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第62話 二学期の終わり

 魔法実技祭も終わり、気が付けば秋が過ぎ冬の訪れを感じるほど冷え込んでいた。

 制服の上から薄手のコートを羽織った私は、今日も校舎へ向かって歩いている。


 夏と冬なら、私は夏の方が好きだ。

 何故なら、寒くないから。


 そう、私はどうしても寒いのだけは苦手なのである。

 今はまだ騒ぐほど寒くはないけれど、これからまた冬が訪れるのだと思うだけで今から気が重くなる……。


「あっ、メアリー様ぁ! おはようございます!」

「あら、フローラ。おはよう」


 寒さにウンザリする私とは裏腹に、着ていたであろうコートを抱えてながらフローラが駆け寄ってくる。

 極寒ではないけれど、コート無しでは少し冷えるというのに、今日もフローラは朝から元気ハツラツだ。


「寒くは無いの?」

「え? ああ、少し家を出るのが遅れてしまったので、ここまで駆け足で来たので」

「ああ、なるほど」


 たしかに運動すれば、暑くもなるか。

 なら私も明日から、ランニングがてら学園に……来たくはないわね。

 流石に朝から走るというのは、考えただけでしんどい……。


 まぁこの思考の差が、ヒロインと悪役令嬢の差なのだろう。

 活発なフローラと、いつも省エネな私。

 魔法の才能に恵まれたフローラと、平凡な私。

 そして、彼氏持ちのフローラと、婚約解消された私……。


 あ、やばい、心まで寒くなってきたかも……。


「メアリー様?」

「あ、ううん。なんでもないわ行きましょう」

「はいっ! 朝からメアリー様にお会いできて、今日はラッキーだなぁ!」


 嬉しそうに微笑みながら、隣を歩くフローラ。

 その眩しい笑顔に、私の冷えた心もポカポカと温まってくるのであった。



 ――もう、フローラでいいのではないだろうか。


 教室で一人、そんな事をぼんやりと考える。

 自分の恋愛について考えてみたけれど、やっぱり全然分かっていない自分がいた。


 というか、もうそんな事で悩むのが馬鹿馬鹿しいのだ。

 恋愛というものは、考えたところでなるようにしかならないのだ……多分。


 その点、フローラはいい。

 無邪気で、明るくて、可愛くて、女の子に欲しいポイントが全部詰まっている。

 だから私も、もうフローラでいいのではないかと思えてきたのだ。


 この国で、同性愛はどうだったかしら……というところまで考えて、私は諦める。

 だって私は、この国の公爵令嬢なのである。

 立場上、家を継いだり嫁いだりしなければならないからだ。


 ――あーあ、私も男の子だったらいいのに。


 そしたらキースやクロード様のように、毎日モテモテで学園の中心人物に……。


 ……いや、違う。私が成りたいのはそういうのじゃない。


 私はただ、フローラとくっつきたい……じゃなくて、この恋愛のモヤモヤした感情から解放されたいだけなのである。


 まぁキースやクロード様のように、毎日チヤホヤされていれば人生イージーモードなのだろうなぁ。

 もうクロード様とは婚約を解消したわけだし、言ってしまえばより取り見取り。

 きっと二人も、誰かを選んで結婚していくのだろう――。


「メアリー様、何かお考え事ですか?」

「え? ああ、いえ、何でもありませんわ」


 まぁいい、私は破滅を逃れ自由を手に入れたのだ。

 自分の事だけを考えていればいいのだと、今は自分にそう言い聞かせつつ取り巻きの天使達と憩いの時間を過ごす事にした。


 二学期ももうすぐ終わる。

 そのあとは、また長期連休がやってくるわけだけれど、その前に一つ大きなイベントが控えている。


 始まりの日――。


 それは、初代国王様と王妃様が結ばれた日を祝う日。

 詰まるところ、この日は前世でいうところのクリスマス。

 どうやらこの世界でも、クリスマスとほぼ同じ時期に男女にとって大切な日がやってくるのである。


 去年までの私は、クロード様の婚約相手としてご一緒していた。

 とは言っても、お昼の健全な時間にお食事を共にするだけという、至って健全なイベントだった。


 けれど今年からは、その必要もない。

 故にどう過ごすべきなのかが、少し悩ましかったりする。


 これまでは考える必要もなく、予定が決まっていただけに、今年からどう過ごすべきかが分からない……。


 ……いや、別に何かする必要なんてないのだ。

 前世だってそうだったように、クリスマスなんてただの一日。

 男女で過ごさなくても、楽しく過ごす事は可能な事は私が一番良く知っているのである。


 だから今年は、家でロマンス小説でも読みながらゆっくり過ごそう。

 そう決心した、その時だった――。


「メアリー、少しいいか?」


 突然、教室に現れたのはクロード様。

 私を見つけるなり、訳ありの様子で呼び出される。

 丁度今、始まりの日の事を考えていたこともあり少しドギマギしつつも、クロード様からのお誘いを断れるはずもなく素直に応じる。


 ――でも一体、何の用でしょう?


 クロード様の表情から察するに、あまりいい話ではなさそうな気がする……。

 そのまま人気のないところへ連れてこられた私に、クロード様は気まずそうにその口を開く――。


「……その、なんだ。今度の始まりの日の事なのだが……」

「は、はい……?」

「予定は、空いているか……?」


 物凄く気まずそうに、聞いてくるクロード様。

 そりゃそうだ、婚約解消を申し出た相手の、前世でいうクリスマスの予定を確認しているのだから……。

 しかし、何故今更私にそんな事を聞いてくるのでしょう……?


 一人で過ごすのが、嫌だから?

 でもそれなら、わざわざ私に頼まなくても他にいくらでも応じてくれる女性はいるでしょう。

 じゃあ、もしかして私が良いから……?


 ……いや、それはない。

 だったら向こうから、婚約解消を申し出てくるはずがないのだから。

 一度振った相手を、どうしてわざわざ引き戻す必要がある?

 だから変な期待を抱くのは止めよう……いや、別に期待もしてないけれど。

 そう思い私は、素直に答える。


「特に予定はございませんわ。今年からは、一人大人しく過ごそうと思っておりますわ」

「大人しく?」

「ええ、読書でもしながら過ごそうかと」

「そうか……」


 私の返答に、クロード様は少し安堵するような表情を浮かべるも、またすぐに表情を曇らせる。

 普段感情を表に出さない方なだけに、コロコロと表情を変えているのがちょっと珍しい。

 しかし、さっきからクロード様の反応の理由が分からない私にとっては、そんな変化を物珍しがっている場合ではなかった。


 そしてクロード様は、しっかりと私を見つめながら言葉を続けるのであった。


「だったら、今までどおり一緒に過ごさないか?」


と――。


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