目次
ブックマーク
応援する
8
コメント
シェア
通報
03 タケルは幼馴染を説得する



 俺は山梁タケル。

 地上の村で暮らしている、ただの村人だ。

 若とか呼ばれているけど、別に偉いわけじゃない。

 畑を手伝ったり、村の外の見回りをしたり、村の外の人たちと交渉をしたりとかそんな生活をしている。

 両親は俺が生まれてすぐに亡くなったそうで、俺を育ててくれたのはこの村の人たちだ。

 だから俺は、俺以外で人間を見たことがない。

 他にいるのは人間っぽいけど人間ではない。

 色んな種族名があるけれど、総じて彼らは自分たちをモンスターという。

 怪物という意味を持つモンスターを自分たちの総称に使うなんて、変な話だと思う。


 今日は驚きの日だった。

 いつも通りに村の境界を見回りしていると、ラミアのキッタカさんが怒っていた。

 なにかと思って見に行くと、彼女が戦っていたのは人間だった。

 なんとか戦いを止めて、話がしたかったので村に招待してみた。

 同じ人間でも危険かもしれないことだったけど、死んだ両親の形見と同じものを着ているんだから、なにか知っているのかもしれないと思ったんだ。


 そして、そこで聞いたのは驚きの内容だった。

 人類は昔、この地上で暮らしていて、そして大きな戦いがあって、いまはダンジョンという場所に移住したというのだ。


  そしてこの人たちの暮らすダンジョンという場所で、学んでみないかと誘われた。

 勉強は、あんまり好きじゃないけれど、人が暮らしているダンジョンという場所は興味がある。

 行ってみたい。

 だけどそれに待ったをかけられた。


「絶対に!」

「行かせない!」


 そう言ってきたのはクトラとタレア。

 クトラはオクトパシアという種族で、タレアはタンガリアンという種族。

 どちらも、俺の幼馴染だ。

 普段は近くの海と山にそれぞれ分かれて暮らしているのに、なんで今日に限って一緒に村にまで来ているのか。


「なにか嫌な予感がして来てみれば!」

「うちのタケルを攫おうとするんじゃない!」

「そこは違う、タケルは私の」

「は? 寝ぼけんな。焼いて食うぞ」

「あら、普段は生食だったのではなかったかしら?」

「お前だって生魚丸呑みだろうが」

「はぁぁ?」

「ああん?」

「なんでいきなり二人で喧嘩始めるかな?」

「「はっ⁉︎」」


 俺のツッコミで二人は我に帰った。

 仲良しめ。


「とにかく!」

「うちらは反対や!」


 近づいた俺にクトラは頭の触手を絡ませ、タレアは腕に絡みつく。

 吸盤を付けないで、そして爪を立てないでほしい。

 さらにジョンさんたちに威嚇をするのもやめてほしい。

 困った。


「まぁまぁ、ちょっと待って」


 ここでいざこざなんて起きてはいけない。

 村の中だし、ジョンさん以外の人たちは、表に出さないようにしているけど、周囲を警戒して殺気立っている。

 さっきも、二人の登場に反応して動きかけていた。

 なんとか止まってくれたみたいだけど、二人がちょっとでも戦う姿勢を見せていたら、どうなっていたかわからない。

 これでも俺は村では外との交渉役もしたりしてたりもするんだから。

 うん、なんとかしないと。


「村から外に遠出するなんてたまにあることじゃないか。今回もそんなものだって」

「いいえ」

「違うね」


 俺の言い分は即座に否定されてしまった。


「きっと帰って来ません」

「同族の嫁を見つけてそのまま居座るね」

「いやいや、そんなことないって」

「じゃあ、私をちゃんと嫁にしていきなさい」

「お前ふざけんなよ。嫁はうちだ」

「はぁ? 料理もできないくせに?」

「お前はその頭のグニョグニョを薄切りにするだけだろうが」

「はぁ?」

「ああん?」

「いや、だからなんで二人で喧嘩するのさ?」

「「はっ!」」


 ほんと、繰り返さないでほしい。


「とにかく!」

「うちらは反対や!」

「ううん」


 困った。


「面白い!」


 そして、ジョンがなにやら叫んだ。


「ここまで人間との共存ができるほどモンスターが進化しているとは! これぞ新たな可能性!」


 そう叫ぶと、ジョンは俺の手を取った。


「君はまさしく人類の未来だ。お二人! 彼は必ずここに連れ帰る! 契約魔術を結んだっていい! どうだろう?」

「「「契約魔術?」」」


 俺たちは揃って首を傾げた。

 ジョンが説明してくれる。

 契約魔術というのは、行動に制限を与える精神支配系の魔術から派生したもので、契約の強制力を高めるために開発されたのだという。

 人々の間でもよっぽどのことがなければ使用されないような、重い契約手段なのだそうだ。


「ええとつまり……交渉の結果に魔術的な強制力を持たせるということ?」

「その通りだ。契約を結んだ条項を破った結果は、その契約次第だが、今回は私の心臓を賭けよう」


 その言葉で、傍観していた彼の仲間たちがざわついた。


「教授! やめてください!」


 助手の人が慌てている。

 だけど、ジョンは自分の言葉を翻さない。


「いいや、これはそれぐらいに重要なことだ」

「そんなに買い被られても困るんですけど」


 俺はただ、同じ人たちがどんな暮らしをしているのかをみたいだけなんだけど。


「「まぁ、いいわ」」


 と、クトラとタレアが言った。

 え? いいの?


「私としてはタケルが無事に戻ってくるのであれば問題ありません」

「うちもや、だから」

「「その契約、結びましょう」」


 よくなかった。

 だけどジョンは乗り気で、周りの制止も聞かずにその契約魔術を行った。


「これで、君を私たちの場所へ案内できる」


 嬉しそうなジョンと相反して、周りの俺への非難の視線がきつい。

 これ、ほんとに良かったのかなぁ?

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?