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02 ジョンが主人公を誘う話



 山梁タケルに誘われて村の中を進んでいく。

 村の中にある建物は、大きさなどに統一感はないが、屋根などの様式は瓦葺のように見える。

 ここはおそらく日本だ。

 日本のどの辺りなのかはわからない。

 モンスターのダンジョンへの侵攻を防ぐために、世界各地にあった入り口は一度全て破壊した。

 そこから改めて入り口を再構築したが、入り口が地球上のどこに繋がったのかはわからない。

 こちらのダンジョンへの理解はそこまで進んでいない。地上に限定できるようになっただけ、まだマシという状態だ。

 山梁タケルの家は村の中心にあった。

 土間と呼ばれる広い玄関で靴を脱いで中に入るようになっている。

 ジョンたちは保護服や保護マスクを外すのを恐れて、靴を脱ぐことはできなかった。

 なので、土間にある高い板間に腰をかける。

 マスクも外せないので、飲み物も断った。


「君は、この村のリーダーなのかい?」

「違うよ」

「でも、若って言われてなかったかい?」


 若というのは、集団のリーダーの子供という意味合いだったはずだ。

 だが、この場合は、若いリーダーの意味ではないかと思ったのだが。


「ああ、村の偉い人によくしてもらってるから」

「偉い人。会えるかな?」

「いまは、ダメかな」

「どうして?」

「いまは起きないんじゃないかな。無理に起こすと不機嫌になるし」

「そうか」


 よくはわからないが、冬眠のようなものだろうか?


「あっ、ちょっと待ってください」


 そう言うと、タケルは家の中に入って行った。


「教授」


 助手の子が近寄ってくる。


「これから、どうするんですか?」

「どうするって、私たちに残されている時間は少ないからね」


 保護服を着たままで活動できるのは限界がある。

 なにしろこちらはトイレに行くことさえ出来ないのだ。

 保護服内の排泄物処理ボックスにも限界はあるし、そもそも保護服を脱げないというストレスは意外に深刻だ。

 長時間の活動は不可能だ。


「ここで聞けるだけの話を聞いて、帰るかな」

「この村の情報は、どうするんですか?」

「もちろん報告するさ」

「それはつまり、戦うということですか?」


 助手が心配しているのはそういうことか。

 つまり、ここは現在の土地が人を養える可能性があることを示している。

 村の作物、水、空気。

 それらを育成したのが山梁タケルであるのなら、彼が普通の人間であるのなら。

 なんの問題もなく健康であるのなら。

 つまり、ダンジョンに追いやられた人類が、地上に戻るためのきっかけとなる情報を彼は持っているということになる。


「ああ、そうか」


 ポンと、ジョンは手を打った。


「彼をこちらに誘えないかな?」

「は?」

「我らのダンジョンに招待するんだ。彼だって、自分の同類には興味があるだろう」


 なにしろ、ジョンたちを危機から救ったのだ。

 人間に興味があるはずだ。


「お待たせしました」


 タケルがなにかを抱えて来た。

 板間に広げられたそれを見て、全員が息を呑む。

 それは、二組の保護服だ。

 いま、自分たちが着ているものと同じ。

 ボロボロに傷んでいるのは経年劣化だけではない。

 明らかになんらかの攻撃を受けて破れている。


「これは?」

「両親のものです」

「両親? 君の?」


 その言葉にジョンはホッとし、護衛部隊たちがほのかに上げていた殺意も消えた。


「そういえば、遺品とかって、言っていたね」


 村に入ってすぐで角のある老人と出会ったときだ。

 タケルの言葉よりもあの老人の圧倒されていたから、聞き流してしまっていた。

 それでも思い出せたのだから良かったと、ジョンは内心で思った。


「俺の両親は仲間とはぐれてこの村で保護してもらい、俺を産んでまもなく亡くなったそうです」

「そうなんだ。それからはずっとここで?」

「はい」


 それからいくつかの質問をして、彼の生い立ちを聞かせてもらった。

 彼は流暢に私たちの使うダンジョン共通語を使う。

 その丁寧な話し方は両親に教わったのではなく、この村のモンスターたちから教わったというのだから驚きだ。

 両親からモンスターに、そしてタケルにという経緯で伝わったのだとしても、この流暢さを維持できているということは、この村に住むモンスターたちの知性はかなり高いと考えるべきだろう。


 ジョンは、俄然、この村に、そしてタケルに興味を持った。


「タケルくん、君、私たちと一緒に来ないかね?」

「え?」

「あいにくと、我々はここには長くいられない。だが、君なら私たちのダンジョンに来ることはできるだろう。そこで、私たち人類のことを学ばないか? 学校もある」


 タケルはよくわからないという顔で首を傾げている。

 学校というものがなにか、よくわからなかったようだ。

 なのでまず、学校とはなにかを説明することとなった。


「へぇ、俺と同じぐらいの人たちが集まるんだ」


 タケルは強く興味を示した。


「そうだよ。どうかな?」

「面白そうですね」

「そうだろう。どうかな?」

「いいと思うんですけど……」

「「ダメよっ‼︎」」


  そこに新たな声が響き、玄関の引き戸が開いた。

 外で盗み聞きしていたのだろうが、しかしそれよりもその姿にジョンは目を見張った。

 そこにいたのは少女、あるいは女の子ぐらいだろう。

 だが、人間ではない。

 一人はなにやら肌が艶やかな様子だ。

 髪の毛にあたる部分が触手のようなものになっている。

 全体的に濡れている雰囲気があり、水棲生物感がある。

 もう一人は体表の一部が獣の皮のようになっている。

 まるで服のようで、その奇跡的な、あるいは何者かの意図さえも感じてしまいそうな造形には感動さえも覚えてしまいそうだ。

 頭の上にピンと立つ三角の耳が、実家にいた猫を思い出させた。


「タケルは!」

「連れて行かせない!」


 二人は声を揃えて、叫んだ。



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