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07 乱取り



 一対多の戦いというのはよくやる。

 練習だと、クトラとタレアの二人を同時に相手にすることがある。

 実戦だと、最近なら北から流れてきたモグアイという連中と戦った。

 大きな頭に小さな体。一つ目に牙だらけの口。目から放たれる怪光線は、弱いのでも若い成木を折るぐらいの威力を出す。

 視線の先にずっといないように走り回るのがしんどかったな。


 それはともかく、いまだ。

 相手が槍使い一人から、槍使いを抜いた三人になった。

 槍使いの人は腹を抱えたまま座り込んでいる。

 そんなに強く打ってないはずなんだけど、大丈夫かな?


「いつでもいいぜ」


 三人が持った武器は短剣二本持ちに、剣と棒だった。


「おい、気をつけろよ」

「ああ、油断しねぇよ」


 槍使いが、なんとか声を絞り出したという雰囲気で注意を飛ばしている。


「では、はじめ」


 開始は体育教師が告げた。

 最初に動いたのは棒使いだった。

 だろうなぁという感じ。

 長射程を活かした突きが足元を狙ってきた。

 間合いを読んだ上で後ろに跳んで避ける。

 その挙動の間に、短剣使いが間合いを詰めてきた。

 足が速い。

 投げ技を打てるぐらいに接近して、撫でるように刃を押し付けてくるので、剣の握り部分で弾き返し、腹に足を当てて遠くに飛ばす。

 その間に回り込んでいた剣使いが、突きを放ってくる。

 剣使いとは反対側に回り込んでいた棒使いも、突きで執拗に足を狙ってくる。

 連携ができあがっている。

 遠距離、中距離、近距離の役割がきっちりと分かれ、それぞれが必殺の一撃を狙わずに確実に倒す作戦で動いている。

 これに槍使いも加わるのなら、遠距離が二人になるってことか。

 それはちょっと多すぎる?

 常に多対一で囲んで戦えるわけでもないだろうし、その時々での連携があるのかもしれない。

 ていうか、あるんだろうな。

 どんな時があるのかわからないけど。

 そもそも短剣使いは、人間以外を相手にするのは難しい気がする。彼の動きは人間の体を前提にしている。あるいは技巧対技巧の戦いを想定しているとも言える。

 少々の傷は分厚い皮膚や鱗で無視して突進してくるようなモンスターの相手は向いていない。

 短剣ではそもそも、刃の長さが足りない可能性だってある。

 その証拠というわけでもないだろうけれど、短剣使いはここぞという時しか突っ込んでこない。

 攻めあぐねているという感じだ。


 よし、そろそろいいかな?


 攻め方が同じ動きの繰り返しになってきた。

 向こうの攻撃の手札はまだあるだろうけれど、それを全て見る必要もない。

 三人が攻め方を切り替えようとする瞬間……目線を交わした。

 つまり、俺から目を離した。

 いまだ。

 足を狙ってきた棒使いの棒を踏み、半ばの辺りをさらに踏むことで手から引き剥がす。

 反撃に移行した俺に対し、あちらは別の連携に移行することを考えていただけに、思考の段取りが乱れ、動きが遅れた。

 次に近くにいた剣使いに踏みこみ、手に打ち込む。


「がっ!」


 速さを重視したので槍使いの時よりは痛くないはずだけど、剣使いは手から剣を落とした。

 その剣が地面に落ちるよりも早く、俺の剣で巻き上げ、短剣使いに飛ばす。


「うげっ!」


 対応できなかった短剣使いは立ち尽くし、それを頭に受けて倒れた。

 残るのは棒使い。

 落とした武器を拾っているかと思っていたら、違った。


「たいしたもんだが、こいつはどうだ⁉︎」


 両手を握り合わせ、なにかを握るようにしていたかと思うと、それをこちらに向かって解き放った。


「あっ、こらっ!」


 体育教師が慌てた声を上げる。

 目に見えない力が襲いかかってくるのがわかった。

 避け……いや、斬る。

 だが、この練習用の剣は、やっぱり斬るのに向いていなかった。

 目の前でまさしく木っ端微塵になってしまった。

 だけど、不可視のなにかもそれで消えてしまった。


「おしまいだ」


 体育教師が告げた。


「戦闘適性試験は終了だ」

「ええと、これは……」

「もちろん合格だ。そうでしょう?」


 体育教師が校長たちに確認すると、みんなが頷いた。


「やった」


 合格は素直に嬉しい。

 せっかくここまで来たのに、不合格だから帰ってとか言われたら情けない。

 村のみんなに笑われてしまいそうだ。

 もう一回行ってこいとか言われても困る。

 村のみんなは基本優しいけど、厳しいところは徹底的に厳しかったりするんだ。


「これで君は、正式に我が校の生徒だ」

「はい!」


 校長に言われて、俺は元気に返事をする。

 合格を喜んだところで、次の気になることを体育教師に質問する。

 たぶん、この人が一番詳しいと思った。


「それで、さっきの見えないのはなんだったんですか?」

「あれは、戦闘適性のある者ならいずれ使えるようになる能力だ。授業を受けていれば君も使えるようになる」

「おおっ!」

「本来、戦闘適性のテストで使ってはならないものだがな」


 と、言ってジャージの人たちを睨む。

 彼らが居心地悪そうにしているので、俺は首を振った。


「いいえ! おかげでこの学校に通うのがもっと楽しみになりました。ありがとうございます!」


 最後のはジャージの人たちに向けた。

 彼らは戸惑った様子だけれど、やがて表情が緩んだ。

 うん、終わりよければなんとやらだよね。

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