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11 花頭キヨアキ



 術理力の基礎を学ぶ時間の他にも、戦闘適性のあるクラスは運動する授業が多いらしい。

 体育館や運動場の使用スケジュールの問題もあるけれど、基本的にうちのクラスは午前に基礎教養の授業。午後が運動の授業という風になっている。

 やるのは術理力に関することだけでなく、基本的な運動や武器の講習なんかもあるそうだ。


 いまは武器講習の時間だ。

 得意の武器があるものは、それを使った自主練を行えと言われた。

 体育教師は、まだ持つ武器も決まっていないような初心者を相手に徒手から順に教えていくという。


「けっこう、ばらつくんだね」

「それぞれの家庭の事情ね」


 ミコト様に師事して、一人で修行を受け、ときどきクトラやタレア、村の人たちと試合をしていたタケルにはわからない。

 俺が模擬剣というのを選ぶ横で、スラーナは弓を選んでいた。


「戦闘適性自体はもっと早くからわかるんだけど、中には受験で初めてそれを知る人もいるのよ。だいたい、親に戦闘適性がない人たちになるんだけど」

「ふうん。それだと、スラーナは親もそうだったってこと?」

「そういうこと。で、そういう家は早い段階から武器の使い方を教わったりするの。術理力だけは、法律で禁止されているんだけどね」


 そこまで教えてくれて、スラーナは的のある場所へと移動していった。

 俺も自主練だというので素振りやら型の練習やらをする。


「よう」


 黙々と剣を振っていると、声をかけられた。

 同じクラスの……。


「ごめん、名前知らない」

「花頭キヨアキだ」


 俺の返答に花頭はムッとした様子を見せた。

 でも、俺は教室に入った時に自己紹介したけれど、他はしていないのだから仕方ない。

 でも、花頭という名前には覚えがあった。

 んん、もしかして?


「ええと、それで?」

「お前、剣なんだな。ちょっと手合わせしようぜ」

「え? いいのかな?」

「いいさ」


 チラリと体育教師の方を見ても、彼は初心者を教えるのに集中していてコチラを見ていない。


「本気でやらなければいいんだよ」

「そっか」


 まぁ、軽くなら問題ないかな?



† †花頭キヨアキ † †



 初めて見た時からなにか気に入らなかった。 

 なにがどう、と言われると困るのだが、これは本能の部分に引っ掛かるのかもしれない。

 そもそも気に入らないという感想が、感覚に寄り過ぎている。

 だからわからないのも仕方ない。


 ただ、先日の術理力基礎の授業を簡単にこなし、他の連中に教えている場面を見たときにはっきりとした。

 こいつは潰すと。

 花頭の家はこの周辺のダンジョン街の中でも名家に数えられている。

 そして父は学園で副理事長の職についている。

 次の理事長選挙では理事長職を狙うつもりだ。

 そんな父の下にいるキヨアキが、こんなところで誰かの下風に立つようなことはあってはならない。

 こいつに、剣で負けるわけにはいかない。


「軽く、流す感じでいいかな?」

「ああ、いいぞ」


 タケルからの提案に涼しい顔で了承する。


「じゃあ、やるか」

「うん」


 剣を正面に構えて始める。


「お先に」

「おう」


 先手を譲るタケルの態度に少しイラついたが、冷静に相手の剣を弾き、頭を狙う。

 タケルは弾かれた剣を引き戻すだけで、俺の剣を流した。

 まぁ、それぐらいはやるか。

 即座に引き戻し、今度は突きを放つ。

 それもまた剣で弾かれた。


「やるな!」

「どうも」


 目は良いようだ。

 だが、こちらの剣を弾いてすぐに固まっていては、動けないぞ!

 さらに左右から何度も斬撃を浴びせた結果、タケルの腕を薙ぐことに成功した。


「ふふん、どうだ!」

「お見事」


 タケルはニコニコと笑っている。

 なんだ?

 キヨアキの強さに敬服したのか?


「花頭君は強いね」

「ふふん、そうだろう!」


 なんだ、この程度か!

 そう思えば、自分が最初に感じたことはただの気のせいだったのだと笑えてくる。


「まぁ、わかったのなら今後は気をつけるんだな」


 そう言って、キヨアキは気分良くタケルから離れた。



† † † †



 花頭が気分よく去っていくのを見て、俺はほっとした。

 なにごともなくてよかった。


「ねぇ、あれってわざとでしょう?」


 途中から見ていたのか、スラーナが寄ってきて俺に聞いてきた。


「ええと、まぁね」

「なんでそんなことを?」

「彼って副理事長の花頭っていう人の関係者じゃないの?」

「え? ええ、そう」

「やっぱりね」

「え? そういうことなの?」

「土地の権力者と喧嘩をするのは利口じゃないよ」

「……意外」


 なんか、変な目で見られた。

 俺って、どういうふうに見られていたんだろう?

 入学してから数日あったんだし、学校の偉い人のことを調べる時間はあった。

 花頭キヨアキのことは知らなかったけど、聖ハイト学園の幹部たちの名前を調べることはできた。

 ジョン教授がどれぐらいの地位にいるのかもわかった。

 学園の生徒には好かれているようだし、理事長や校長に意見を言える立場ではあるようだけれど、力関係としてはそこまで強くない。

 つまり、俺の立場はけっこう弱い。

 油断していると、あっさりと追い出されたりするかもしれない。

 ここまで来て、そんなことにはなりたくない。

 と考えれば、花頭キヨアキの機嫌を損ねるようなことはするべきではないと判断したのだ。


「ちなみに聖ハイトっていう人のことも調べたよ」


 聖ハイトの本名は猪坂ハイトっていう人で、この辺りのダンジョンを人類居住可能空間にするために活躍した一人。

 その時の功績で、聖人認定されたとなっていた。


「ああ……自分に興味があることしか頑張れないタイプなんだね。授業もそれぐらい真面目に受けなさいよ」

「ぐう」


 スラーナの正論がなにより痛かった。

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