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04 ダンジョン世界の入り口



 クトラとタレアと村のみんなに見送られて、俺はジョンたち観測隊と一緒に山に向かった。

 ラミアのキッタカさんの縄張りの側を抜けていく。

 今度は俺が一緒だから、遠くから見ているだけで襲ってきたりはしなかった。

 ただ、警戒はされてる。

 育児中だからね。

 仕方ないね。


「ダンジョンの入り口というのはどこにあるんですか?」

「もうすぐそこだよ」

「近く?」

「そう」


 ジョンさんはそう言うけれど、俺にはピンと来なかった。

 この辺りは頻繁に見回りしているけど、そんなものあったかな?


「いつもあるわけじゃないんだ。ただ、どこにでもあるわけでもない。座標の固定には条件があってね。彼女はとても気難しいんだ」

「彼女?」

「Dungeon Entrance Generator……通称ディアナだ」

「ディアナ」


 女性の名前っぽい。

 でもダンジョン・エンとらなんとか?


「それって人間なんですか?」

「いいや。現代魔術学から生まれた最先端技術。ここだ」


 と、ジョンは足を止める。

 だけど、あるのは山の斜面の途中にあるちょっとした平地だ。

 この辺りで一晩過ごさないといけないなら、この辺りがちょうどいいかもしれない。

 俺なら村が近くだから帰るけど。


「なにもないですよ?」

「まぁ、見ていなさい」


 ジョンは左の手首を握る。


「ああ、防護服のせいで見えないね。この下にディアナのコントローラーがあるんだ」

「コントローラー?」

「そうは言っても、あちらが指定する座標に来たことを告げているだけで、実際の操作はあちらでしているんだけど」


 やっぱりよくわからない。

 首を傾げながら見守っていると、いきなりなにもない空中に光が現れた。それが広がり、大きな球のようになった。

 これが入り口?

 高さは俺の身長の三倍ぐらいある。

 大爺は入れるけど、キッタカさんはしゃがまないと無理だな。


「さあ、行こう」


 ジョンに促されて観測隊のみんなは中に入っていく。

 俺はちょっと警戒して、彼らが入るのを見守ってしまった。

 うん、ちゃんと入れるみたいだ。


「さあ、タケル君、君も行こう」

「は、はい」


 背中を押されて、ジョンと一緒に入る。

 瞬間、景色が一転した。

 白に近い灰色の石壁に囲まれた味気のない空間。石垣の間に使う粘り石みたいなものか?

 それにしても大量に、しかもきれいに使われているなぁと感心していると、この場を白く照らしていた光がいきなり赤黒くなった。


「ただいまより洗浄作業に入ります。所要時間は60秒です」


 淡々とした声が、いきなりどこからともなく聞こえてきた。


「おっといかん」


 ジョンが忘れていたと言わんばかりに呟き、俺を見た。


「タケル君、濡れるが、我慢してくれ」

「は?」

「なに、代わりの服はすぐに用意してあげるよ」

「なにを……」


 次の瞬間、前が見えないぐらいに激しい水が上から降り注いだ。

 消毒と洗浄なのだそうだ。

 外は人間が住むには難しい環境となっている。

 モンスターの侵攻で地上にいられなくなった後、ディアナが完成して再び地上に行けるようになり、偵察のための部隊が編成された。

 それが観測隊の始まりらしい。

 その時に、大気の成分が変質し、人間が生きていくことができない状態となっていることが判明した。

 以来、定期的に観測隊が派遣され、大気の変化や地上の様子を短時間ながら調査していたらしい。


「そして今回初めて、地上で生活している人間と出会えたわけなんだよ」


 ずぶ濡れの後、新しい服……ひらひらと薄い服を与えられて、俺はジョンさんの説明を聞いていた。

 場所は体を洗った場所から移動して、なにやら白い空間にいる。

 ジョンさんが話している間、白い服を着ている人たちが腕に針を刺して血を抜いたり、口の中を布の付いた棒みたいなものでグリグリされたり、変な冷たいものを腹や背中に押し付けられたり、目に光を当てられたりした。

 医者という人間の体のことに詳しい人が、俺のことを調べているらしい。


「君は、地上ならどこでも行けるのかね?」

「え? どこでもってわけじゃないです」


 一瞬、言っていることがわからなかったけど、さっきの大気の話だなと思ったので、そう答えた。


「村から離れすぎると息が苦しくなるところがあります。でも、そういうところは長居すると気分が悪くなったり、後で熱が出たりするので近寄らないようにしています」

「なるほど。なにか、空気の変化などを感じたりは? 味が違うとか?」

「あ〜ううん……苦い、かな?」

「なるほど」


 そんな感じで医者に質問攻めにされた。

 ええ、これなんなんだろと思うけど、ジョンさんはずっと側にいてくれたので、必要なことなんだろうなと割り切ることにする。


 そんなこんなで、その日はその白い場所で一泊することになった。


「学校は?」

「ここで君の健康が問題ないかを調べ終わったら、連れていくよ」


 ということだった。

 本当かな?

 ちょっと疑いたくなってきたぞ。


 でも、嘘ではなかったようだ。

 医者からの調査? 検査? はそれから三日ぐらいかかった。

 ジョンさんがいない時があったりしてちょっと不安だったけど、すぐに戻ってきてくれた。

 戻ってきた時には、俺の新しい服を用意してくれていた。

 すごく手のこんだ服だ。


「これから君が通う学校の制服だ」

「制服?」

「所属を示す揃いの衣装、という意味になるかな」

「へぇ」


 みんなこんな服を着るのか。

 着てみると、こんなにしっかり俺の体を包むのに引っかかったり邪魔に感じたりすることがなかった。

 すごくちゃんと作られてるんだなと感心した。


「後、君、戦闘系への進学を病院から勧められたんだけど、私がいない時になにかしたのかい?」

「え? ああ……運動テストとかいうのを」

「ふうん。戦うのは大丈夫?」

「大丈夫ですよ。あっちは話せばわかってくれる人ばかりじゃないから」

「人ね……」


 俺の言い方にジョンさんが少し難しい顔をした。

 彼らはモンスターを人だとは思えないのかもしれない。


「それじゃあ、移動しながら人間社会について軽くレクチャーしておこうか」


 そう言って、ジョンさんに従って病院を出ると、今度は動く箱に乗せられた。

 なんだこれ?


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