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06 入学試験



 校長室というところに入り、校長と理事長という人に会った。

 この学校の偉い人らしい。

 村長とミコト様みたいなものか?

 わからんけど、そういうことにしておこう。

 二人はジョンさんの説明を聞き、俺のことを驚き、それから受け入れた。

 ジョンさんがずらずらとたくさんの紙を机の上に並べていたのが、決定打になったようだ。

 紙を出しながらいろんな名前を言っていたので、きっと有力者の名前とかなのだろう。

 俺も、村の治安維持のために周辺の強い人たちと仲良くしたり、その名前を使わせてもらったことがある。

 こういうことができるって、ジョンさんって、けっこう強かな人なんだな。

 そして、こっちでも同じようなことが通用するんだなと思った。


「では、君は一年生ということになるが、その前にテストを受けてもらうことになる」

「テスト」

「筆記と適性」


 なにか、すごく嫌な予感がした。

 そのまま校長室で筆記試験というのをした。


「計算と文章力は及第点だが、科学や魔術学、歴史はダメだな」

「それは仕方ないですね。そういうものに触れる機会がなかったのですから」

「君の言葉を信じるに足る結果ということか」

「むしろ、計算と文章力に問題がないという結果も驚きです。タケル君、誰が君に勉強を?」

「うえ? ああ……ミコト様です」


 筆記試験が終わって机の上で力尽きているとジョンさんに説明された。


「ミコト様というのは?」

「俺の育ての親です」

「言い方がわからないから直接的に聞くが、モンスターかい?」

「ええ、そうです」


 ジョンさんの質問に答えると、周りがざわついた。

 聞いてみると、モンスターが教育みたいなことができるのが驚きだったみたいだ。


「私は、彼をここに連れてくるために引き留めるモンスターたちと契約魔術を結びました。定期的に彼を村へ帰すと」

「っ!」

「君、なんてことを」

「彼らは知恵だけではなく、知性と理性があります。以前の記憶、そして未だ深層に潜んでいる連中とは、明らかに違う。私は、その秘密を知りたいと考えています」

「……君の考えはわかった。しかしそれはそれとして」


 と、校長が俺を見る。


「次は適性の試験だ」

「また、なにか書くんですか?」

「いや、運動だよ」

「運動!」

「とりあえず、走ったり跳んだりしてもらうよ」

「やった!」


 そういうテストなら、得意だ。

 運動場という場所に移動して、さらに体育教師という人も加わった。

 ここからここまで走れとか、手に白い粉を付けて跳んで壁に跡をつけろとか、ひたすら左右に跳んだりとかした。

 単純だけど、動き回れるのは楽しい。

 超楽しい。


「なんなんです、彼?」


 うおお、次はなんだ〜と燃えているのに、体育教師という人がコソコソと校長たちに尋ねている。


「そういうのは後で答えるよ。それよりも、彼はどうだね?」

「どうだね? どれもこれも我が校の記録を更新していますよ」

「ほう。では、そういうことかね?」

「ええ。戦闘適性ありです」

「なら、実際にどれぐらい戦えるか、見てみよう。タケル君」


 と、校長に呼ばれた。


「はい?」

「君、戦闘はできるかね?」

「ええ、まぁ」

「なら、話は早い」


 校長はそばにあった大きな筒みたいなものを叩いた。

 その中にはいくつかの武器が入っている。

 いや、模造品かな?

 練習用?


「この中で、君の好きな武器を選びなさい」

「では、何人か。ああ、ちょうどいい。君たち!」


 俺が筒の中にある武器を覗いていると、体育教師が制服とはまた違うお揃いの格好で走っていた連中を呼んだ。

 俺は筒の中から剣を選んで、ジョンさんに尋ねた。

 木刀がないのは残念だ。


「あの格好はなんですか?」

「あれはジャージだよ。運動するときの格好の一つだ。今日は涼しいからね。暑い時には半袖半ズボンになったりもするよ」

「色々あるんですね」

「君の分も用意しているよ。全部、寮に運ばせている」

「ありがとうございます」

「なに。君を連れてきたのは私だからね。ちゃんとそういうこともさせてもらうよ」


 そのジャージを着た連中が近くに来た。


「いまから彼の戦闘適性を見る。君たちにその相手をしてもらう」


 ジャージたちは体育教師の言葉にいやそうな顔を浮かべた。


「舐めていると痛い目を見るかもしれんぞ。なにしろ基礎能力はすでに校内記録を抜いているからな」

「へぇ」


 あっ、目つきが変わった。


「面白いじゃん」


 一人が筒に近づき、槍を取る。

 これ木剣かと思ったけど、ちょっと違う。

 刃部分がもっと柔らかい素材になっていて、当たってもそこまで痛くないんじゃないかな。

 ううん、こんなんで納得できるのかな?


「時期外れの適性試験なんて、どんな田舎から来たのか知らないけど、強いってなら話は別だ」


 槍の先を俺に向けてくる。


「やろうぜ」

「よし」


 俺が体育教師の反応を確認すると、彼はその声に反応して動いた。

 突きが放たれる。

 狙いは額。

 正確な突きだ。

 避けるけど。

 首をひょいと動かして避ける。


「なっ⁉︎」


 いや、驚いていないで、そこで横に薙ぐとかしないと。

 もう、遅いって。

 はい、しゃがんだから当たらない。

 じゃあ、次は俺がいくよ?

 俺はもうしゃがんだんだから、このまま前に飛び出すしかないよ?

 いくよ?

 いったよ?

 あれ、動かない。

 じゃあ、とりあえずお腹に当てるよ?


 スパァン!


 濡れ手拭いで殴ったみたいな音がした。


「ぐあっ!」


 槍の人は腹を抱えてそのまま座り込んでしまった。


「え? これそんなに痛い?」


 刃のところとかなんか柔らかいよ?


「ぐうっ、うっ……やるな」

「へぇ、おもしろいじゃん」

「じゃあ、次は」

「俺たちともやろうぜ」


 とジャージの人たちが全員武器を持った。


「いいよ」


 動き足りないから、俺は笑顔で答えた。

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