「いや……あはは、まぁ、そういうところもあったりもするけどね」
副理事長になるには理事長に選ばれなくてはいけなくて、その理事長も理事長選挙というのを経なくては慣れない。
選挙がなにかは、聖ハイト学園に来て知った。
地上のモンスターたちのような、強者が優先される独裁的な権力というのは、人間社会には存在しないらしい。
かつては存在したらしいけれど、いまは民主主義というもので運営されているそうだ。
そんな社会では、副理事長という立場はそれほどの権力を持っているとは思えない。
あの時、スラーナがキヨアキに言ったことには、そういう意味が含まれていた。
「そもそもスラーナ」
俺はそらした視線を戻して彼女を見る。
「あの時あんなことを言ったのは、実は俺に向けてだったりしない?」
「さあ、なんのことかしら?」
さらっと、彼女は惚けてみせる。
スラーナもけっこういい性格をしているのかもしれない。
ポータルに向かって走っているうちに、他にも逃げて来た生徒と合流することができた。
「これなら無事に戻れそう」
いくつかの小集団ができあがっているのを見て、スラーナがほっと息を吐く。
俺もそう思った。
だけど、成功の瞬間の油断こそが最も危険な瞬間であると、ミコト様にも言われている。
こういう時にこそ、悪いことは起こると。
その予言が当たった。
グラリ……と。
「え?」
「あ、地震?」
体が揺れたのかと思ったけど、違う。
地震だ。
「え? 地震? これが?」
スラーナが戸惑う声を上げている間に地震はどんどんひどくなっていく。
ついに、走ることもできないほどになった。
「なに、なんなの?」
「落ち着いて、冷静になろう」
地面の鳴動が音となり、あちこちから聞こえてくる悲鳴を覆い隠していく。
地下に存在する硬いものが擦れ合う音。
地上なら地層のぶつかりあいだけれど、ダンジョンだとなんになるのか?
そんなことを考えていると、目の前で地面が裂けた。
地割れだ。
「きゃあっ!」
「落ちないように、気をつけよう」
スラーナにしがみ付かれて困っていると、さらに困った事態だ近くの裂け目から覗いてきた。
なにか、別のモンスターの目が暗闇から俺たちを見ていた。