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10 基礎



 そもそも、戦闘適性とはなんなのか?

 食堂で話している時にふと湧いた疑問をぶつけてみると、スラーナは目を丸くして驚いた。


「え? 知らないの?」

「うん」

「はぁ……いえ、そうよね。知らないものなのよね」


 こちらでは質問するのがおかしいぐらいの常識なのかもしれないけれど、俺は知らない。


「戦闘適性というのは、言葉のまま。戦闘の適性がある人ってことなんだけど……」


 スラーナが説明してくれた。

 言葉のままではあるのだけれど、この適性がある人とない人では、身体能力がまず違うのだという。


「術理力も戦闘適性がある人じゃないと使いこなせないから」

「へぇ」


 同じ人間でそんなに違いがあるものなのか。


「そうそう。授業のスケジュールは見てる?」

「ええと、まだ」

「なら、午後には術理力基礎の授業があるからね」

「おお!」

「さっきみたいに絵を描いてばかりはダメよ」

「ううっす」


 そんな俺の反応にスラーナがくすりと笑った。


「そういうところは他の男子と同じね」


 昼の休憩が終わり、待望の術理力基礎という授業になった。

 ジャージに着替え、運動場という、昨日適性試験をした場所に移動する。

 教師は、適性試験の時の体育教師だった。


「では、術理力についての説明をしよう。今月中に身につけてもらう予定だ。無理な場合には補習もあるぞ」


 補修という言葉にうえぇという声が上がる。

 俺は、そもそも補修というものがわからない。

 後でスラーナに聞いてみよう。

 彼女を見てみると、真面目に前を向いている。

 俺もおとなしく体育教師の話を聞いた。

 最初は術理力がなにかという話だった。

 それは寮で聞いた話と大きな違いはなかった。

 人間は魔力をそのままでは使いこなせないので、独自の循環路を構築して取り込めた部分だけを使用する。


「まずは魔力を感じられるようになることだ。そのための方法を……」


 魔力を感じるために、配られたのは奇妙な形の金属板だった。

 ゆったりとしたカーブを描いたお盆のような形で、四つのボタンがそこにある。

 体育教師が使い方を教えてくれた。


「これは魔力感知盤という。サイドにあるスイッチを入れると四つのボタンの内部を魔力がランダムで移動する。それを感知してボタンを押すんだ。使用される魔力はお前たちの体内魔力なので他と接触していなければ誤認することはない。なに? 人間に魔力があるのかだと? なければ循環路だって作ることはできん」


 言われるままに地面に座り、足の上に魔力感知盤のスイッチを入れる。

 瞬間、俺の中からなにかが抜けたのを感じた。

 それは抜けたというか、金属板の中に神経が伸びたような不可思議な感触だった。

 その神経は金属板の中を這い、ボタンの一つに止まった。

 俺はそれを押してみた。


「すぐにはわからんだろうが、続けていけばわかるようになる。まずは目を閉じるなどしてなるべく他の感覚を遮断するんだ」

「あの〜」

「どうした?」


 俺が手を挙げると体育教師が言葉を止めた。


「光りました」

「なに?」


 怪訝な顔をして近づいてきた体育教師は俺の金属板のボタンが光っているのを見た。


「……もう一回やってみろ」

「はい」


 スイッチを入れ直すと、金属板に伸びていた神経の感覚が消えて、また同じことが繰り返される。

 今度は違うボタンに止まったので、そこを押す。

 また光った。


「まぁ、お前はそんなもんかもな」

「ええと……」

「飽きるまで繰り返していろ」

「あ、はい」


 体育教師にそう言われ、俺は何回も同じことを繰り返した。

 ボタンが光らなかったことは一度もなかった。 

 これで魔力を感じられたことになるのだろうか?


「さすがね」


 何度か繰り返しているとスラーナが隣にやってきた。


「えっと、できない?」

「私は、今のところ六割って感じかな」


 スラーナが魔力感知盤のスイッチを入れて、真面目な顔で見つめ、そしてボタンを押す。

 光らなかった。


「ああもう」


 悔しそうに地面を叩く。


「ねぇ、どうやってるの?」

「どうやってるって……」


 しばらく考えて、自分が感じているものを言葉にしてみる。

 気が付けば周囲にいた何人かが近づいて、耳を傾けていた。


「神経が伸びる感じねぇ」


 スラーナは少し考えるようにして、魔力感知盤のスイッチを入れる。

 目を閉じて、口の中でなにかを呟いている。

 さっきの言葉か?

 彼女の手がふわりと動き、ボタンを押した。

 光った。


「あっ」

「おっ、やった」

「もう一回」


 繰り返すと、スラーナは次々とボタンを光らせていく。

 たまに失敗もあるけれど、十回やれば八回は光るぐらいになっているからさっき言っていたよりも当たるようになったみたいだ。


「あ、これわかるかも」

「ほんとだ!」


 周りからもそんな声が聞こえてくる。


「すげぇ、山梁すげぇ」

「タケル君、ありがとう!」

「ええと、どういたしまして?」


 なんか急にそんなことを言われると照れる。

 ふと見ると、スラーナがニヤニヤした顔で俺を見ていた。


「……なに?」

「照れてるから」

「そりゃ、そうでしょう」

「本当に、普通ね」


 スラーナは俺をどう見ていたのだろう?

 ちょっと気になる。

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